我が子を手にかける鬼のような母親、という物言い。ベビーカー論争に代表される、公共マナーとしつけを巡る果てしない議論。「イクメン」という言葉に見られる、ジェンダーの非対称性。1冊の小説を読み始めてから本を閉じるまで、さまざまな言説が脳裏を掠めて消えていった。角田光代『坂の途中の家』である。とても恐いサスペンスであると同時に、考えるための種を読者に植えつける、示唆に富んだ作品でもあった。これほどまでに