本田圭佑が決めたのはただのゴールではなかった
「良い一日は朝からわかる」という諺(ことわざ)がある。その日が良い日になるか悪い日になるかは、朝一番に起こった出来事でわかる、つまり最初が肝心ということだ。新シーズンの開幕戦、ミランはサン・シーロでラツィオ相手に勝利した。この諺が本当だとするとミラニスタは大いに期待を持っていいはずだ。
夏のプレシーズンマッチではなかなかいい結果が出せず、勝利よりも敗戦の多いミランだったが、この日サン・シーロに現れたチームは堂々と自信に満ちていた。監督がピッポ・インザーギに変わり、ミランは名門ミランらしいアイデンティティを再び取り戻したように見える。
とにかくこの試合ではレベルの高いプレイを随所で見ることができた。開幕までメディアは、ミランを"他チームより見劣りする実力の乏しいチーム"と酷評していたが、3−1でラツィオを下した今は、こうした評価も考え直さねばならないだろう。もちろんミランが今シーズンどんなストーリーを綴っていくのかは、まだもう少し時間が経たなければわからない。しかしすべての予兆は良いシーズンになることを示している。
今シーズンのミランは昨シーズンの壊滅的だったチームとはかなり異なっている。もちろん新加入の選手が多いこともあるが、それだけではない。この日サン・シーロのサポーターたちは数ヵ月前とは全く違う"もの"を見た。それが本田圭佑だ。本田はこの1週間前にユベントス、サッスォーロとミランの3チームで戦ったTIMカップの最優秀選手に選ばれたが、ここでもそれがまぐれではなかったことを証明してみせた。
キックオフからたった7分で、本田はミランの今シーズンの公式戦第1号ゴールを決めたのである。エル・シャーラウィーがカウンターで左サイドを上がり、そのセンタリングを受けてのゴールだった。ゴールした後、本田はピッチを指さし、喜びのパフォーマンスを見せた。昨シーズンのクリスティアーノ・ロナウドの多少芝居がかった喜び方にインスピレーションを得たのだという声もあるが、私には"俺はここでプレイしたい。この国で、この町で、この子供の頃から夢見ていたユニホームを着て"と、本田が宣言しているように見えた。
昨シーズン、このコラムで私は何度もアルベルト・ザッケローニの言葉を紹介してきた。
「イタリアにやってきた外国人選手が本当の実力を発揮できるようになるには、少なくともこの国のサッカーに慣れるのには、半年は必要だ」
元日本代表監督はそう言って、イタリアでなかなか活躍できない本田のことを擁護してきた。4年間、彼の代表の秘蔵っ子だった本田は必ずセリエAで通用するとザッケローニは常に信じていた。そしてまさに半年が過ぎた今、その言葉は現実となりつつある。ザッケローニの目は確かだったようだ。
この日曜日、本田がラツィオ戦で決めたのはただのゴールではなかった。インザーギの信頼を勝ち取り、ミラニスタの愛情を得る重要なゴールでもあった。ゴールだけではない。ピッチ上の本田の動きは終始素晴らしかった。攻撃は俊敏で、守備にも必ず参加し、何度もボールを触り、重要なパスを出し、チームメイトとの息もぴったりと合っていた。
均衡を破った本田のゴールの後、チーム全員が本田を熱く抱擁したのは、皆がひとつになって目標に向かっていることの表れだったと思う。「良い一日は朝からわかる」ものなら、今シーズンのミランはどんなチームにとっても手ごわい相手となるだろう。
開幕戦の後、リーグは代表戦のため一時中断される。次の試合は15日後だ。ミランと本田が次はどんなプレイを見せてくれるか、今から楽しみだし、なにより今シーズンはイタリアから明るい話題をみなさんにお届けできそうだ。
それでは、Forza Milan! Forza Keisuke!!。
ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko