1日順延の妙

 打っては18安打で12得点。投げてはエースの石原丈路(3年)が5安打完封。福知山成美初のベスト8進出は、投打がかみ合っての大勝で決めた。 その流れを作ったのが2回に奪った3点。そして、雨で中止となった前日にしっかりと調整を行えたことが、福知山成美らしさを醸し出した。

 前日の練習は、甲子園球場の室内練習場で行った後、学校に戻って打撃を中心に集中してやってきた。その中で、神村学園の先発・東 務大(3年)に対する手応えを感じ初めていた。 「遅いボールがあるので、それに泳がされないようにすること。真っ直ぐは(自分達の)能力では、多分打てるよと言っていました」と田所監督は話す。

 立ち上がりの1回は得点を奪えなかったが、1番打者である主将の西田 友紀(3年)は、「ストレートが多い、カーブが少ないなという感じ」で捉えていた。 逆に神村学園の東は、キャッチャーの豊田 翔吾(3年)とともに、「相手は変化球を練習してきている。真っ直ぐを多く使おう」と決めたという。これは1日順延したことで、新たに情報を掴んで、考えたそうだ。

 そんな1日の順延を経ての立ち上がりの攻防を、次のイニングで福知山成美が活かした。 一死から6番藤田 大成(3年)、7番大村 凌(2年)、8番木村 宗太郎(3年)が三連打で満塁とする。続く9番石原はフルカウントから三振に倒れるものの、1番西田は気持ちを固めて2打席目に入った。 「下位打線がチャンスを作ってくれた。ストレートを狙って、思い切っていきました」。

 マウンドの東にとっても、三振を取った後の次の打者の初球が大事ということは、わかっていた。 その初球。「キャッチャーの構えている所に投げられる制球力が今日はなかった」という東の直球を、西田は見逃さない。甘く浮いたコースを振り切ると、打球はセンター後方へと飛んだ。神村学園のセンター・仲山 晃輝(3年)が懸命に追うが、届かない。 「手応えはあまりなかった。取られるかもと思ったが、抜けてくれてうれしかった」という西田は三塁へ。もちろん三人の走者が生還し、福知山成美に大きな先制点が入った。

 一方、せめて最少失点にとどめたかった神村学園にとっては痛い3失点。小田大介監督は、「(前の打者が三振した後の二死満塁で)あそこで初球から振っていける。そのスイングは素晴らしい」と舌を巻いたほどだった。

 雨で1日順延して空いた時間に、様々なことをシミュレーションしながら対策を練った両チーム。勝負はこの3点から一気に福知山成美のものとなった。ここに順延の妙を感じる。 

 「先制できれば勝ちパターン」という西田主将。1回戦の山梨学院大附戦に続いて、ビッグイニングを作って、エースの石原を乗せた。

 その石原は、大量リードで楽に投げられたにも関わらず、ピッチングの内容には満足していない。「採点は50点くらい。でも(完封という)結果がでたので、70点くらいです。今日のピッチングでは、次の試合はとても抑えられない」と反省ばかりを口にした。

 満足できない点を、「低めに投げようと思った分、腕が振れていなかった」と分析する。 攻撃中には何度かブルペンに行って、確認作業を行った。ただ、「ブルペンで投げすぎるとスタミナに不安があるし、肩も温まっていたので」と、確認作業をやりすぎないように気を配っていた。攻撃の初めからマウンドにいっても、二死になると切り上げて、ベンチに戻る。そのままいつものように、ベンチ前でキャッチボールをしがちになるが、自分の体の状態をしっかりと解っていたのが、この行動に表れている。

 終盤が大量点差となり、田所監督は控え投手に経験を積ませることも考えたそうだが、「ぜひとも完封させてくださいという目線を送ってきた」と最後までマウンドを預ける選択を取った。 「完封できて、とても気持ち良かった」と話した石原。

 投打がかみ合い、夏の最高成績と同じベスト8へとたどり着いた。

(文=松倉 雄太)