■緊急特集「よみがえれ! 日本サッカー」(12)

 アジアカップの後、オーストラリアではサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)が悲願の初優勝を遂げたことが大きな話題となった。

『The Age』(高級紙)が「アジアカップの優勝は、今後の成功の氷山の一角に過ぎない」と、未来への期待が膨らむ成功だったと称えれば、『The Daily Telegraph』(タブロイド紙)は「ケーヒルはビッグゲームで魔法を出せなかった。だが、それは結果に関係なかった」と若手の台頭を喜んだ。

「我々には勝者で終われるという自信があった。自分たちのプライドを胸に、しっかりとチャンスを掴んだだけのこと。これでオージー(オーストラリア)は世界のトップに挑戦できる」

 自国開催で優勝への自信があったとはいえ、ギリシャ系オーストラリア人のポステコグルー監督も、2017年コンフェデ杯(ロシア)への出場権を手にし、ご満悦だった。

 そんなオーストラリアが、おそらく18年ロシアW杯予選でも、日本にとって大きなライバルになることは間違いない。では、オーストラリアメディアはいったい日本の戦いぶりをどう見ていたのだろうか。

「得点だけが足りないが、出場チームのなかでもっともいいサッカーをしているのは日本だ。やっているサッカーを見れば、日本が優勝候補のひとつなのは間違いない」

 大会開幕直後にそう語り、日本を称賛していた『The Courier Mail』のマルコ・モンテベルデ記者だが、いまは少し違う感想を持っているという。

「日本のパスをつなぐスタイルは好きだが、いくらパスを回し試合を支配したとしても、得点できなければ試合に勝つことができないのがサッカーだ。それを象徴していたのがUEA戦といえるが、日本はどの試合も優位に進めながら、それをスコアに反映することができなかった。あれだけの試合をしているのだから、もっと執拗に得点を狙うべきだった。

 試合を支配しながらも、なぜ肝心なところで弱腰になってしまうのか。日本の個々の選手を見れば、経験や技術という点では間違いなくアジアの中でトップだと思うが、チームとしての連係という意味でそれが生かされているかは疑問だった。3トップ(本田圭佑、岡崎慎司、乾貴士)のコンビネーションもお粗末で、チームとしてどうやって点を取るのかが見えず、対戦相手にとって怖さがなかった。アギーレ(前監督)の八百長問題などで選手が大会に集中し切れていなかった面があったのかもしれないが、それにしても積極さを欠く戦いぶりは残念だった」

 そしてモンテベルデ記者は、こうも付け加える。

「何度か日本の記者会見にも出たが、たとえパフォーマンスが悪かったとしても、メディアはそれについて突っ込んでいなかったように思う。ある試合で個人のミスが目立ったとすれば議論になるのが普通だが、それもお咎(とが)めなし。オーストラリアは自国開催で大きなプレッシャーに晒されながら、それに打ち勝ち、優勝を遂げたが、日本の周囲からはそのような厳しさは感じられなかった」

 パスを回してばかりで怖さがない。そして代表チームを取り囲む全体の緩い雰囲気がモンテベルデ記者には目に付いたようだ。

 一方で、アデレード在住で近年アジアサッカーを幅広く取材するフリーランスのポール・ウィリアムス記者は、オーストラリアと日本には、決定力と世代交代の進歩の差があったとした。

「チャンスに決め切れたか否か。オーストラリアは韓国とのグループリーグ最終戦を除けば、全試合で複数得点し、多くの得点パターンを持っており、相手にとって予測困難だったはず。それに対し、日本の攻撃は予想の範囲内。右からの本田の仕掛け頼みで、常にギアをセカンドに入れたままの状態に見え(スピード不足)、UAE戦では試合を完全に支配しながら再三のチャンスを生かせなかった。オーストラリアが成功に貪欲だったのに対し、日本は黙っていても成功が自分たちに転がり込んでくると考えていたようだった。

 決定機を逃すのはいまに始まったことではないが、期待外れもいいところで、本気度が感じられなかった。また、オーストラリアは22歳のMFマッシモ・ルオンゴや23歳のDFトレント・セインズベリーといった多くの若手がブラジルW杯以降に台頭し、ティム・ケーヒルやマーク・ブレシアーノ(いずれも35歳)らの依存度が減ったのに比べると、日本は遠藤保仁や長谷部誠、川島英嗣らをはじめW杯からほとんどメンバーが変わっていなかったのが気になった」

 皮肉にも、大会を通して好機を逃し続けた日本に対し、オーストラリアはベテランのケーヒルが通算3ゴールを挙げながらも、大会最優秀選手には2ゴール4アシストのルオンゴが輝くなど、世代交代を進めながら結果を手にしたのである。

 前出のモンテベルデ記者は「(準決勝で対戦の可能性があった)日本がUAEに敗れたことはある意味ラッキーだった」と、オーストラリアにとっては日本が対戦を前に姿を消してくれたことは少なからず助けになったとも言う。だがウィリアムス記者は、日本は「相手がどこだろうと、メンタルの改善なしにはこれ以上の進歩はないのではないか」と語る。

「オーストラリア人は、とくに物事が思い通りに進んでいないときに強いメンタルを発揮する。だが日本では、代表に限らず、たとえばJリーグでも13年の横浜、14年の浦和がそうだったように、優勝争いで大きくリードしながらプレッシャーに耐えられず終盤に失速している。日本人のメンタルは大きな期待を背負ったときこそ脆くなるように見える。難しい状況に置かれたときに自らを駆り立て、違うアプローチを模索するような心の強さがないのは、監督を代えればどうにかなる問題ではないし、日本国民全体の問題かもしれない。そういう意味で、日本がさらに進歩するには、人と違うことを恐れない本田のような心の強い選手がもっと必要になってくるのではないか」

 振り返ればUAE戦。日本最後のPKキッカーとなった香川真司が自信なげにスポットに向かう姿を見て、「外しそうな雰囲気があった」と言ったオーストラリアの記者は少なくなかった。

 気持ちで試合に勝てるわけではないが、気持ちがなければ勝てないと思うのは、国内も海外も一緒。アジアカップを精力的に取材していた2人のオーストラリア人記者が指摘するように、技術で勝り、支配率で上回ったとしても、試合に負けたら意味がない。

 日本は少しばかりボール回しに酔っていなかったか。ならば日本にとって、アジアカップ敗退は、サッカーの本質を見つめ直すうえでいい機会だったのかもしれない。

栗原正夫●文 text by Kurihara Masao