人気企画にはウケる理由がある

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【ラリー遠田のお笑いジャーナル】

 12月24日、DVD『とんねるずのみなさんのおかげでした 全落・水落オープンBOX』が発売される。これは、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)の人気企画「全落オープン」「水落オープン」過去8大会の模様を収めたもの。ゴルフの大会に見立てて、タレントが穴に落ちる美しさを競い合う、一種の落とし穴ドッキリ企画だ。DVD発売を記念して、12月25日オンエアの『とんねるずのみなさんのおかげでした スペシャル』では「水落ハワイアンオープン」が放送される。

 落とし穴ドッキリ企画を面白く見せるためには、どうしても忘れてはいけないことがある。それは、なぜ落とし穴に落とすのかという理由付けを明確にする、ということだ。そもそも、落とし穴に落とされるというのは結構大変なことだ。日常生活で私たちが自分の友達に内緒でそれを仕掛けたら、絶交されてしまっても文句は言えない。それだけ大がかりでリスキーな行為なのだ。

 テレビバラエティでもそれは同じ。何の理由もなく人を穴に落としても、ただかわいそうに見えるだけであまり笑えない。きついことをあえてやるわけだから、そこにはそれなりの工夫が必要になる。

 ドッキリ企画には必ずと言っていいほど、そこに至るまでの仕掛けが用意されている。ただ穴に落として終わり、ではない。そこに企画の面白みがある。

 例えば、「全落・水落オープン」では、落とし穴に落ちることをゴルフのカップインに例えている。石橋貴明演じる世界のAO木(青木功のパロディキャラ)が、ゴルフ解説の要領で、落とし穴に落ちるまでのコース取りについて事細かに説明を加えていく。そして、タレントが落とし穴に落ちると、その落ち方が美しいかどうかによって「バーディー」「ボギー」などとゴルフになぞらえた評価を受ける。すべてにゴルフというパッケージングが施されているのだ。

 確かに、人が落とし穴に落ちる瞬間の何とも言えない爽快感は、ゴルフでボールがカップに入って「コトン」と小気味いい音をたてるあの瞬間の爽快感にも似ている。ゴルフに見立てるという発明によって、落とし穴の面白さが最大限に引き出されている。

 他の番組でもそれは同じだ。例えば、『ロンドンハーツ』の「ブラックメール」という企画では、共演する女性の誘いにつられて下心むき出しで近づいていった男性芸人が、最後は落とし穴に落とされるというお決まりのパターンがある。これは、仕事そっちのけで共演者に下心をむき出しにした彼らに対するお仕置きである、という意味付けがある。だからこそ、落とされるという流れに無理がなく、自然に笑えるつくりになっているのだ。

 ただ、この落とし穴企画を行う上で、大前提となっていることが1つだけある。それは、徹底した安全性の確保だ。

 タレントを落とし穴に落とすというのは、かなり大がかりで手間がかかる。ケガをさせたり事故を起こしたりすることは絶対に避けなければいけない。そのために、安全性を確保するための工夫が施されている。視聴者の目には見えないところではあるが、作り手が最も留意するのはこの点である。

 実際、一般人がテレビバラエティの真似事をしようとして、友人を落とし穴に落とし、死亡させてしまった痛ましい事故の例もある。落とし穴は、素人がうかつに手を出してはいけない代物なのだ。

 落とし穴にはテレビバラエティの醍醐味がある。なぜなら、そこには膨大な予算と手間がかかる上に、経験豊富なスタッフによる熟練の技が欠かせないからだ。本格的な落とし穴ドッキリだけは、今のところ素人には真似ができない。

 落とし穴企画は、それを作る人も、考える人も、落とす人も、落とされる人も、それぞれが一流のプロフェッショナルだからこそ成り立っている。「匠の技」としての落とし穴をこれからも堪能してほしい。

ラリー遠田

東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある