終盤に差し掛かったリオデジャネイロ五輪で初出場の"タカマツ・ペア"が金メダルを獲得した。

 バドミントン女子ダブルス決勝で、高橋礼華とともにクリスティナ・ペデルセン/カミラ・リターユヒル(デンマーク)と優勝争いをした松友美佐紀は試合後、「あの接戦の場面であの球を打てるなんて、すごい上手だなと純粋に思って......。本当に彼女たちと戦っていて楽しかったです」とうれしそうに話した。

 対戦相手は32歳と30歳のベテランで、何度も戦ったことのある、互いに手の内を知っている相手。特にファイナルゲームは、相手との駆け引きを楽しみながら試合ができたという。

 グループリーグから準決勝まで危なげなく勝ち上がってきたタカマツペア。ふたりはこの大会に世界ランキング1位として、追われる立場で臨んだ。だが彼女たちはその肩書にも、何ら重圧を感じることはなかったと語る。

 松友は「去年4月から12月まで世界ランキング1位だったときに、『勝たなければいけない』などと考えて、それがプレッシャーになって結果を出せないことが続く経験をしたので......。ランキング1位というのはもちろんうれしいし、大事にしなければいけないけど、それよりも自分たちが試合の中で、今までやってきたことをどれだけ出せるかを考えるようになりました」という。

 また高橋も、「五輪出場が決まってから『世界ランキング1位だから金メダル』と言われた時は『あっ、こういう風に言われちゃうんだ』と思い、それから2〜3カ月間はプレッシャーを感じていました。でも合宿に入ってからはいつもと変わらない感じで、どちらかというとリラックスしていました」と振り返る。そんなふたりだからこそ、五輪という大舞台でも試合を楽しむ気持ちを持てたのだろう。

 しかし、日本ペアが優位かと思われた試合は大接戦となった。ペデルセンとリターユヒルは身長が178cmと183cmの選手。その長身を生かした強打とパワーは要注意だった。第1ゲームは主導権を握られ、終盤は粘ったものの18対21で落としてしまう。

「第1ゲームは私がけっこうひどかったから。デンマークのふたりは、どんどん強打を打ってきて勢いに乗るとめちゃくちゃ強いので。それに決勝で彼女たちと当たるのは初めてだし、向こうも本気で五輪に勝ちにきていると思って最初は少し硬くなってしまいました。でも自分たちがうまく高い球を使って相手を走らせて、穴を作っていくことができれば崩せるという試合を何回もやってきているので。2ゲーム以降はそういう展開に持っていけました」(松友)

 そう語る通り、第2ゲームは序盤からリードを奪って21対9と圧倒的な強さで取った。ところが、最終ゲームはデンマーク組も、優勝候補だった中国を破って勝ち上がってきた自信と、ベテランの意地を見せてきた。

 序盤から競り合いの展開になり、幸運というより執念でもぎ取るネットインでのポイント獲得を何度か繰り返す。終盤にはデンマークが3連続ポイントで16対19とし、あと一歩というところまで高橋と松友を追い込んだ。

 それでもふたりはあきらめなかった。松友は「あそこでは正直、負けるかなと思いました。だからとりあえず1本は、相手に『オーッ』と思わせるような球を打ってやろうと思って。多分それで前向きになれたのだと思います。でも試合中は本当に楽しかったし、最後の2〜3点は無心でやっていました」という。

 高橋も「本当に一瞬だけ『ここで負けちゃうのかな』と思ったけど、前の日にレスリング伊調馨選手が逆転勝ちをした試合を見ていたので、それを思い出して『ここからでも逆転はあり得るな』と気持ちを切り換えました」と笑顔で話す。

 1点、2点と差を詰めていくと、相手も焦り始めて凡ミスが出るようになった。そこを突くように、5連続ポイントで21対19とし、劇的な逆転勝利を収めた。

 自分たちの勝因を高橋は「実力的には世界一の力はないと思うけど、コンビネーションは本当に世界一だと思っています。そういう力を出せれば自分たちは負けないというのを、(2014年の)スーパーシリーズファイナルで優勝したあたりから思うようになったのが大きかったと思います」と分析する。

 また、松友は「自分たちがやってきたことを出せば大丈夫だというくらいに準備をしているし、いろいろなことを経験してきているので。それに私たちは別に世界ランキング1位を目指しているのではなく、今まで勝てなかった相手に勝ちたいとか、自分たちが楽しいと思えるようなバドミントンをしたいと思い、本当にバドミントンを純粋にやっているのだと思います」と説明する。

 松友は初めての五輪の感想を聞かれると、意外なことを述べた。

「今回の五輪は長かったけど、試合をどんどんやっていくうちに『たぶん五輪で最後と決めている選手がたくさんいるだろうな』と思ったら、自分の中ではそれがすごくつらくなってしまって......。いろんな選手たちがいたからこそ今の自分たちがあるのだと思うと、何か『もう戦えないのかな』と思って悲しくなってきました」と言って、目を潤ませる。

 そんな繊細で素直な心を持つ松友と、1年先輩として、高校時代から松友の繊細さを包み込みつつ、持ち味の強打のように自分たちへの自信をストレートに表す高橋。そんな真逆ながらもバランスのとれたペアだからこそ、初出場の五輪でしっかりと優勝という結果を残せたのだろう。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi