「FASTENING DAYS」は、ファスナーのトップメーカーであるYKKが、Fasten=「 “つなぐ”ことの大切さ」を、ブランディングメッセージとして世界中に伝えていくことを目的として制作したアニメーション。ベーシックなものから、伸張性ファスナーや水密ファスナー、気密性ファスナー、蓄光ファスナーなど、登場するファスナーは、実際にYKKが取りそろえる多種多様なファスナーをモチーフにしている。
監督は石田祐康。音楽は砂原良徳。エンディングテーマはPerfume。

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YouTube公式チャンネルで公開された「FASTENING DAYS」が大人気だ。
石田祐康監督の最新作。
ファスナーを発射する小型メカを使う少年少女の活躍を描いたショートアニメだ。
音楽は砂原良徳。エンディングテーマは、Perfume「Hurly Burly」。
制作はスタジオコロリド。
まずは観てほしい。


石田祐康監督は、2009年に全編大激走のアニメ「フミコの告白」を発表。
2013年に『陽なたのアオシグレ』が劇場公開(レビューはこちら)。
疾走感を軸に、暖かさとパワーを放射するアニメーションをつくり続ける26歳。
「FASTENING DAYS」について、監督は“様々な面での初挑戦も相まり思わぬ苦戦をすることとなりましたが、スタッフの協力を借りて、結果とても軽快で楽しげな作品になったのではないかと思います。どうぞ気軽に観て楽しんで下さい!”とコメントしている。
どういうところが初挑戦で、思わぬ苦戦だったのか?
話を聞きに、スタジオコロリドへ行ってきたよ!

パンチラがない

──メインキャラのパンチラが今回ないですよね?
そこ、ですか(笑)。毎度お騒がせしてすみませんって感じで。そのへんは配慮してスパッツはかせてます。
──(『陽なたのアオシグレ』のときより)年齢がちょっと高いから、とか?
そんなことな……、いや、あれ、どうだろう。小学五年生だったかな。『陽なたのアオシグレ』は小学四年生だからちょっとだけ上ですね。その代わりっていうのも変ですが、洗濯モノを干しているシーンで。
──ちゃんと登場させている(笑)。
この二人、日本の女子大生とイギリスのイケメン男子のラブラブカップルなんです。舞台が多国籍の日本ぽいどこかの国という設定なので、いろんな国籍の人が一緒に暮らしています。こういう組み合わせが本編中いっぱいあります。

東京と佐賀とサンフランシスコ

──こどもたちの国籍も多様ですよね。
舞台が未来なんです、といっても遠い未来じゃなくて近未来。自動車もふつうに走ってる。でも、電気自動車で三輪車仕様だったり。町中の看板がディスプレイになってたり。
──街の描写も独特で緻密で。
日本の東京のビル群と佐賀の路面電車の感じとサンフランシスコの街がごっちゃになったような、どこか、なんです。海面が上昇して、海がだいぶ陸地に入ってきている。地形がリアス式海岸的に複雑になっていて、少し陸のほうに追われた人間が海岸線沿いに巨大なビル群を立てているという設定なんです。

初挑戦と苦戦

──「様々な面での初挑戦も相まり思わぬ苦戦をすることとなりましたが」というコメントの「初挑戦」と「苦戦」の部分は、そういったことろが関係してますか?
そうですね。古いモノが好きで、過去や、現代を描きつつも懐かしいものを描いてきたので、未来を描くのは挑戦でした。それと同時に新しいこととしては脚本家が別にいる。CMプランナーの田中淳一さんが考えたアイデアをもとに、監督として絵作りをしていく。いただいた未来感をどれだけ描けるか。そこで苦労しました。
──ほかの初挑戦と苦戦の部分は?
キャラクターデザインです。商業制作にはいってから、キャラクターデザインは初めてなんです。アオシグレのときからいっしょにやっているジブリ出身で同い年の新井陽次郎くんが序盤参加できなかった。ので、自分がキャラクターデザインまたは作画監督という立場で絵をつくっていかなければならなかった。キャラクターデザインとはどんなものかと模索しながらやっていった感じです。

限界を突破してくれるのが仲間

──学生のときと今では制作の流れも大きく違いますよね?
やっぱり規模感がちがいます。
──このへんの資料にも、指示書きが、たくさん書いてあって。
指示書きのオンパレードで埋め尽くされている。自分だけでやるわけじゃないので、ちゃんと伝えないといけない。
──分業されていることで苦労も?
自主制作のときにひとりでやっていた気楽さはないですよね(笑)。でも、それでは作れるものに対する限界がある。限界を突破してくれるのが、メンバー、スタッフ、仲間。であるので、そのひとたちと一緒にやりながらより大きなものをやる。ということにはそれ相応にこちらのガンバリというか覚悟を見せなきゃならない。ひとに説明もして説得もして納得もしてもらわないといけない。
──たいへんだけどやるんだ、と。
はい。たいへんだけど、そうでもしないと目指せない尺の作品だったりクオリティというのがあるので、覚悟してやっています。コロリドでやってきた作品は手ごたえがある。

デジタルと紙

──長編作品は?
やりたいです。やりたいですけど、ステップアップしながらやっていきたいので、いきなりは難しいなと思っています。絵を描くことはいっぱいやってきましたけど、物語をつくることがどれほど難しいかということを実感しています。今回の「FASTENING DAYS」も、田中さんと何度も打ち合わせとして、物語としてこうあるべきじゃないかという議論を重ねた末にできたもので、ここまで到達するには時間と労力がかかるんだなとやっぱり改めて思い知りましたし。
──規模が大きくなって、ワークフローはどうですか?
デジタルと紙の連携をどうするかというのがむずかしいですね。
──デジタルにもっていきたい? それとも、紙もまだしっかり残してやっていきたい?
デジタルにまとめられるんだったらまとめちゃったほうがいいと思うんですけど、現実、そう簡単にはいかないので、共存できるやりかたを模索しています。
──共存?
業界標準が紙なので、外からお呼びしてやっていただいている人が紙なんです。社内で、デジタルで遜色なくやれるよって人を育てられて、そういう人といっしょにやっていける環境がつくれればベストですね。
──デジタルにすることで失うことはないですか?
うーん、厳密に言うと、あるとは思うんです。アナログのノイズ情報がないぶんだけたしかに違う点があるんですけど、その点もっと労力を別のところにさけるだとか、別のところに意識が向くという点が必ずある。そこを逆に伸ばしていかないとダメ。アナログの後追いしているだけじゃ進歩がない。そこに希望を見出しています。
(米光一成)