『君の名は。』の新海監督、おじさんなのになぜ女子高生の気持ちが分かる?にショック
映画『君の名は。』の新海誠監督が現地時間9日、韓国で開催中の第21回釜山国際映画祭でトークイベントを行った。司会を務めたのが新海監督と旧知の仲であるアニメーション「ウルフ・ダディ 〜パパが必要なの〜」のチャン・ヒョンユン監督とあって、青春時代の恋の思い出から製作スタイルまで、リラックスムードで約50分に渡って語りつくした。
まずチャン監督から『君の名は。』について、村上春樹の小説「ノルウェイの森」の影響が感じられることを指摘されると、新海監督は「僕は高校生の時に初めて『ノルウェイの森』を読んだのですが、正直、よくわからなかったんですね」と告白。続けて「読んだ人にはわかると思いますが、ちょっとセクシャルな描写がたくさんあるんです。高校生の時はそこだけ読んでました」と打ち明け、会場の笑いを誘った。
しかし大学生になって改めて小説を手にし、物語に魅了され、繰り返し読むようになったという。新海監督は「僕と村上氏が何か共通しているとすれば、村上氏も初期の小説は比較的散文に近く、ある時以降から物語作家になっていったと思います。振り返れば僕も似たルートをたどってきていて『秒速5センチメートル』(2007)は散文的な作品だったと思いますが、徐々に物語の構造に興味が出てきて『君の名は。』のような作品になったと思います」と分析した。
また、『君の名は。』はさまざまなアニメや映画との関連性を取りざたされることを意識してか、新海監督は「今回は(自分が影響を受けた)いろんな作品を参考にしたんです。パッチワークというと恥ずかしいのですが。でも、そういうことを続けて行くうちに自分の表現を発見できた。なので『君の名は。』は自分の作品だといえる内容になったと思います」と胸を張った。
日本で138億円を突破した記録的な興行成績(配給調べ)はここでも話題に。それに合わせて新海監督への注目度も高まっているが、日本のテレビ番組で女子高生と共演した際、「監督は40歳を超えたおじさんなのに、なぜ女子高生の気持ちがわかるんですか?」と尋ねられてショックを受けたというエピソードを話すと、会場は大爆笑に包まれた。
新海監督は「その時は、物語を作る人というのは女子高生の気持ちを想像するんですと答えました。でもそれだけではなく、自分が女の子に告白してうまく行かなかった時の痛みとか、一緒に下校することになって楽しかった時の感情が、今でも心の中に残っているのだと思います。なので今の生活している時の感情そのものが、将来のとても大事な宝物になると思うんです」と説明。
実際、宇宙と地球とで離れ離れで暮らすことになる主人公たちのメールが、徐々に時間を要するようになり心がすれ違っていくという商業映画デビュー作『ほしのこえ』(2002)は、新海監督が当時の彼女からメールの返信が途絶えた苦い思い出がヒントになっているという。
「その時、『彼女は遠くにいて、電波がなかなか届かないんだ』と解釈するしかないと思ったんですね。そういう日常の出来事がヒントになりました。そうした楽しいこともつらいことも、大切にとっておけば、良い映画監督になるための大事な持ち物になると思います」と語り、ファンだけでなく、会場にいるであろう若いクリエーターたちにエールを送った。
韓国での『君の名は。』の公開は2017年1月で、300スクリーン以上での拡大上映が決定しているが、会場からは早くも次回作についての質問も飛んだ。新海監督は具体的には決まっていないことを説明しつつ、「今回は男女交互で(セリフを)ハモったり、音楽と物語のシンクロとか、自分の好きな演出で、メジャーな場所で作ってみたいと思って挑んだ作品だったんです。言ってみれば苦手なところには踏み込まなかった。これをやり続けるわけには行かないので次が困るかな」と語った。
さらに続けて「ただもう一回、多くの人に楽しんでもらえるようなエンターテインメントを作りたいと思っています。たまたま1回だけそれができちゃったような感じがするので、もう1回、それが自分でできるのか、確認したいと思ってます」と語り、世間の喧騒とは裏腹に、心は次への目標に向けて歩きはじめているようだ。
新海監督は今後、『君の名は。』がコンペティション部門に選出されている第60回ロンドン映画祭(10月5日〜16日)に参加する。(取材・文:中山治美)