西野ジャパンに活力を与えている4選手 (左から)昌子、柴崎、乾、酒井宏【写真:Getty Images & AP】

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W杯2試合で同じ11人を先発に送り込んだ西野監督 初戦で抜擢のDF昌子が急成長

 日本代表は現地時間24日、ロシア・ワールドカップ(W杯)グループリーグ第2戦のセネガル戦で激闘を演じ、2-2と引き分けた。

 初戦のコロンビア戦に2-1と勝利しており、28日のポーランド戦で引き分け以上の結果を残せば、ベスト16進出が決まる状況だ。

 日本は大会前の下馬評を覆す出色のパフォーマンスを披露しているが、そんなチームを支えるのが、ロシアW杯を通じて覚醒した4選手だ。このカルテットは、今やベスト布陣から絶対に外せないほど強烈な存在感を示している。

 西野朗監督は19日のコロンビア戦、24日のセネガル戦で同じ11人を先発としてピッチに送り込んだ。それは裏返せば、指揮官がW杯メンバー23人の中で様々な可能性を考慮したうえで「最適解」と判断した結果と言える。

 11人の顔ぶれはGK川島永嗣、左サイドバックに長友佑都、CBに昌子源と吉田麻也、右サイドバックに酒井宏樹。2ボランチに長谷部誠と柴崎岳、2列目の左サイドハーフに乾貴士、中央に香川真司、右サイドハーフに原口元気が入り、1トップは大迫勇也となっている。

 キャプテンの長谷部をはじめ、最終ラインを統率する吉田、代表キャップ100試合を超える長友ら実力者が揃うなか、世界の舞台で急成長を遂げている一人がDF昌子だ。


「対策は練っていた」男が存在感、セネガルの強力FWマネと互角の攻防

 当初は槙野智章より序列が下と見られていたが、西野監督の信頼を勝ち取ると、コロンビア戦の先発に抜擢された。自身初のW杯ながら、自らの置かれた状況を冷静に分析。「『アイツ緊張してるわ』とか、チームメイトに伝染したら嫌やなと思っていた」と振り返り、周りに影響を与えないように意識していたという。「そういうので心配されると、それだけでマイナス。そういうことがないように『大丈夫、俺は』っていうふうにやっていた。それが上手いこといった」と明かす。

 先を読んだプレーでワールドクラスの相手と互角の攻防を繰り広げ、セネガル戦では鋭い縦パスを通して2点目の起点になった。試合を経験するごとに逞しさを増しており、吉田との連係も向上。日本代表に恥じない堂々たるプレーを見せており、今やこの男を外す理由は一つも見当たらない。

 セネガル戦で圧巻の守備を見せつけたDF酒井宏も、西野ジャパンに不可欠であることを証明した。豊富な運動量で右サイドを激しく上下動しながらも、守備の局面で身体を投げ出すスライディングや激しい当たりで屈強なアタッカー陣を封じ込めている。

 世界水準の攻撃性能を備えるFWサディオ・マネ(リバプール)との1対1でも全く引けを取らず、むしろ酒井宏の対応力が上回ったとさえ言える。原口や川島のミス絡みでマネに1ゴールを許したものの、大半の時間で巧みに抑え込んだ。クセなども分析していたという酒井宏は、「全てを考えて対策は練っていました」と胸を張っている。


真骨頂は仕掛けのドリブル、守備でも周囲と連動してサイドに蓋

 酒井宏は攻撃面でも存在感を放つ。コロンビア戦では右サイドから中央にクロスを送り、そのままゴール前に侵入。大迫の落としからシュートを放ち、あとわずかでゴールという一撃を放った。惜しくもDFに防がれたが、直後の左CKから大迫の決勝へディング弾が生まれている。機を見た上がりで攻撃に厚みをもたらしており、その状況判断も的確だ。左の長友とともに、そのオーバーラップは日本の武器の一つとなっている。

 コロンビア戦後に「前半はすごく良くなくて、チームに迷惑をかけてしまった」と反省を口にした乾も、大きな飛躍を遂げている一人だ。「後半は切り替えて走ろうと思ってやった。少しマシになりましたけど、何度かシュートチャンスもあったなかで決めないといけない場面もあった」と課題を挙げていたが、続くセネガル戦で見事に1ゴールと結果を残した。

「決定力がないとサッカー人生でずっと言われてきて、それは自分でも分かっている。やっている以上、気にせずにやり続けるしかない」と語る乾だが、12日の国際親善試合パラグアイ戦(4-2)でも2ゴールを挙げており、ここにきて決定力を高めている。

 乾の真骨頂は、やはり仕掛けのドリブルだろう。ボールを持てば積極的に局面の打開を試み、相手も対応を迫られるなかで、長友の上がりや香川がスペースに入り込む動きを促している。その一方でパスコースを消す守備時の巧みなポジション取りも際立つ。2ボランチや後方の長友と連動しながら、左サイドに蓋をする守備を見せており、攻守両面で効果的な動きを見せている。


殻を一枚脱ぎ捨てた日本の新たな“心臓” 守備力も備えたハイブリットへ変貌

 そして、殻を一枚脱ぎ捨てたように目覚ましい成長を遂げているのが柴崎だ。長谷部と2ボランチを組むと、長短のパスを散らして巧みなゲームコントロールを見せている。長年、“日本の心臓”と言われた元日本代表MF遠藤保仁が攻撃のタクトを振るってきたが、今やその役割を柴崎が担っている状況だ。

 相手のプレッシャーが激しいと見れば、やや下がり目の位置でボールを受けてリズムを作り、機を見てスルスルと上がりチャンスにつながるパスも通している。試合の流れに応じた状況判断も光り、長谷部とも適度な距離感を保ちながら攻撃を組み立てている。

 そして守備の貢献度も極めて高い。球際ではファウルも辞さないほどの激しさを見せ、ただ単に寄せるだけではなく、積極的に距離を詰めてボール奪取を狙う。さらにこぼれ球への意識も高く、鋭い出足と読みでセカンドボールの回収に努めている。押し込まれる場面でも相手の波状攻撃を防げているのは、中盤のそうした献身的な働きがあってこそだろう。

 日本のプレーメーカーとなった柴崎は、守備でも不可欠なハイブリットタイプへと変貌中だ。セネガル戦後、「ああいった身体能力の相手に対して、さらに対応していきたいと思うし、ある意味では良い勉強になった試合だと思う」と実戦から貪欲に吸収しており、その伸びしろは計り知れない。


「覚醒カルテット」が西野ジャパンの活力、ロシアW杯で歴史の扉を開くか

 4月にバヒド・ハリルホジッチ前監督が電撃解任され、日本サッカー界に激震が走った。西野体制が発足後も依然としてチームの輪郭は見えず、初陣となった5月30日の国際親善試合ガーナ戦(0-2)では3バックシステムなどもテストしたが機能せずに完敗。国内壮行試合を終えても暗雲が晴れるどころか一層濃くなり、W杯の事前合宿へと出発した。

 8日の同スイス戦(0-2)、12日のパラグアイ戦を経て、徐々にチームの骨格が固まり、そして初戦のコロンビア戦を迎えている。西野監督は“ベストメンバー”と判断した11人を送り出し、交代選手も含めて指揮官の期待に応え、見事に金星を挙げた。

 そんな西野ジャパンに活力を与えている筆頭が、昌子、酒井宏、乾、柴崎の4人と言える。日本は過去のW杯で16強(2002年日韓W杯、2010年南アフリカW杯)が最高位だ。果たして、西野ジャパンは新たな歴史の扉を開くのか。“覚醒カルテット”の活躍に懸かっていると言っても過言ではないだろう。


(大木 勇(Football ZONE web編集部) / Isamu Oki)