『高校野球のスゴイ話』(『野球太郎』編集部/ポプラ社)
「田中将大と斎藤佑樹」「伝説の延長17回横浜高校vs.PL学園」など甲子園をめぐる熱戦の物語から甲子園の大会や球場の歴史など、高校野球のおもしろエピソードが満載。

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7月。サッカーW杯の熱戦はまだまだ続くが、日本の夏のスポーツといえばやはり高校野球だ。
北と南から、甲子園出場の切符をかけた地区大会は既にスタートしている。
そんな高校球児が目指す聖地・甲子園球場は今年生誕90周年を迎えているという。

だが、夏の選手権大会は今年で96回目。つまり、甲子園球場よりも大会自体のほうが歴史がある、というのは意外と知らない人も多いのではないだろうか。
第1回と第2回大会は大阪府にある豊中球場で、第3回からは兵庫県にある鳴尾球場で開催され、甲子園で開催されるようになったのは第10回大会から。
毎年当たり前のように接してきて、それでいて実はよくわかっていないのが高校野球であり、甲子園球場なのだ。

たとえばこんなエピソード、熱心な野球ファンであっても結構知らないのではないだろうか?
・甲子園優勝校にはかつては優勝旗以外にも副賞・アメリカ旅行が贈られていたこと。
・甲子園のグラウンド内で、過去にイモを育てた時期があったこと。
・初代ミスタータイガース藤村富美男は学生時代、優勝旗を折ってしまったこと。
・勝利したのに校歌を歌えない学校があったこと etc.

これらはすべて、『高校野球のスゴイ話』に収められた甲子園大会うんちく。
この本、元々は小学生向けにまとめられた「甲子園大会に関する教科書」的な一冊。それでいて扱うテーマはかなり本格的でマニアックなネタも多いので、大人でも十分読み応えがあるはずだ。

編著者は『野球太郎』編集部。
数ある野球雑誌の中でも、どこよりマニアックな情報を発信し続ける雑誌『野球太郎』らしい一冊といえる。そして小学生向けらしく、語り口や文体がとても簡潔なので、スラスラと読み進めることができるのも嬉しいポイントだろう。

内容は、読み物として甲子園の歴史を振り返る第1章「熱いぞ! 甲子園熱球物語」、甲子園大会にまつわる雑学をまとめた第2章「甲子園なんでも情報」の二部構成。

100年近くにおよぶ歴史を持つからこそ、ひと口に「甲子園大会」「高校野球」といっても、連想する試合や選手は世代によってまちまちだ。
第1章は、そんな各世代の「これぞ甲子園!」を満たす充実のラインナップといえる。

箕島vs星稜 伝説の延長18回/怪物・江川卓/池田高校物語/沖縄野球50年の戦い/KKコンビ/
松井秀喜5打席連続敬遠/横浜高校vsPL学園 延長17回の死闘/田中将大vs斎藤佑樹 決勝引き分け再試合

甲子園を彩ってきた名勝負、そして怪物事件簿が余すことなく記されている。

大人も読んでためになるのが、うんちく・雑学をまとめた第2章「甲子園なんでも情報」だ。
・夏の甲子園にいちばん多く出場した学校は? いちばん多く点をとった学校は? 
・夏の甲子園でいちばん本塁打を多く打った打者は? いちばん三振をうばった投手は?
といった基礎的情報はもちろんのこと、
・なぜ、甲子園という名前になった?
・最初にテレビ放送された試合は?
などなど、まさに甲子園トリビア的なエピソードが満載だ。

私のお気に入りは日本初のラジオ中継で生まれた名実況「打ちました、大きなフライ! あっ、センターとりよった。エライやっちゃ!」。
よく、サッカー中継の実況&解説に関して、「うるさい」「感想をそのまま喋るな!」なんて意見を耳にすることが多い。ただ、野球中継にまつわる初期の失敗例を見ると、放送技術もやはり歴史の蓄積があってこそなんだなぁ……なんてことまで考察できてしまう。

大人が、今さら人に聞けない甲子園にまつわる基礎情報からマニアックなうんちくまで総ざらいするのに使うのもアリだし、野球に興味を持つ子どもへのプレゼントにも最適。
親子で一緒に読むことでコミュニケーションのキッカケにもなるはずだ。

ちなみに、私事で恐縮だが、昨年、子ども(男)が生まれた。
その際、同時期に子どもが生まれたスポーツライターの方からこんなメッセージを頂戴した。

「16年後、第111回全国高等学校野球選手権大会でお会いしましょう。息子同士は甲子園のグラウンドで、親はアルプススタンドで」

0歳児の息子が高校野球をしている姿をもう想像しているの!? という親バカぶりに驚くとともに、自分の子どもが高校生になる頃にはそんなにも回数を重ねているのかと、改めて大会の歴史的重みを感じずにはいられなかった。だからこそ、もう少し大きくなったらちゃんと甲子園大会について教えてあえげることができるよう、この本で予習しなければと思った次第である。(オグマナオト)