桐生第一vs広島新庄 再試合は桐生第一に軍配 エース山田が見事な投球
延長15回引き分け後の再試合は再び6回終了時まで桐生第一が1対0でリードする投手戦になった。 見事だったのは桐生第一の2年生エース、山田 知輝の投球で、この日のストレートの最速が130キロでわかるように速さはない。しかし抑えられた新庄各打者は「何で打てないのだろう」と首を傾げる。私もそう思う。ストレートは速くはないし、超高校級のキレを誇る変化球があるわけでもない。
しかし、2日見続けてわかることがあった。最大の長所は緩急の使い方にある。持ち球は100キロ台のカーブと110キロ台のスライダーと120キロ台のストレート。この3つを実にうまく混ぜ合わせる。球種は関係なく、スピードだけの変化で配球を振り返ってみよう。
7回無死一塁/阪垣 和也 104→119→120→110→115 左邪 9回無死なし/田中 琢也 129→109→127→129 三ゴロ 9回1死なし/西島 晴人 126→108→107 左飛 9回2死なし/阪垣 和也 100→126→124→130→116→130 三振
たまに同じスピード帯のストレートが続くことがあるが、基本的には緩急を使っていることがわかる。緩急が有効だということを久しぶりに思い知らされた。
さらにいいのがコントロールだ。プロ野球界には1970年代に松本 幸行(中日)という技巧派の軟投派投手がいて、捕っては投げるというハイテンポの投球で一世を風靡した。山田のテンポは普通だが、共通するのが楽に投げる姿。力強いテークバックを作るでもなく、力まずコントロールだけに神経を配るという投球である。緩急に加えて、内外、高低の四隅も使い分け、新庄打線を3安打完封に抑え切ってしまった。
一方の山岡 就也は、桐生第一の早いカウントから打っていく積極打法とストレートに狙いを定めたベンチワークに屈した形だ。たとえば1回裏の1死三塁で打席に立った柳谷 参助(2年)は初球の138キロストレート(この日の最速)をセンター前に弾き返し、先制点を奪い取った。
この回以降、スコアは7回表が終了したところまで1対0で進行していくわけだが、この膠着状況を動かそうとする積極性も桐生第一のほうが目立った。 タイムリーを放った柳谷は先制打のあと二盗、3回にも2死一、三塁の場面で二盗を成功させている。得点にこそ結びついていないが、盗塁の効用はWBC(ワールドベースボールクラシック)の日本チームによって証明されている。
3回には無死一塁の場面で2番石井 翔太(2年)がヒットエンドランを敢行している。ファールになって、結果的にはそのあとバントで送っているのだが、「バントで送って→凡打して」というパターン化した「得点できない慣れ」を打ち破ろうとする気概が桐生第一の方には見えた。 山岡にほしかったのは、山田が見せたような緩急の工夫だ。追加点を取られた7回裏を振り返ってみよう。無死満塁で打席に立った1番吉田 龍登(2年)に対して、山岡はこんなスピードのボールを投げ続けた。 106→109→107→108→105→108 これらはすべて縦に大きく割れるカーブで山岡の最大の武器である。しかし、キレのある勝負球でも6球続ければ打たれる。吉田は右手1本でこの球を拾うとライト前に運び、待望の追加点をもぎ取った。
スタメンに2年生が8人並ぶ桐生第一は広島新庄との2試合を通じて、工夫することの重要性を学びとった。準々決勝の相手は3年生が主力の龍谷大平安。この試合巧者に三連投になる山田の技巧がどのくらい通じるのか注目したいと思う。
(文=小関 順二)