『インテリやくざ 文さん』(漫画:和泉晴紀、原作:『裏モノJAPAN』編集部、鉄人社)

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わたしさあ 先週フェスに参加してきたの

話している相手が、そんなことを言ってきたら、あなたならどうするだろうか。まあ、たいていは「そうなんだ〜」と普通に受け流すことだろう。

しかし、マンガ『インテリやくざ 文さん』の勘所は、世にはびこるウザイ人間や、違和感の元を分け隔てなく斬りまくる、文さんの情け容赦ないウェポンっぷりにある。例えば、今や国民的スポーツとしてアンタッチャブルな地位を確立しつつある「サッカー」(なんせ観戦しない人間は、ワイドショーで非国民扱いされるご時世である)すらも、文さんにかかれば、こんな具合になってしまう。

日本代表の勝利に浮かれる若者(場所はおそらく渋谷)には「今日の勝利はお前とまったく何の関係もないのに その喜び方はおかしいだろう」と諭し(「偽りの民」)、一生懸命、応援幕(「感動をありがとう」と書いてある)を手書きするサポーターたちには「なんで試合前から感動するってわかるんだ?」と反論の余地なしの正論をぶつけ(「いかさま」)、日本代表の勝利を伝える号外を嬉しそうに配る配布員には「まさかお前さん この勝利に一枚噛んでるつもりじゃないだろうな」「別にお前発のニュースじゃないんだから有頂天になるなよ」と釘を刺す(「死闘の果て」)。

ここまで読んで「最低!」なんて思うあなたは、おそらくこの本は読まない方がいいかもしれない。しかし、思わずニヤリとしてしまったあなたは、さらなるニヤニヤを求め、すぐさま手に取ることをお勧めする。居心地の悪い笑いがじわじわと染み渡る、じつに滋味深い一冊である。
(辻本力)