広島新庄vs東海大三
9回裏、最後の打者を三振に仕留め、初出場の甲子園で見事完封を果たした広島新庄のエース・山岡 就也(3年)。指名選手としてお立ち台に呼ばれても、淡々とした口調で投球を振り返った。 「(完封できて)良かったです。今日は、腕は振れていたのですが、球速が出ていなかったので調子は良くないと思っていた。(採点は)80点から90点くらいです」。
初回の先頭打者から2回にかけて四者連続で三振を奪うなど、東海大三打線を翻弄した左腕。点差が開いた後半はスタイルを変え、省エネで投げ終えることを望んだ。最終的には三振を13個奪い、被安打はわずかに2。 東海大三の藤井浩二監督は、「力で来るピッチャーに、力で振りにいってしまい、バットが出なかった。序盤にチャンスが作れなかったのが敗因です」と完敗の気持ちを話した。
山岡の快投を引きだしたのが、初回に挙げた1点である。 先攻の広島新庄は、1番の中林 航輝(3年)が、フルカウントと粘って、8球目をレフト前へと運んだ。主将が試合開始直後に放ったヒットに、ベンチは勢いづく。
だが、続く2番田中 琢也(3年)は、緊張が打席に向かう足取りににじみ出ていた。 中林と同様、ファウルで粘ってフルカウントとなった後の7球目。走者の中林はスタートを切った。マウンドの東海大三エース・高井 ジュリアン(3年)が投じた球は、内角高めの完全なるボール球。しかし、田中琢は緊張から冷静な判断ができなくなっていた。見送れば四球となり、チャンスが広がるにも関わらず、ボール球に手を出して三振。四球ではなくなり、中林が二塁タッチプレーでかろうじてセーフになったが、ダブルプレーを取られてもおかしくなかった。 「来た瞬間にボール球とわかったが、逃げることもできずに振ってしまった」と悔いる田中琢。普段は緊張するタイプではないらしく、チームメートを盛り上げて、緊張をほぐすことが多いそうだ。 「みんなにも硬いと言われた。(迫田守昭)監督からも、あんなボールを振るようじゃだめだ」と指摘されたという。それでも、中林が二塁で生き残ったことが幸いだった。
次の3番西島 晴人(3年)のファーストゴロで二死三塁と場面が進む。そして4番阪垣 和也(3年)は、中林、田中琢と同様に高井に球数を投げさせて、フルカウントから四球を選んだ。
一、三塁となって、打席は5番奥田 慎梧(3年)。中林から阪垣までの四人のバッターに対する高井の投球を見て、「自分たちのスイングができれば、いける(打てる)ピッチャー」と感じていた。そして、阪垣が高井に7球も投げさせたことを利用して、「初球」に狙いを定めた。 その初球、高めに浮いた変化球を逃さずに振ると、打球は三遊間を破り、先制のタイムリーとなった。
「(流れが悪かったので)何とか1点をという気持ちだった。広島新庄で初めての1点というのは、一塁ベースを踏んで感じました」と奥田。 そしてもう一人誰よりも喜んだのが、ボール球を振って三振をしてしまった田中琢だ。 「1点を取ってもらって、本当に良かった」と、打席に立った緊張が徐々にやわらぎはじめてきた。
この初回の1点が勝負のポイント。エース山岡の奪三振ショーへとゲームは進む。
ただ山岡自身は、「三振は狙っていなかった」とも話す。自分は緊張するタイプではないそうで、この日もいつも通りだったそうだが、チームも初出場であり、田中琢のように緊張をする選手が多かった。できれば、最初から打たせて取って、守りのリズムを整えるピッチングをしたかったのかもしれない。
(文=松倉 雄太)