“山田編集長”こと山田英司氏。ブルース・リーの国内における版権を管理する有限会社フル・コム代表取締役としての顔も持つ

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「『カリ』(フィリピン武術)で学んだことは確実に生きていると思います。武器が不可欠な時代劇の殺陣は、ひと目で武器の鍛錬をしているかがわかります。

【写真】昔の岡田クンは痩せ細っていた

 簡単に言えば、下手な人は手で動くため剣の重さに振り回されてふらつくけども、うまい人は体幹で動くため、ぶれずに早く動き出せるんです。

 いくら演技がうまくても、殺陣が下手だとちょっと残念ですよね」

 “殺陣”についてそう解説するのは、数々の格闘技雑誌を創刊し、自らも中国武術などを実践、研究する山田英司氏。格闘技界では“山田編集長”として知られる有名人だ。

 そんな山田編集長が冒頭で「うまい」と唸ったのが、昨年公開の映画『関ケ原』で主演を務めた岡田准一。3月2日の『第41回日本アカデミー賞』では、同作で優秀主演男優賞を受賞した。

 『永遠の0』で最優秀主演男優賞、『蜩ノ記』で最優秀助演男優賞を受賞した第38回。『海賊とよばれた男』で優秀主演男優賞を受賞した第40回に続いて、3回目の出席となった岡田。

 今回、『関ケ原』で好演したのが主役の石田三成だ。

「実は武芸に秀でていたという三成の一面をクローズアップし、殺陣や乗馬のシーンに力を入れて岡田さん得意のアクションを生かしたのです。

 また実際に、三成公のお墓参りをするなど、徹底した役作りと準備においては彼の右に出る役者は少ないと思いますよ」(映画配給会社関係者)

 岡田といえば、ドラマや映画において自らアクションをこなすことで知られている。

 その原点となったのが、'07年11月にフジテレビ系ドラマとして放送され、映画化、シリーズ作となった『SP 警視庁警備部警護課第四係』。役作りの一環として始めた格闘技が、彼の人生を変えた。

「リアルな格闘シーンを追求した彼はより実践的な指導を求め、そして出会ったのが、ブルース・リーが創始した『ジークンドー』を正統に受け継ぐ武術家・中村頼永さんでした。

 すっかり格闘技に魅せられた岡田さんは、役作りの範囲を超えて、ジークンドーのほか、フィリピン武術の『カリ』、初代タイガーマスクの佐山聡さんが創始し、中村さんが立ち上げた『USA修斗』をも習い始めたのです」(前出・映画配給会社関係者)

 そして、10年以上にわたって“修行”した彼は、3つの格闘技においてインストラクターとして認定を受けるまでになったのだ。とはいえ素人目には、「何がすごいの?」「芸能人だから特別扱いでしょ?」と、うがった目で見てしまう。

 その岡田の“スゴサ”を検証するべく、山田編集長に聞いた次第だ。

「中村先生はものすごく厳しいことで有名です。講習時間をごまかすなんて許されませんから、仕事をしながら何年もかけて習ったのでしょう。

 われわれからしても“無理だろう”と思わせるトップレベルのプロの課題をひとつずつ、なおかつスパーリング、スタミナなど多様なテストをクリアする必要があります。

(認定インストラクターの)岡田さんはそれをすべてクリアしてきたことになります」

 それだけに岡田の実力はかなりのもの。『SP』シリーズや映画『図書館戦争』などで繰り広げたアクション技術は、役柄を通して見てもプロの目にとまるようだ。

「もともと運動神経もよくてセンスはあったのでしょう。ジャニーズはダンスもうまいと聞きますからね。ただ、それだけであの動きはできません。

 パッと早く動いた動作をひとつとっても、教わったであろう技が連続となって体現されています。おそらく何度も基礎を繰り返し練習して、身体にしみこませるように努力を尽くしたのでしょう」(山田編集長、以下同)

岡田准一はどこに向かうのか

 格闘技を仕事に生かす彼に影響された面々も多い。以前、出演したバラエティー番組で“岡田一門”の存在も明かしていたように、ジャニーズタレントはもちろん、共演俳優らがこぞって岡田に教えを請うているのだ。

 一方で、“一門”のほかにも、お笑い界をはじめ格闘技に興じる芸能人は多いという。それでも、

「格闘技経験者による芸能人大会みたいなものがテレビでありますけれども、そのレベルではないね。

 芸能界最強じゃないですか? 仮に本気で試合をするのなら冗談抜きでプロのリング、『プライド』(かつての世界最高峰の格闘技イベント)のリングに立てる、と私は思います」

 もはや趣味を超えた格闘技愛だが、彼はどこに向かっているのだろうか。何が突き動かしているのだろうか。

「彼はどこに行ってもみんなに知られているわけですよね。格闘技のいいところは、社会上での名前に関係なく、肉体という現実だけで平等に勝負するところです。

 単純に殴り合って“弱いのは嫌だ”というオス的な自己確認ですが、そうして“ジャニーズの岡田”ではない本当の自分を取り戻しているのかもしれません。“岡田准一”という個人を自己確認できる場所が、彼にとっては格闘技なのでしょう」

 そんな“聖域”だからこそ、よりストイックに打ち込めているのだろう。岡田の“ガチ”ぶりがわかるエピソードを明かす。

「聞いた話だけど、例えば組手でパンチを打って、それをいなす練習をするときに、だいたい寸止めをするんです。ところが彼は、パンチをそのまま相手の顔に入れるんだそう。実戦では本気で殴りにきているのだから寸止めではたしかに練習になりませんね。

 “格闘技に対して甘い考えを持っている人間は許せない”という、とても厳しい面をもっているみたいですよ」

 一切の手抜きを許さない姿勢は、ほかの練習生の手本にもなっているようだ。

「男らしい“アニキ”として慕われているようです。あれだけの有名人なのに礼儀正しく、まったく偉ぶらない、そして、下の面倒見がよくて、本当に実力があるから、みんなの“アニキ”になっている。

 われわれの中でも、彼はプロレベルの実力者として、またその素顔を知ってリスペクトする者は多いですよ」

 ちなみに岡田の先輩・木村拓哉は現在、『BG〜身辺警護人〜』(テレビ朝日系)でボディガード役を熱演している。

 岡田とのアクション対決が比べられがちだが……。

「木村さんも身体を鍛え上げて本格的な指導を受けていますが、やはり“なっていない”との声も聞こえてきます。岡田さんの全身を使った“攻め”のアクションとは違い、ボディガードは地味に見えてしまうのかもしれませんね」(テレビ局関係者)

 格闘技に捧げた年季と情熱が違う岡田と比べられるのは酷というものか。それでも山田編集長に聞くと、

「ボディガード役ですから、おそらく(指導を受けているのは)より実践的な護身術『クラヴマガ』ではないでしょうか。自分というよりも、ボディガードとしてクライアントを護るための動きなどに長けた武術です。

(『BG』は)見たことないんだけども、木村拓哉は歌もうまいしダンスもできるんでしょう? 才能もありそうだし、リズム感ある人間はうまいと思いますよ。そうそう、『宮本武蔵』('14年テレビ朝日系)は見ました。殺陣はうまかったですね」

 『SP』と『BG』。テレビ局の垣根を超えた、岡田と木村の夢の競演が見たい!?