世界タイトルを獲得するまで、いつかはたくさんのことを「捨ててきた」という。この数年間、すべてを投げ打って格闘技に専念してきたのだ。
 「人と同じことをしていたら世界タイトルは獲れないですから。お正月も練習だし、友だちとはここ何年かちゃんと遊んでないですね。小学生時代からの親友の結婚式に行けなかったのは悲しかったですけど…。目標を達成するためには、その分、何かを捨てなきゃいけないんですよ」
 世界戦に勝った瞬間、いつかが感じたのは嬉しさよりも感謝だったという。トレーナー、ジムの仲間、家族や友人。格闘技に専念できたのも、周りの支えがあったからこそだった。

 世界王者になった今、いつかの目には新たな光景が見えている。
 「日本には闘いたい相手もいないし、試合をするなら海外がいいですね。タイに乗り込むのもいいし、香港やマカオでも格闘技が盛り上がっていると聞くので。そうやって活躍の場を広げて、自分の存在をたくさんの人に知ってほしいです」

 目標を持つことの素晴らしさ。努力すれば夢は叶うということ。それを伝えていきたいといつかは言う。
 「特に地元の人たちですよね。宮城は(東日本大震災の)被災地ですから…。悩んでいたり、目標がないという人たちに、私を見て『自分も何か頑張ってみよう』という気持ちになってもらえたら」

 以前から“見られる”ことへの意識は高かった。試合でもヘアメークとまつ毛エクステを欠かさず、コスチュームもオリジナルのものを用意する。どれだけ強くなっても、女性らしさを失わないのがいつかのモットーだ。
 「見た目には凄く気を使っていますね。格闘技をやっているからって、身なりが男性っぽかったり華がないのはプロとしてどうかなと。格闘家もプロである以上はエンターティナーなので。勝てばなんでもいいってわけじゃないんですよね。強くて、なおかつ女性らしいというのが理想。強くなりたい、勝ちたいだけじゃなくて、輝きたいんです」

 かつて女性らしさとは無縁の世界だと思われていた格闘技だが、現在は女らしさと強さが自然に結びつく時代になっている。
 ダイエットやストレス解消のためのスポーツとしても、キックボクシングは人気だ。いつかが指導を担当する『東京ガールズキックボクシング部』には、130人もの会員がいる。
 「女性でも自己表現したいのは当たり前。格闘技もその一つなんだと思います。女性は弱いからこそ、強くなりたいという気持ちが大きいのかもしれないですね。選手にならなくても、キックで体を動かすのは楽しいですよ。だって、殴ったり蹴ったりするのって楽しいじゃないですか(笑)。それは男性も女性も変わらないんです」

いつか
1984年宮城県出身。モデルやレースクイーンとして活動しながら、'05年に総合格闘技に参戦するも全敗。だが'11年よりキックボクシングに転向すると才能が開花。今年9月、WPMF世界女子フライ級王座を奪取。