ポータルをハックし、支配地を広げていくスマホ向け位置情報ゲーム「Ingress」

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Android版に加えて、7月からiOS版が登場し、世界中でブームが加速している「Ingress(イングレス)」。Googleの社内ベンチャー、Niantic Labsが開発し、昨年12月にリリースされた、位置情報サービスを用いたスマホゲームです。リーダーはGoogle Earthの生みの親としても有名なジョン・ハンケ。「位置情報ゲーム」は過去にもたくさんありましたが、世界規模で流行った例としては、おそらく初めてじゃないでしょうか。

ゲームはヨーロッパの科学者チームが発掘した謎のエネルギー「エキゾチック・マター(XM)」を巡って、青(レジスタンス=抵抗勢力)と緑(エンライテンド=侵略勢力)の二大勢力が戦うという内容。一般のオンラインゲームと異なり、現実世界とオーバーラップした仮想世界のマップ上で、スマホ片手に街中を移動しながら、陣取り合戦を行っていきます。ゲームは無料ですが、Googleアカウントが必要です。

手始めにIntel Map(=公式マップ)を開いてみましょう。世界中で拠点(=ポータル)が乱立しているのがわかります。地図を拡大すると、青と緑の三角形に分かれて現実世界が塗り分けられている様子もみてとれるでしょう。このように、ゲームの目的は青・緑どちらかの陣営に属して、支配地域(=コントロールフィールド)を拡大し、その中のMind Units(=人口に比例)を競うことにあります。

ポータルは神社仏閣や公共施設、ランドマークなどに設定されており、自分で申請することもできます(Android版のみ、iOS版は原稿執筆時は未実装)。大ざっぱに言って自宅や職場などの半径数キロ圏内を主なプレイフィールドに、陣地の取り合いをしていく遊びですので、ゲームを遊ぶうちに「近所にこんな場所があったのか!」と驚くこと請け合いでしょう(地域の魅力再発見ゲーム!)。一見すると普通の世界なのに、スマホの画面(=スキャナ)上ではまったく違う世界が広がっている・・・この拡張現実感がゲームの魅力を高めています。

ただし本作は日本語化が中途半端で、洋ゲー特有の大ざっぱな感じもあり、今ひとつ初心者が何をしたらいいか、わかりにくいのも事実なんですよね。自分も5レベルに到達したところなんですが、ようやくイメージがつかめてきました。すでにネットには有志による情報サイトが数多く存在しますので、詳細はそちらにお任せするとして、本稿では基本的な流れについて整理しましょう。

ゲームの内容は非常にシンプルです。まず街中を移動しながらマップ上に浮遊するXMを収集しましょう。XMがたまったら、ポータルを探して隣接し、アクセス(=ハック)します。ポータルをハックするとアイテムが収集できるほか、自陣営のポータルを強化したり、他陣営のポータルを攻撃して中立化させたり、自陣営に変えたりできます。

また特定の条件に従えば、複数の自陣営ポータルをラインで結ぶ(=リンクする)ことができます。自陣営ポータルを三角形にリンクすれば、その領域をコントロールフィールドにすることも! 各々のアクションをとるたびに規定のXMが消費される一方で、AP(アクションポイント=経験値)が蓄積されていきます。一定のAPがたまるとレベルアップし、より強力なアイテムが使用可能にになります。

つまり「XPを溜める」→「ポータルをハックする」→「ポータルをリンクする」→「コントロールフィールドを作る」という流れで進行していきます。これ、一般的なオンラインゲームの展開とそっくりです。なお、Ingressにはチャット機能が存在し、周囲の自陣営プレイヤーとコミュニケーションがとれます。低レベルのうちは一人で十分楽しめるゲームですが、複数人で遊ぶと効率良く進められます。高レベルになるにつれて共闘が重要になるので、早いうちから活用するのもオススメです。

本作を遊ぶと、ゲームはルールとデータと世界観と技術力で構築されていることが再確認できます。本作のルールは「ポータルをつないで三角形を作り、範囲内の人口密度を競う」というもの。データはグラフィックやサウンド、パラメータなど、ゲームを構築する要素の数々です。世界観はこれらをラッピングし、プレイヤーをその気にさせるもの。そして基板となるのが技術力です。人間に例えるなら、技術力が骨格、ルールが神経、データが肉体、世界観が外観や衣装といったところでしょうか。

中でも重要なのが技術力です。そして技術はどんどん進化して、新しいゲームのゆりかごになっていきます。

もともと位置情報ゲームは国産ゲームが先行していた分野でした。「ケータイ国盗り合戦」(マピオン)、「コロニーな生活」(コロプラ)、「しろつく」(ケイブ)など、数々のヒット作が存在します。その前提となったのが、フィーチャーフォンに搭載された位置情報サービスです。しかし、残念ながらこれらは国内のサービスに留まっています。フィーチャーフォン向けの位置情報サービスが国内向けに閉じた技術だったからです。

これが本作ではGoogle Mapsを筆頭に、同社の基板技術が使用されているため、世界中のプレイヤーが同じ土俵で楽しめます。ここが最大のポイントでしょう。一つの原理原則で、まずは全世界にバサーッと大きな網を被せてしまう。細かいことは、後から考える。いかにもGoogle的というか、アングロサクソン的という感じです。

ただし、これもまたGoogleらしいというか、ユーザーインターフェイスがイマイチなんですよね。アプリ上でマップの拡大・縮小に限界があるため、多くのプレイヤーがアプリとIntel Map、そしてGoogle Mapsなどを切り替えながら遊んでいるのではないでしょうか。アップデートでの統合を期待したいところです。リンクを張るのに必要なポータルキーの有無を確認するのに、一手間かかるのもプレイアビリティを下げています。特定のユーザーを登録できる、グループ内チャットなども欲しいところですよね。

また本作はその特性上、プライバシー問題に発展しやすいリスクを抱えています。ゲームのプレイフィールドがプレイヤーの生活圏と重なりやすいため、対人トラブルに発展しないように、節度をもって遊ぶことが肝心です。ある程度の人口密度を要求するゲームでもあるので、プレイヤーの生活圏によって有利・不利が生じる点も否めません。歩きスマホ、自転車スマホなどの行為も厳禁です。くれぐれもゲームを遊んで交通事故にあわないように、注意してください。

実際、これらは確率論なので、本作がヒットすれば遅かれ早かれ、必ずこうした被害が発生します(もうそうした被害が起きているかも?)。そしてしばしば、企業規模に応じて社会的批判に発展します。仮に同じ開発力と資金力があったとして、日本企業が本作をリリースできるかといえば、うーんどうでしょう。ちょっと腰が引けちゃうかもしれませんね。

しかし、だからこそゲームが持つリスクではなく、その可能性について、より目を向けるべきだと思います。というのも本作を遊ぶと、人間はなんて単純な仕掛けで夢中になるんだろうと実感するんですよ。だって、仮想世界のマップ上で陣取りしているだけなんですからね。それでも、あともう少し、もう少しと、ポータル行脚を続けてしまう・・・。この「人をかき立てる力」って何なんでしょうか。さらなる研究が期待されます。

そして本作ではまだ「スマホの画面を見る」ことに縛られていますが、これが技術革新で小型化し、ゴーグル型、メガネ型になったとしたら・・・。アニメ「電脳コイル」の世界まで、あと一息かもしれません。そうした可能性を摘み取ることなく、できれば日本から世界に向けて発信していきたいですよね。そのためにも、楽しいゲームを楽しく遊んでいきましょう。

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