夢見るのって、刑務所に入るようなものだったよ。日曜劇場「おやじの背中」2話
10人の脚本家と10組の名優が贈る、10の物語。TBS日曜劇場「おやじの背中」。
20日(日)の第2話では、脚本・坂元裕二、主演・役所広司&満島ひかりによる「ウェディング・マッチ」が放送された。
坂元裕二といえば、ここ数年だけでも、現代女性の母性や幼児虐待を扱った「Mother」(2010年・日本テレビ系)、犯罪加害者と被害者の家族の葛藤を描いた「それでも、生きてゆく」(2011年・フジテレビ系)、震災後の夫婦のあり方や結婚観を描いた「最高の離婚」(2013年・フジテレビ系)、シングルマザーをテーマにした「Woman」(2013年・日本テレビ系)などなど、時代の機微を敏感に読み取りながらヒット作・話題作を生み続ける脚本家だ。
そんな坂元氏に対して、エキレビ!では過去にロングインタビューを敢行。ドラマ「それでも、生きてゆく」をつくりあげる過程を通して、随所に脚本活動における作法やこだわりを伺い知ることができた。今回はその時の発言とともに「ウェディング・マッチ」の内容を振り返ってみたい。
脚本家・坂元裕二ロングインタビューはこちら
part1「殺人犯がいて、その妹がいる」
part2「突然事故死したらあのAVは?」
part3「大竹しのぶは、もう化け物です」
part4「http://殺人犯の主観でドラマは作れるか」
▼「夏クール(※6-9月)のドラマって元々視聴率は厳しいので、夏だから冒険的な番組をやらせてくれたという面もあるかもしれません。」
小説やコミックスの原作もの、サスペンス・刑事ものや医療ものが多い昨今のドラマ事情の中で、1話完結のホームドラマを発信する、という「おやじの背中」のコンセプトそのものがまずもって冒険的といえる。
その中で、坂元が今回選んだ題材は女子ボクシング。ドラマプロデューサーの八木康夫(TBS)によれば、女子レスリングメダリストの浜口京子・アニマル浜口親子がモデルになっているという。
劇中では「女子ボクシングなんて誰も見てないのに。大会があったって余興扱いなのに。前座扱いなのに。」という満島ひかりの台詞がとても印象的だった。マイナースポーツに挑む親子、という題材もまた、冒険的なことができる夏ドラマだからこそだったのではないだろうか。
▼「ドラマはもう、役者で全てが決まるので。脚本も演出もなにも関係ないですよ。とにかく役者さんの力をどれだけ出させるかが全てですから」
▼「満島さんの例で言うと、普段の彼女のお芝居を見ていても、ペラペラペラペラ流暢にしゃべるよりもつっかえながらしゃべるお芝居の方が僕は好きなんですね。(中略)それが満島さんの一番得意な場所というか、一番魅力的な場所なんじゃないか」
坂元裕二×満島ひかりのコンビは「それでも、生きていく」「Woman」に続いて3作目。これまでの2作品におけるどこか影のある女性役とは違い、女子ボクシングに打ち込む健康的なキャラクターは実に新鮮。
それでいて、今回は怒りのエネルギーを押さえ込もうとするあまり結果的につっかえながらしゃべるようなシーンが随所で見てとれた。満島の魅力を存分に堪能できるドラマだったのは間違いない。
▼「役者さんを見るということそのものが“人間をリアルに描く”ことに自然となっていく」
▼「役の感情と最低限の設定だけを提示して演技によって行間を埋めていくものを作ろう」
坂元ドラマの魅力は、なんといっても“リアルな会話”にある。ドラマ的な口調や説明的な台詞まわしは極力排除し、まるで個々のキャラクターが実際に存在しているかのような、自然かつ不器用な会話劇が展開される。
特に今作では、実際のボクシング対決とは別に「口喧嘩」という言葉によるパンチの応酬も主軸だっただけに、坂元ドラマらしいテンポの良い会話劇を存分に堪能することができた。
また、興味深かったのは、「トレーナーと選手」「父と娘」という二つの関係性がさりげなく何度もクロスフェードで入れ替わっていた点。「トレーナーと選手」という関係性ではお互いが敬語になり、「父と娘」という関係性では口汚く、それでいて見るものにも強く訴えかける重い言葉も次々に生まれた。
「夢見るのって、刑務所に入るようなものだったよ、父さん」
「やっぱりあなたはまともじゃありません。病名はないけど病気です。私にも移ってます。このままじゃ嫁に行けません」
こんな台詞が生まれる瞬間に出会いたいからこそ、坂元ドラマを見てしまう。
▼「ドラマというものは“過去”と“未来”の両方に物語がないとダメ」
▼「僕は主人公が歩きだして引きの画で終わるみたいな、そういう終わり方があんまり好きじゃない。というか書いたことないです」
ボクシングとは辞め時が難しいスポーツだ……と語ったのは『はじめの一歩』における鴨川会長だったか。結局、結婚という、普通の親子(そして普通のドラマ)であれば最も幸せな結末をあえて拒否し、4年後のリオデジャネイロ五輪を目指して再び「トレーナーとボクサー」の関係性に戻った二人。ますます“この先”が見たくなる。
3年後、リオ五輪前後にまたスペシャルドラマが成り立つんじゃないだろうか? そんな楽しい妄想までできてしまった。
(もっとも、ひょっとしたら結婚式をあのまま挙げていた可能性もあり、その辺の「あえて描かない」ところもまた坂元ドラマらしかった)
日曜劇場「おやじの背中」第三話「なごり雪」は、脚本・倉本聰、主演・西田敏行という重量感。
数々のドラマを生み出し、そして出演してきた二人にも関わらず、タッグを組むのは今回が初めてだという。
放送は27日(日)21時からTBS系列で。
(オグマナオト)
20日(日)の第2話では、脚本・坂元裕二、主演・役所広司&満島ひかりによる「ウェディング・マッチ」が放送された。
坂元裕二といえば、ここ数年だけでも、現代女性の母性や幼児虐待を扱った「Mother」(2010年・日本テレビ系)、犯罪加害者と被害者の家族の葛藤を描いた「それでも、生きてゆく」(2011年・フジテレビ系)、震災後の夫婦のあり方や結婚観を描いた「最高の離婚」(2013年・フジテレビ系)、シングルマザーをテーマにした「Woman」(2013年・日本テレビ系)などなど、時代の機微を敏感に読み取りながらヒット作・話題作を生み続ける脚本家だ。
脚本家・坂元裕二ロングインタビューはこちら
part1「殺人犯がいて、その妹がいる」
part2「突然事故死したらあのAVは?」
part3「大竹しのぶは、もう化け物です」
part4「http://殺人犯の主観でドラマは作れるか」
▼「夏クール(※6-9月)のドラマって元々視聴率は厳しいので、夏だから冒険的な番組をやらせてくれたという面もあるかもしれません。」
小説やコミックスの原作もの、サスペンス・刑事ものや医療ものが多い昨今のドラマ事情の中で、1話完結のホームドラマを発信する、という「おやじの背中」のコンセプトそのものがまずもって冒険的といえる。
その中で、坂元が今回選んだ題材は女子ボクシング。ドラマプロデューサーの八木康夫(TBS)によれば、女子レスリングメダリストの浜口京子・アニマル浜口親子がモデルになっているという。
劇中では「女子ボクシングなんて誰も見てないのに。大会があったって余興扱いなのに。前座扱いなのに。」という満島ひかりの台詞がとても印象的だった。マイナースポーツに挑む親子、という題材もまた、冒険的なことができる夏ドラマだからこそだったのではないだろうか。
▼「ドラマはもう、役者で全てが決まるので。脚本も演出もなにも関係ないですよ。とにかく役者さんの力をどれだけ出させるかが全てですから」
▼「満島さんの例で言うと、普段の彼女のお芝居を見ていても、ペラペラペラペラ流暢にしゃべるよりもつっかえながらしゃべるお芝居の方が僕は好きなんですね。(中略)それが満島さんの一番得意な場所というか、一番魅力的な場所なんじゃないか」
坂元裕二×満島ひかりのコンビは「それでも、生きていく」「Woman」に続いて3作目。これまでの2作品におけるどこか影のある女性役とは違い、女子ボクシングに打ち込む健康的なキャラクターは実に新鮮。
それでいて、今回は怒りのエネルギーを押さえ込もうとするあまり結果的につっかえながらしゃべるようなシーンが随所で見てとれた。満島の魅力を存分に堪能できるドラマだったのは間違いない。
▼「役者さんを見るということそのものが“人間をリアルに描く”ことに自然となっていく」
▼「役の感情と最低限の設定だけを提示して演技によって行間を埋めていくものを作ろう」
坂元ドラマの魅力は、なんといっても“リアルな会話”にある。ドラマ的な口調や説明的な台詞まわしは極力排除し、まるで個々のキャラクターが実際に存在しているかのような、自然かつ不器用な会話劇が展開される。
特に今作では、実際のボクシング対決とは別に「口喧嘩」という言葉によるパンチの応酬も主軸だっただけに、坂元ドラマらしいテンポの良い会話劇を存分に堪能することができた。
また、興味深かったのは、「トレーナーと選手」「父と娘」という二つの関係性がさりげなく何度もクロスフェードで入れ替わっていた点。「トレーナーと選手」という関係性ではお互いが敬語になり、「父と娘」という関係性では口汚く、それでいて見るものにも強く訴えかける重い言葉も次々に生まれた。
「夢見るのって、刑務所に入るようなものだったよ、父さん」
「やっぱりあなたはまともじゃありません。病名はないけど病気です。私にも移ってます。このままじゃ嫁に行けません」
こんな台詞が生まれる瞬間に出会いたいからこそ、坂元ドラマを見てしまう。
▼「ドラマというものは“過去”と“未来”の両方に物語がないとダメ」
▼「僕は主人公が歩きだして引きの画で終わるみたいな、そういう終わり方があんまり好きじゃない。というか書いたことないです」
ボクシングとは辞め時が難しいスポーツだ……と語ったのは『はじめの一歩』における鴨川会長だったか。結局、結婚という、普通の親子(そして普通のドラマ)であれば最も幸せな結末をあえて拒否し、4年後のリオデジャネイロ五輪を目指して再び「トレーナーとボクサー」の関係性に戻った二人。ますます“この先”が見たくなる。
3年後、リオ五輪前後にまたスペシャルドラマが成り立つんじゃないだろうか? そんな楽しい妄想までできてしまった。
(もっとも、ひょっとしたら結婚式をあのまま挙げていた可能性もあり、その辺の「あえて描かない」ところもまた坂元ドラマらしかった)
日曜劇場「おやじの背中」第三話「なごり雪」は、脚本・倉本聰、主演・西田敏行という重量感。
数々のドラマを生み出し、そして出演してきた二人にも関わらず、タッグを組むのは今回が初めてだという。
放送は27日(日)21時からTBS系列で。
(オグマナオト)