アイドルソングの65年間をムギュッと濃縮『アイドル楽曲ディスクガイド』
『アイドル楽曲ディスクガイド』(2014年/アスペクト)という本が出た。
帯文からデータを拾い上げると、「南沙織からAKB48まで」の「シングル850+アルバム100」すなわち合計「950タイトル徹底レビュー」のガイドブックである。
現在は「アイドル戦国時代」などと言われ、ハロープロジェクト勢にAKB48とその派生グループ、さらにその次の座を狙うアイドル、地方都市で活躍するローカルアイドル、自己資金で活動する地下アイドルなど、様々なアイドルの形が存在し、まさしく群雄割拠の様相を見せている。
本書は、そうしたアイドルの楽曲を選出し、年代ごとにズラリと並べることで、アイドルの歴史とそれぞれの個性の違いを解説してくれる。“現場”に通い続けている現役ヲタの皆さんには自明のことだろうが、すでにアイドルを追いかけることをやめてしまった私のような人間にとって、この本はアイドルの“いま”を理解するために大いに役立つ。
過去、こういったレコードガイドは幾度となく出版されてきた。いま手元にあるものを片っ端から紹介してみよう。いわば「レコードレビュー本のレビュー」だ。
★『ザ・シングル盤 50'S〜80'S』(1983年/群雄社出版)
1950年代から1980年代にかけてリリースされた歌謡曲のシングル盤(通称:ドーナツ盤)を、そのレコードジャケットにマニアックな解説文を添えて紹介したムックで、こうしたレコードカタログの走りとなった本だ。何を隠そう、私がライターデビューした本でもある。
★『80's アイドル・ライナーノーツ』(1991年/JICC出版局)
アイドル評論誌『よい子の歌謡曲』の宝泉薫、『あいどる倶楽部』の松井俊夫、それに編集ライターの真鍋公彦(あさのまさひこ名義でイラストレーターとしても活躍)の三氏が企画編集を手掛けた、80年代アイドルのレコードレビュー集。彼ら三氏をはじめとして、11名の書き手が松田聖子からWinkまでの名盤183枚を紹介している。
★『みうらじゅんのフェロモンレコード』(1994年/TOKYO FM 出版)
こちらは、楽曲もしくはジャケットからビンビンにフェロモンが滲み出ているレコード、わかりやすく言うと“エ口くてバカっぽい”レコードばかりを集めた狂気のカタログだ。こういう本は、複数の書き手が集まって作れるようなものではない。一人のマニアによるわけのわからない情熱を形にするとこうなるのである。著者はご存知みうらじゅん。アイドルの比率は低いが、裸とビキニのレコジャケがたくさん拝めるのでうれしい。
★『歌謡曲名曲名盤ガイド 1970's』(2005年/シンコーミュージック)
80年代後半から90年代にかけては、埋もれていた日本のポピュラーミュージックの音源復刻に取り組んでいた音楽評論家の高護(こうまもる)が、書籍の形でも精力的に展開していったのがこの「歌謡曲名曲名盤ガイド」シリーズだ。以後、高氏は膨大な音楽知識と幅広い人脈を駆使し、80年代編、60年代編、作曲家編など、精力的にシリーズを刊行し、日本の歌謡ポップスのアーカイブ化に尽力している。
★『昭和歌謡 勝手にベストテン』(2009年/彩流社)
その高氏がかつて自費で制作していた『リメンバー』という日本のポップス評論誌に、「あなたと私のベストテン」という連載があった。膨大な歌謡曲の音盤の中から、自分なりのテーマを設定してベストテンを選出するという名企画だ。
そんな、音楽好きなら誰も挑戦したくなる企画を、単行本一冊まるごとやったのが本書である。女性アイドルだけでなく、男性アイドル、演歌、イロモノなど幅広いジャンルから選び出されたベストテンは、編著の宝泉薫氏ならではのものと言える。
★『日本の女性アイドル(ディスク・コレクション)』(2012年/シンコーミュージック)
ワンテーマで膨大なレコードを紹介する人気ムック「ディスク・コレクション」シリーズの、女性アイドル編がこれ。かなりのマイナー曲まで網羅したうえに、『アイドル楽曲ディスクガイド』同様の全盤カラーでレコジャケ掲載がうれしい。
書き手には鈴木啓之、馬飼野元宏、安田謙一といった、そのスジでは信頼のある名前が参加しており、本書を眺めて楽しいだけのものでなく、しっかり読みごたえのあるものにもしている。
★『ラグジュアリー歌謡』(2013年/DU BOOKS)
「パーラー気分で楽しむ邦楽音盤ガイド」と銘打つ本書は、歌謡曲ではありながら、いわゆるJ-POPとも違うコンテンポラリーな邦楽(ラグジュアリー歌謡というネーミングが秀逸!)を、膨大なディスクコレクションと音楽クリエイターたちへのインタビューで実体化して見せる。歌謡曲というのもいろんな切り口があるもんだと、とても感心させられる1冊だ。
★『80年代アイドル カルチャー ガイド』(2013年/洋泉社)
これもまた80年代女性アイドルに限定して、様々な切り口から当時の風景を再生してみせる本。サブカルによるアイドルへの接近、というようなことが言われる昨今だが、第2章で大槻ケンヂ、サエキけんぞう、杉作J太郎、吉田豪らが登場するあたりにその片鱗を感じさせる。すでに歌謡評論の世界からは身を引いた『よい子の歌謡曲』の梶本学編集長が、当時のエピソードについて語っているのが興味深い。
また、この本は『アイドル楽曲ディスクガイド』とも執筆陣が多数重なっている。おそらく、これがあったからこそ、次の『アイドル楽曲〜』につながったのではないか、と考えられる。
というわけで、これまでにアイドル・ディスクガイドと呼べる本は、古いもの、特定の年代のもの、変わった企画もの、などと様々なテーマを軸にして編まれ続けて来た。そして、ここにきて1950年代から現在に至るまで、つまり女性アイドルが歩んで来た65年間もの歴史をひとつにまとめた資料が、ようやく誕生したことになる。
私の『人喰い映画祭【満腹版】』(2010年/辰巳出版)もそうだが、こういうコレクト系の本というのは、どうしたって出版した途端どこかのマニアに「あれが入ってない!」と言われてしまう宿命を持っている。だが、それよりこれほどボリュウムのあるデータを愛情込めてまとめあげた偉業を、まず讃えたい。
……とは言え、松本明子が載ってて相本久美子が載ってないのはやっぱり納得いかない!
(とみさわ昭仁)
帯文からデータを拾い上げると、「南沙織からAKB48まで」の「シングル850+アルバム100」すなわち合計「950タイトル徹底レビュー」のガイドブックである。
現在は「アイドル戦国時代」などと言われ、ハロープロジェクト勢にAKB48とその派生グループ、さらにその次の座を狙うアイドル、地方都市で活躍するローカルアイドル、自己資金で活動する地下アイドルなど、様々なアイドルの形が存在し、まさしく群雄割拠の様相を見せている。
過去、こういったレコードガイドは幾度となく出版されてきた。いま手元にあるものを片っ端から紹介してみよう。いわば「レコードレビュー本のレビュー」だ。
★『ザ・シングル盤 50'S〜80'S』(1983年/群雄社出版)
1950年代から1980年代にかけてリリースされた歌謡曲のシングル盤(通称:ドーナツ盤)を、そのレコードジャケットにマニアックな解説文を添えて紹介したムックで、こうしたレコードカタログの走りとなった本だ。何を隠そう、私がライターデビューした本でもある。
★『80's アイドル・ライナーノーツ』(1991年/JICC出版局)
アイドル評論誌『よい子の歌謡曲』の宝泉薫、『あいどる倶楽部』の松井俊夫、それに編集ライターの真鍋公彦(あさのまさひこ名義でイラストレーターとしても活躍)の三氏が企画編集を手掛けた、80年代アイドルのレコードレビュー集。彼ら三氏をはじめとして、11名の書き手が松田聖子からWinkまでの名盤183枚を紹介している。
★『みうらじゅんのフェロモンレコード』(1994年/TOKYO FM 出版)
こちらは、楽曲もしくはジャケットからビンビンにフェロモンが滲み出ているレコード、わかりやすく言うと“エ口くてバカっぽい”レコードばかりを集めた狂気のカタログだ。こういう本は、複数の書き手が集まって作れるようなものではない。一人のマニアによるわけのわからない情熱を形にするとこうなるのである。著者はご存知みうらじゅん。アイドルの比率は低いが、裸とビキニのレコジャケがたくさん拝めるのでうれしい。
★『歌謡曲名曲名盤ガイド 1970's』(2005年/シンコーミュージック)
80年代後半から90年代にかけては、埋もれていた日本のポピュラーミュージックの音源復刻に取り組んでいた音楽評論家の高護(こうまもる)が、書籍の形でも精力的に展開していったのがこの「歌謡曲名曲名盤ガイド」シリーズだ。以後、高氏は膨大な音楽知識と幅広い人脈を駆使し、80年代編、60年代編、作曲家編など、精力的にシリーズを刊行し、日本の歌謡ポップスのアーカイブ化に尽力している。
★『昭和歌謡 勝手にベストテン』(2009年/彩流社)
その高氏がかつて自費で制作していた『リメンバー』という日本のポップス評論誌に、「あなたと私のベストテン」という連載があった。膨大な歌謡曲の音盤の中から、自分なりのテーマを設定してベストテンを選出するという名企画だ。
そんな、音楽好きなら誰も挑戦したくなる企画を、単行本一冊まるごとやったのが本書である。女性アイドルだけでなく、男性アイドル、演歌、イロモノなど幅広いジャンルから選び出されたベストテンは、編著の宝泉薫氏ならではのものと言える。
★『日本の女性アイドル(ディスク・コレクション)』(2012年/シンコーミュージック)
ワンテーマで膨大なレコードを紹介する人気ムック「ディスク・コレクション」シリーズの、女性アイドル編がこれ。かなりのマイナー曲まで網羅したうえに、『アイドル楽曲ディスクガイド』同様の全盤カラーでレコジャケ掲載がうれしい。
書き手には鈴木啓之、馬飼野元宏、安田謙一といった、そのスジでは信頼のある名前が参加しており、本書を眺めて楽しいだけのものでなく、しっかり読みごたえのあるものにもしている。
★『ラグジュアリー歌謡』(2013年/DU BOOKS)
「パーラー気分で楽しむ邦楽音盤ガイド」と銘打つ本書は、歌謡曲ではありながら、いわゆるJ-POPとも違うコンテンポラリーな邦楽(ラグジュアリー歌謡というネーミングが秀逸!)を、膨大なディスクコレクションと音楽クリエイターたちへのインタビューで実体化して見せる。歌謡曲というのもいろんな切り口があるもんだと、とても感心させられる1冊だ。
★『80年代アイドル カルチャー ガイド』(2013年/洋泉社)
これもまた80年代女性アイドルに限定して、様々な切り口から当時の風景を再生してみせる本。サブカルによるアイドルへの接近、というようなことが言われる昨今だが、第2章で大槻ケンヂ、サエキけんぞう、杉作J太郎、吉田豪らが登場するあたりにその片鱗を感じさせる。すでに歌謡評論の世界からは身を引いた『よい子の歌謡曲』の梶本学編集長が、当時のエピソードについて語っているのが興味深い。
また、この本は『アイドル楽曲ディスクガイド』とも執筆陣が多数重なっている。おそらく、これがあったからこそ、次の『アイドル楽曲〜』につながったのではないか、と考えられる。
というわけで、これまでにアイドル・ディスクガイドと呼べる本は、古いもの、特定の年代のもの、変わった企画もの、などと様々なテーマを軸にして編まれ続けて来た。そして、ここにきて1950年代から現在に至るまで、つまり女性アイドルが歩んで来た65年間もの歴史をひとつにまとめた資料が、ようやく誕生したことになる。
私の『人喰い映画祭【満腹版】』(2010年/辰巳出版)もそうだが、こういうコレクト系の本というのは、どうしたって出版した途端どこかのマニアに「あれが入ってない!」と言われてしまう宿命を持っている。だが、それよりこれほどボリュウムのあるデータを愛情込めてまとめあげた偉業を、まず讃えたい。
……とは言え、松本明子が載ってて相本久美子が載ってないのはやっぱり納得いかない!
(とみさわ昭仁)