業界初 全11席のありそうでなかった「完全個室」バス 実現できたワケとは
2017年1月18日にデビューする「完全個室型」の夜行高速バス「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」。ありそうでなかった「完全個室」バスは、車両の保安基準をある技術でカバーしたことで誕生しました。
定員も「業界最少」
関東バス(東京都中野区)が全席「完全個室」の夜行高速バス「DREAM SLEEPER(ドリームスリーパー) 東京・大阪号」を、両備ホールディングス(岡山市)と共同で2017年1月18日(水)から運行。その車両が1月11日(水)、中野サンプラザ(東京都中野区)で報道陣へ公開されました。
関東バスによると、業界で初めて、全席を扉付きの完全個室とし、「まるでホテルに宿泊しているような感覚」とのこと。11人という定員も、業界では最少といいます。
各個室は幅約85cm、奥行き約160cm(部屋により若干の差異あり)で、全面カーペット敷き。スリッパやミネラルウォーター、アイマスク、耳栓、歯ブラシなどのアメニティが用意されるほか、コンセント、充電用USBに加えて車内Wi-Fi、プラズマクラスターイオン発生機なども備えられます。トイレは温水洗浄機能と水浄化機能付き。パウダールームも独立して設置されます。
「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」の車両は、三菱ふそうトラック・バスの「エアロクィーン」(写真出典:関東バス)。このバスの最大の特徴は、全室扉付きで、仕切りが天井まで達していること。これまで、座席の前後や側面を部分的にパーティションやカーテンで区切ることにより個室空間を作るバスはありましたが、天井まで扉と壁で仕切った“完全個室”は初めてです。
ありそうでなかった「完全個室」、それを実現したある工夫
新型のバス車両を走らせるためには、まず、国が定めた道路運送車両の保安基準に適合させなければなりません。完全個室とするうえで保安基準上まず課題となるのが、ワンマンバスには運転席から旅客の状況を確認するルームミラーなどの設置が義務付けられているという点。個室が並ぶ車内で、運転席からルームミラーで旅客の状況を確認することは、物理的に不可能です。
この基準に対し、たとえば両備グループの中国バス(広島県福山市)が横浜〜広島間で運行している「DREAM SLEEPER」(定員14人)では、“個室”の4席には室内に、カーテンで仕切る10席には通路の天井に複数のカメラをそれぞれ設置し、運転席のモニターで車内の様子を把握できるようにしています。
「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」の運転席。車内の様子を映し出すみっつのモニターを備えている(2017年1月11日、中島洋平撮影)。「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」では、全個室内の後方上部にカメラを配置し、その映像を運転席にあるみっつのモニターに映し出せるようにすることで、保安基準をクリア。“完全個室”を実現しました。
個室内の後方上部に取り付けられたカメラ。室内の映像を、運転席で一元的に確認できる(2017年1月11日、中島洋平撮影)。また、個室の扉が開いていれば運転席のランプが点灯し、出入りも把握できます。ただし個室内カメラはプライバシー保護のため、乗客が座った状態ではモニターに映らないようになっています。
東京〜大阪間2万円 新幹線グリーン車より高額 ターゲットは?
「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」は、東京の池袋駅西口と大阪のなんば(OCAT)、両備バス門真車庫のあいだで1日1往復の運行。大阪行きは池袋22時50分発、なんば6時40分着、門真車庫7時30分着。東京行きは門真車庫21時50分発、なんば22時40分発、池袋6時40分着です。
片道の価格は、東京〜新大阪間を新幹線「のぞみ」グリーン車で移動するときの代金に匹敵する大人2万円(2017年2月28日までは運行記念割引として大人1万8000円)。9000円の運賃に、1万1000円の座席料金という内訳です。
車両開発の責任者である両備ホールディングスの松田敏之副社長によると、この価格は、約1億円の車両開発費を8年で償却することを考えて割り出されたもの。新幹線に宿泊料金を含めた場合などと比較して、十分需要があると見込んだそうです。
「『DREAM SLEEPER 東京・大阪号』では、移動中にホテル同様の休息時間を過ごせるだけでなく、深夜発、早朝着で移動前後の時間も有効活用できるという付加価値が価格に反映されています。移動で宿泊を兼ねるので、たとえば東京〜大阪を往復して2泊3日となるところを、0泊3日で済ますこともできます。『時間を有効に使いたいからバスを選ぶ』というお客様に乗っていただきたいです」(松田副社長)
“完全個室”は実現されましたが、日本の車両保安基準上、座席をフルフラットにすることはできません。しかし、「浮遊感を感じながら深く眠ることができる」(関東バス)という「ゼログラビティシート」の採用で、フルフラットとは一線を画した眠りを提供するとのこと。背もたれを40度、座面を30度傾斜し、フットレストを水平にすることで、「胎児がお腹の中にいる状態」を再現するというシートです。これは横浜〜広島間の夜行高速バス「DREAM SLEEPER」でも採用されています。「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」では、フットレストも電動になり、ボタンひとつで「ゼログラビティ状態」になる機能が加わりました。
おもにビジネス利用と女性を想定しているという「DREAM SLEEPER 東京・大阪号」。両備ホールディングスの小嶋光信会長は、「『安く運ぶ』から、バスに『乗ることが目的』になる車両。価格競争で疲弊してしまったバス業界を、『憧れの業界』に変えていく牽引(けんいん)役にしたい」と言います。このバスの事例が今後、他社にも波及し、夜行バスの進化を促していくかもしれません。
【写真】個室の内部
NASAの理論に基づき、「胎児がお腹の中にいる状態」を再現するという「ゼログラビティシート」を採用している(2017年1月11日、中島洋平撮影)。元の記事に戻る