弱い部分のある人が、大人になるのを見ていたい。アニメ「アオハライド」原作者・咲坂伊緒に聞く２

2014年7月放送のテレビアニメ「アオハライド」の制作陣インタビュー、原作者・咲坂伊緒の後編です。（前編はこちら）

描こうと思っていたキャラの性格が変化する
クラスメイト３人：小湊亜耶、村尾修子、槙田悠里

───キャラのお話になったところで、先生の中でずばり好きなキャラは？
咲坂　ほんとにみんな平等に愛していますよ。あえて言うなら、今ちょっと自分の中でアツイのは、小湊亜耶ですね。
───双葉のクラスメイトであり、洸の友達になる小湊ですね。ではそれぞれのキャラの思い入れを聞かせてください。
咲坂　小湊は少し暑苦しいけど、嘘じゃないというか。そういう自分に酔っているわけじゃないアツさがある子なので、大人になってみると小湊君いいなって思います。バカみたいなことやっているけど、一番大人なんじゃないかな。そういうところが好きです。
───一匹狼キャラだった双葉のクラスメイト、村尾修子はどうでしょう？
咲坂　修子は最初もうちょっとお笑い要員のつもりで描いていたんですけど、そんなには笑わせられなくてすみませんって感じです。たんたんとした感じで状況に流されないで、みんながわーっと騒いでいてもしれっとしているみたいなシュールさがほしいと思っていたんですけど。最近彼女もアツくなり始めているので、あの頃の修子はいないなって（笑）。
───先生の中でも設定が変わっていくんですね。
咲坂　そうですね。修子にとっては変わっていくことがベストだったわけです。最初は誰にもなじまずに「私は私！」っていう流されないキャラだったのが、双葉と仲良くなって意外とアツく洸をとめてみたり、自分を責めてみたり。こういうキャラになっていけたっていうのは、彼女にとって良かったんだと思っています。彼女もたぶん、いつかは変わらなきゃいけなかったんだけど、その変化のタイミングはここで良かったと思っています。こんな感じで最初から考えている部分と考えていない部分の両方があるんですけど、考えている部分でも変わっちゃうことがありますね。
───槙田悠里はどうでしょう？
咲坂　意外に自分がある子です。最初から自分があって、自分は何が好きで、どうしたいかっていうのが分かっている子って、多分憧れではあるんですよね。だから、双葉の憧れでもあったと思うんですよ。自分を偽らないで、女子にいろいろ言われても「でも私こうしていたんだもん」って言えるのって結構強いなと思います。そういうところが好きですね。
───悠里はぶりっ子しているとか、クラスメイトにいろいろ言われても、前を見ていこうと思っていますよね。実際は気にしていないわけではないけど…、というところが人間らしいと思いました。
咲坂　そうなんですよ！なかなか高校生活というか、集団生活ではそう思えないですよね。強いんですよ。クラスの中で孤立する恐ろしさってあるじゃないですか。「私には絶対できない！」って思って（笑）。

双葉と同じく、洸の成長を見届けたい
主人公：吉岡双葉、馬淵洸

───双葉の恋するお相手、馬渕洸はどうでしょう？
咲坂　精神面で小鹿ちゃんなくせに、それに気づいていない洸っていうのが好きなんですよ。それなのに大人ぶっちゃって、っていう。いろいろ自分で苦しんでいるのを見ているといいなあって思います。洸は臆病だった自分を次第に認めていくんですけど、そのへんの成長が描けたのが良かったなって。精神的に強いキャラよりは、弱さを抱えている人のほうが描いていて楽しいです（笑）。
───さきほどおっしゃっていた弱点という部分ですね。（前編参照）
咲坂　弱い部分のある人が、どうやって大人になるのか、変化するのかっていうのを、私が双葉だったらそばで見ていたいんですよ。そこは自分が描きたいって思っている部分なんですよ。
───では主人公の吉岡双葉はどうでしょう？
咲坂　なんだかんだで強いんですけど、いろいろ迷うんですよね。「やるぞ！」って決めたことでも、なんかあるとすぐブレるみたいな、より人間らしい主人公を描きたくて。そのへんは生っぽくできているんじゃないかなって思って、すごく気に入っています。でも結局は自分で選択して、自分で頑張るみたいなのが、主人公としてはいいんじゃないかなと思っています。
───ブレても思い直して頑張っていく双葉ですが、いろいろあって洸を好きな気持ちが揺れていくわけですけどね。
咲坂　読者さんの反応を見ていても、ここについては意見がわかれるところだと思うんですよね…。そういうときに菊池冬馬みたいな相手に告白された場合、洸への気持ちが残っているなら断りますという派と、それでも新たな恋に揺れてしまいますという派と。
───冬馬の告白は逃げ道を塞いでいますよね。
咲坂　そうなんですよ！選択肢与えているようなフリして、与えていないんですよ！だから怖いんですよ、菊池さんは（笑）！でもそこがすごく好きなんですよね。あのへんは描いていて楽しかったですね。

あと１ミリが届かない「アオハライド」がアニメ化

───アニメ化が決まって、率直な感想はどうですか？
咲坂　すんごい嬉しかったですね！漫画家さんって多分夢の１つにしている人も多いと思うんですよ。アニメにしていただけるのって数が限られているから、自分が描いているものが選ばれるなんて、本当にありがとう！ありがたい！ありがたいって気持ちでいっぱいです。これは本当に描いている人にしか分からないんじゃないかなと思いますが、「やったー！」って感じです（笑）。自分が描いているものが動くなんてすごいロマンじゃないですか。それがテレビに映るんですよ、と思ったら本当に嬉しいです。
───アニメになることで楽しみな部分はどこでしょう？
咲坂　この心情のときにどんな曲がくるんだろうとか、漫画じゃ絶対できない部分ですね。擬音は描いたりはしますけど、耳から入ってこないので。台詞の間（ま）ができるときにどんな曲が流れるのかとか、そういうのも楽しみですね。
───コミックス10巻はドラマCD同梱版も発売されていましたね。収録現場はいかがでしたか？
咲坂　私が伺ったときは、内田真礼さん（吉岡双葉役）と梶裕貴さん（馬淵洸役）のシーンだったんですけど、お二人の息が初めからあっていたんですよ。なので、もう何もいうことはありませんという感じでした。演技もとてもお上手でした。なんとなく私はこういうつもりで描いたので、こういうイントネーションでとか、こういう感じで言ってくださいというようなリクエストをすると、すぐにできるんですよ。「ちょっと練習させてください」とかなってもおかしくないのに。だからすごく勘がいいんだなあと。内田さんと梶さんにやっていただけて良かったなと思いました。
───その収録現場での楽しかったエピソードはありますか？
咲坂ドラマCDとは直接関係ないんですけど、別冊マーガレット7月号（6月13日発売）のふろくDVD用にインタビューを録っているところを見学したんですよ。そこで、梶さんに原作の台詞を言ってもらおうというような企画があって、どの台詞を言ってもらうか選ばせてもらったんです（笑）。それで梶さんに、「おれのこと好きなの？」とかちょっと恥ずかしい感じのセリフを言ってもらって楽しんでました（笑）。
───最後にアニメを見てくれる人、漫画を読んでくれる人へのメッセージをお願いします。
咲坂　脚本も原作に忠実な形でやってくださっていて、原作とすごく変わっているってことは多分ないと思うんですよ。でも原作では描けないもの、できないものをアニメでやっているし、アニメでは表せないようなものが原作にはあると思うので、そこを見比べるという楽しみ方もあると思います。このシーンはこっちが良かったとか、このシーンはこっちよね、とか言い合うのも楽しいと思います。私もアニメの放映を楽しみにしています。
（小林美姫）

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