視覚障害(障がい、障碍)のある方でも映画を楽しめるツールが「音声ガイド」です。この「音声ガイド」があることで視覚障害のある方でも、劇場で他の観客と一緒に観たり、良い音響で楽しんだり、上映中の話題作の感想を家族や友人と語り合ったりできます。

音声ガイドと日本語字幕のついた映画は2016年には7作だけでしたが、2017年には60作にものぼりました。総務省による普及努力義務も後押しとなっています。今回は、視覚障害者のためだけではない、映画の新しい楽しみ方としての「音声ガイド」の魅力を紹介いたします。

1. 音声ガイドの基本
2. どうやって制作されるの?
3. 体験してみた!
4. 体験してみよう!
5. 音声ガイドが拓く映画の可能性

1. 音声ガイドの基本

音声ガイドは目の見えない・見えにくい方でも映画を一緒に楽しめるように、映像の情報を音声で補うサービスです。風景や状況や登場人物の表情などをセリフの合間に挿入し、セリフや環境音だけではわからなかった映画の情報を伝えることができます。

2. どうやって制作されるの?

現在、3社ほどの音声ガイド制作会社が作っています。ひとつの映画を何度も観て、深く理解してから仮の原稿を作り、視覚障害者のモニター数人から意見を聴き修正します。

また、監督の監修が入ることも増えてきて、より監督の意図に忠実なガイドを作れるようになっています。視覚障害のない方でも映画を深く知るために音声ガイドを利用する人も増えているそうです。

3. 体験してみた!

視覚障害のない筆者が音声ガイドを体験してみました。場所は東京の田端にあるシネマ・チュプキ・タバタさんで、映画は『人生フルーツ』。未見作でしたが、終始ずっと目を瞑って音声ガイドだけを聞いて鑑賞しました。

映画が始まるとまず、映画タイトルが読まれます。「そういえば映画タイトルが映画内で発音されることってないんだぁ」などと感心していると、風景描写が始まりました。花や果実をつけた樹木が生い茂った庭が説明されていきます。

ひとつつの言葉を聴くたびにそれを脳内でイメージしなきゃと思うんですが、樹木って言われてもどんな大きさや形をしてるのかわかんないし、知らない花の名前やスイバン(後に水盤だと判明)という謎の言葉も出てきて軽くパニックに! スクリーンに映されている“正解”の映像を脳内でイメージしなきゃ!と思ってものすごく疲れました……。

でもふと「目の見えない方はこの“正解”を知ることはないんだ」ということに気づきました。クイズをやっている訳ではないので(笑)、正解の映像をイメージする必要はなくて、映画の音楽や環境音、セリフ、音声ガイドなど全ての音声情報を聴いて自分の知識と感性で独自のイメージをすれば良い(というかそれしかない……)ということがわかりました。それ以降は、無用な頑張りはやめて自然なペースでイメージしていくことができました。

あと、この時は観客に健常者の婦人が多くて、映画内で何か起きるたびに「あらま〜!」って驚いてみたりのびのびと笑ったり泣いたりする声も聞こえまして、それも映画の理解に繋がる音声情報でした。

実を言うと、音声ガイドだけで観た後に、もう一度目を開けて観なきゃと思っていました。音声ガイドだけでは物足りないだろうと予想していたわけです。しかし、脳をものすごく使って充足感もありましたし、せっかく独自にイメージして作った世界が“正解”を観ることで壊されるのももったいないなぁと感じました。これは体験してみて得た感情でした。

4. 体験してみよう!

音声ガイドを活用しての映画鑑賞はとても気軽にできます。ここではアプリとユニバーサル映画館を紹介します。

UDCast(ユーディーキャスト)

UDCastは、音声ガイドを再生したり字幕や手話を表示できる無料アプリです。映画館だけでなく、自宅でのDVD鑑賞や美術館などでも活用できます。

UDCast→http://udcast.net/about/ UDCast対応作品一覧→http://udcast.net/works/

CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)

シネマ・チュプキ・タバタは、東京の田端にある日本初のユニバーサル映画館です。健常者はもちろん、視覚障害や聴覚障害のある方、車イスの方、また乳幼児をお連れの方もみんな安心して映画を楽しめるシステムとなっています。

シネマ・チュプキ・タバタの支配人である和田浩章氏は音声ガイドの制作者でもあります。今回取材させていただきました。ご協力ありがとうございました!

もちろんシネマ・チュプキ・タバタでは音声ガイドを使わずに観ることもできます。単純に映画館としてステキで、まず椅子の座り心地がいい(これ大事!)ですし、劇場内を包み込むようにスピーカーを配置した音響システム(フォレストサウンド)による音も最高ですよ。

シネマ・チュプキ・タバタ→http://chupki.jpn.org/

5. 音声ガイドが拓く映画の可能性

監督の意図を深く知るツールとして

音声ガイドは制作者が映画を深く理解した上で制作されていますし、監督の監修が入っているものも多くなっているので、より深く映画の意図を知るために活用することもできます。DVD特典のオーディオコメンタリーを劇場で楽しむような感じに近いかもしれませんね。

新しい映画の楽しみ方のひとつとして

先ほどから「音声ガイドで観た」と書いていますが、個人的には確かに「聴いた」ではなく「観た」という感覚がありました。もしかしたら映像をイメージすることで脳の視覚野が刺激されるのかもしれません(ホントかどうかわかんないですよ……)。自分独自の映画体験ができるので、みんなで音声ガイドだけで観てその後語り合うというイベントがあっても面白いなと思いました。

映画が生まれてトーキーやカラーが登場した時「音や色なんかいらない。そんなの映画じゃない」と批判されたようです。その後3Dや4Dが出てきた時も「なんでイチイチ飛び出さなきゃいけないんだ」とか「座席が揺れる必要あるか?」などの声もありました。映画の楽しみ方が増える時には困難がありますが、「音声ガイド」を映画の可能性をさらに広げる新たなツールとして楽しんでみてもいいかもしれません。

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