8月26日、福島地裁は東電に4千900万円の賠償責任を命じた。避難中に自殺した女性の遺族が東電に9千100万円の損害賠償を求める訴訟に対しての判決だ。福島第一原発の事故後、避難住民の自殺で東電の責任が認められたのは初めて。内閣府が公表している「原発事故自殺者」は福島県内だけでも56人にも及ぶという。自殺者の遺族のひとりがフィリピン人妻のバネッサさん(36)。彼女は、東電の責任を認めた判決を聞いてこう答えた。

「同じような悲しみを抱えている家族は、私たち以外にもたくさんいます。東電は早く罪を認めてほしい」

彼女は東電を相手に、夫の自殺は原発事故が原因だとして損害賠償を求める訴訟を起こしている。相馬市で酪農を営んでいた彼女の夫・菅野重清さん(当時・54)が命を絶ったのは震災3カ月後の11年6月。バネッサさんは長男(10)と二男(8)を連れてフィリピンに一時避難していた最中だった。重清さんは妻と息子たち不在の中で亡くなったのだ。

バネッサさんと重清さんはお見合いパーティで知り合い’04年に結婚。2人の息子と共に福島で平穏な生活を送っていたのだが、原発事故で生活は一変した。重清さんの自殺直後の現場を取材したジャーナリストの村上和巳さんは、彼が家族を残して自殺に至った経緯をこう説明する。

「重清さんは40頭の乳牛を育てながら、堆肥販売を拡大するために借金をし、500万円以上かけて堆肥小屋を建てたのです。しかし2カ月後に原発事故が起きた。牛乳は出荷停止となり、堆肥を売ることもできない。借金返済の道も見出せず、絶望のなか、先行きを悲観して、その小屋で首を吊ったんです」

現在、バネッサさん親子は、福島県伊達市内のアパートに家族3人で避難している。彼女は、現在の生活の困窮について訴える。

「今は遺族年金と児童手当など、月の収入は10万円ほどです。子供もいるし、生活は苦しいです。夫は、長男が小学校に入学する前に亡くなってしまいました。買ってくれたランドセルを背負って通学する子供の姿を夫に見せたかった。今でも、夫が好きだった料理を仏壇に供える日々を過ごしています。夫を失った家族の悲しみは、今も癒えていません」