問題となった危険タックルの瞬間。無防備な選手に背後からぶつかっている(関西学院大学提供)

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アメフトの日本大学と関西学院大学の試合で、日大の選手がプレーとは直接関係のない場所で危険な反則タックルをした問題。あのプレーは選手個人の「暴走」だったのか、それともチームから何らかの「指示」があったのか。

アメフトの社会人リーグ「Xリーグ」でプレーする前田眞郷(しんご)選手はJ-CASTニュースの取材に、現段階で真相は不明だと断りつつも、「1プレーヤーの見解としては、あのレベルの反則を、選手が個人の判断でやることは100%ありえないと思う」と話す。

関学は「正式な謝罪」求め抗議

問題となったラフプレーは、2018年5月6日に行われた日大と関学の定期戦で起きた。試合の冒頭から、日大のディフェンス選手が悪質なラフプレーを連発。わずか5プレーで退場処分となったのだ。

なかでも問題視されているのが、パスを投げ終え無防備となった相手のクォーターバック(QB)に背後から走り込んで強烈な反則タックルを加えたことだ。このプレーで関学のQBは負傷。フィールドを離れることになった。

日大の内田正人監督は問題のプレーについて、

「選手も必死。あれぐらいやっていかないと勝てない。やらせている私の責任」

と話したという。ニッカンスポーツが6日夜に配信したウェブ版記事で伝えている。

こうした問題をめぐって、試合を主催した関東学生アメリカンフットボール連盟は5月10日に声明を発表。該当選手は対外試合の出場を禁止とし、日大の内田監督は厳重注意としたと報告した。最終的な対応は、規律委員会の調査を経て決定するという。

日大アメフト部も同日に公式サイトに謝罪文を掲載し、「今回の事態を厳重に受け止め、今後はこのようなことがないよう、これまで以上に学生と真摯に向き合い指導を徹底してまいります」とした。

だが、関学の鳥内秀晃監督らは12日に記者会見を開き、正式な謝罪を求める抗議文を日大側に送ったことを明らかに。16日を期限とした日大からの返答が誠意のあるものだと判断できなかった場合は、翌年以降の定期戦は行わないとした。

負傷QBは「足に痺れが出ている」状態

また、12日に関学アメフト部の公式ウェブサイトに掲載した文書では、問題のプレーについて、

「競技プレーとはまったく関係なく当該選手を傷つけることだけを目的とした意図的で極めて危険かつ悪質な行為でした(中略)生命にかかわる重篤な事故につながる可能性がある行為だったと考えます」

と厳しく批判。その上で、タックルを受けて負傷したQBの状態について、「試合後に医師から全治3週間との診断を受けましたが、現在足に痺れが出ており、改めて精密検査を受ける予定です」とした。

関学アメフト部の広報担当者は14日昼、J-CASTニュースの取材に対し、「現時点では日大からの返答はない」と説明。また、負傷したQBの家族が、今回の件を警察に相談していることも明らかにした。

このように、大きな波紋を広げている日大選手のプレーをめぐっては、現役選手らアメフト関係者からも様々な意見が出ている。

日本代表への選出経験もある現役ワイドレシーバー(WR)の栗原嵩(たかし)選手は7日のツイッターで、内田監督の試合後の談話を引き合いに、

「この子の勝手な暴走なのか、チームの指示なのか。このインタビューだけ見ると色々心配になる。危険なラフプレーと激しいプレーは全く違う」

との疑問を呟いた。

また、元アメフト選手で現在はスポーツキャスターとして活躍する近藤祐司さんは12日、問題のプレーについて「完全アウトです。アメフトファンとしても本当に残念な出来事でした」とした上で、

「シリーズ開始から3プレー連続で、同じ選手が15ヤード罰退となる悪質なパーソナルファールを犯すことなど普通は考えられません。 チームから、何らかの指示があったと考えるのは、アメフト経験者ならば、普通だと思います」

との持論をツイートしている。

選手の暴走は「100%ありえない」?

はたして、問題のプレーの背景には何があったのか。

関西大学アメフト部OBで、現在は「Xリーグ」で活躍している前田眞郷選手は14日、J-CASTニュースの取材に対し、まだ現時点では「(問題のプレーは)選手個人の判断によるものか、またはチームからの指示であったものかは明らかになっていない段階で、真相は不明」だと強調しつつも、

「1プレーヤーの見解としては、選手はルールを理解して、その範囲を守ってプレーをしています。ですので、あのレベルの反則を、選手が個人の判断でやることは100%ありえないと思えます」

と話す。

続けて、もし選手が勝手な判断で今回のようなプレーをした場合、コーチから激しく叱責を受けるはずだとした上で、

「ですが、試合の映像をみると、そんな様子は全くなかった。しかも、あのプレー以降も(該当の)選手はプレーを続けていましたよね。こうしたチームの対応についても、違和感を覚えました」

とも振り返った。

また、試合の主催者が該当選手や日大の監督に下した処分についても、前田選手は「分からない部分がある」と次のような疑問を口にした。

「もちろん、どういった事情があったとしても、ああいったプレーをした選手がよくないことは事実です。しかし、あのプレーが個人の判断によるものなのか、チームから指示されたものかどうか、その真相が明らかになっていない段階で、選手が最も重い処分を受けているのは、正直納得できないです」

さらに前田選手は、

「指導者から選手へ、トップダウンの指示による体制が未だに多いのが日本の現状です。そこから派生する色んな社会問題がある中で、今回の1件は氷山の一角であり、たまたまこういった形で表面化しただけだと思います。本来は、自ら考え、行動し、仲間と共に一つの目標に向かう中で多くの学びを得る事が、学生スポーツの意義であると感じています。改めてスポーツの価値について考えさせられる出来事だと思います」

とも訴えた。また、取材の中では、今回のプレーに関わった両選手について、次のような思いも口にしていた。

「怪我をした選手が一刻も早く回復する事をお祈りし、また、当該選手がこの1件について、反省すべき点は反省した上で、必要以上に自分を苦しめすぎない様な周りのサポートが重要だと思います」

日大広報「(チームからの指示は)ありません」

一方、日大の広報担当者は14日の取材に対し、「当然ですけれども、監督やコーチがああいったプレーを指示した事実はありませんし、それはありえません」と断言。その上で、該当の選手が故意に悪質なタックルをした事実もないとして、

「あくまでプレーは瞬間的なものですので、こちらとしては、今回の件は偶発的なアクシデントだったと認識しております」

と話した。