都立東大和vs世田谷学園 元祖都立の星・東大和、8回の集中打で一気に逆転
リリーフで登板し好投した高木(世田谷学園)
元祖都立の星・東大和、8回の集中打で一気に逆転都立小山台が都立高校として選抜大会初出場を果たすなど、近年都立勢の躍進が目覚ましいが、元祖都立の星と言えば、『甲子園の心を求めて』の著作で全国的にも知られた佐藤道輔監督の下、1978年の西東京大会で準優勝した都立東大和である。
現監督である福島靖は、「それは親の世代の話」と言う。それでも、21年前の選抜大会に出場した世田谷学園相手の鮮やかな逆転勝ちは、都立の星の伝統が受け継がれていることを感じさせた。
試合の立ち上がりの流れをつかんだのは、世田谷学園だった。世田谷学園の先発は、背番号11の大槻昇吾。昨年も登板していた左腕の大槻であるが、立ち上がり、ピリッとしない。1回裏都立東大和は1番中溝一紀が左前安打で出塁。しかし中溝は左腕大槻の牽制で、あっさり刺された。それでも、続く畠山祐也が四球で出ると、吉田玲、小森駿太が連打して1死満塁。
傷口を広げたくない世田谷学園は、早くも大槻を諦め、背番号1の高木陽平を投入した。高木は児玉隼人を一飛、加園凌大をカーブで三振に仕留め、ピンチを脱した。
ピンチの後にチャンスありの定石通り、2回表の世田谷学園は1死一塁で打席に立った6番西垣僚太が左右間を破る二塁打を放ち、二、三塁。そこで交代したばかりの高木も左翼手の頭を超える二塁打を放ち、2人を返して世田谷学園が2点を先制した。
自ら適時打を打ち、気を良くした高木は、スリークォーター気味のフォームからテンポよく投球し、2、3、4回は東大和打線を無安打に抑えた。5回裏に中溝がレフトオーバーの本塁打を打ち1点差になったものの、流れはまだ世田谷学園にあった。
先発高塚投手(都立東大和)
一方で都立東大和の先発、右腕の高塚 雄太は3、4回を無失点に抑え、5回表に世田谷学園の7番菊地遼汰、9番木村凌にヒットを許し、1死一、三塁にしたところで左腕の技巧派・川手大輝と交代。川手は1番竹原直希に死球を与え1死満塁。けれども続く鈴木勝大、村瀬大斗を続けて三ゴロに仕留め、ピンチを切り抜けた。しかし川手は、7回に代打岡山隼大に二塁打を打たれ、1点を失う。
それでも都立東大和は内外野がしっかり守り、大崩れしなかったことが、8回の逆転を呼び込むことになる。
1回からロングリリーフをした世田谷学園の高木は、7回を終えた段階で90球を投じ、球が高めにいくようになっていた。8回裏都立東大和は真っ直ぐに絞って高木を打ち崩した。まずこの回先頭の畠山、続く吉田と連続二塁打を放ち、まず1点。1死後、児玉がライト前にゴロのヒットを打ち一、三塁。さらに高木の暴投で、試合は3対3の同点になった。高木の投球は100球を超え、制球が定まらなくなっていたが、「あそこは背番号1だから」と世田谷学園の成瀬智監督は、エースに託した。
対する都立東大和は、福島監督が、「もっと打順を上げてもいい」と語る6番の加園。加園は前進気味の中堅手の頭を越える二塁打を打ち、都立東大和は逆転に成功した。都立東大和は7回に川手に代打を出したため、8、9回は右腕・藤村皇輝が登板。藤村は8回に2四球、9回にも1死球を与えるなど、やや不安定な投球であったが、「球の力は、一番ある」(福島監督)という力投で、世田谷学園を無得点に抑え、都立東大和が鮮やかな逆転勝ちを収めた。
試合後、世田谷学園の成瀬監督は一言「打てなかった」と嘆いたように、流れに乗った前半に突き放せなかったことが、後になって響いた。8回に高木を代えなかったのも、今後を考えれば乗り切ってもらわないと、という期待があればこそ。力のあるチームだけに、「鍛え直す」(成瀬監督)という世田谷学園の夏に向けての成長を注目したい。
一方逆転勝利を収めた都立東大和の福島監督は、「まずはシード校」と言うように、夏の大会のシード権を得られるベスト16以上が当面の目標。さらにその先にあるのが、都立の星の復活である。
(文=大島 裕史)