マンチェスター・ユナイテッドで2季目のシーズンを過ごす香川真司が、苦しい立場に立たされている。

冬の移籍市場でマンUは香川と同じ攻撃的MF、スペイン代表のマタを獲得。以降、もともと少なかった香川の出場機会はさらに減り、ケガや体調不良でもないのにベンチに入るのが精いっぱいという状況になっているのだ。

このまま“飼い殺し”の状態が続けば、試合勘に影響が出るのはもちろん、生真面目な彼のメンタル面へのダメージも気になる。何しろ、テレビ画面を通じて見る最近の香川の表情はいつも暗い。「香川は大丈夫なのか!?」という日本の報道も見聞きしているだろうし、きっと精神的に追い込まれているのだろう。本田(圭佑、ACミラン)のような図太さがないだけに、せめてピッチ外だけでもストレス解消できていればいいのだけど、彼はまだ独身だし、そのあたりのケアはうまくできているのかな。心配だね。

日本では、香川のよさを引き出せない戦術や起用法が悪いと、マンUのモイーズ監督を批判する声も少なくない。確かに、今季からマンUを率いるモイーズ監督の采配はパッとしないし、今季のマンUは近年にないほど低迷している。

ただ、だからといって、香川が活躍できない理由を監督のせいにするのは乱暴だと思う。なぜなら、マンUにおける香川は、まだ地位を確立していないからだ。モイーズ監督にすれば香川中心のチームをつくる理由など何もないし、FWファン・ペルシやFWルーニーのような、誰もが認める中心選手とは扱いに差があって当然。日本のテレビはいいプレーだけ編集して流すから、「世界の香川!」と勘違いする人も出てくるわけだけど、香川はまだマンUにたくさんいる好選手のひとりにすぎない。出場機会の保証などないし、戦術や起用法に不満があっても、与えられたポジションで、与えられた役割をこなし、その上で結果を残せなければ生き残れない。ビッグクラブとはそういうものだ。

それに、今季の香川はチャンスを与えてもらえなかったわけではない。開幕後しばらくしてからスタメンで起用され続けた時期があったのに、無得点でインパクトを残せなかった。それが致命的だった。

いろいろな事情があるにしても、個人的には冬の移籍市場で移籍すべきだったと思っている。プロは試合に出てなんぼ。最優先すべきは出場機会で、移籍は何も恥ずかしいことではないからね。香川のライバルのマタだって、チェルシーで出番がないからマンUに移籍してきたわけだし。

でも、香川はマンUに残るという選択をした。そこでなんとか活路を見いだすしかない。かつてヒデ(中田英寿)もASローマでレギュラーの座を奪えず、パルマに移籍した。ミランに移籍した本田もポジション争いの真っただ中にいる。ビッグクラブの攻撃的ポジションでプレーするというのは、それだけ大変なこと。コンディション、モチベーションを維持しながら、毎日の練習でアピールし続けるしかない。

明るい材料を挙げるなら、マンUは試合数が多いので、今後必ずチャンスは来るだろうということ。そこでどんなプレーができるか。1点取れば、本人も自信を取り戻すし、周囲の見る目も変わるはず。なんとか、壁を乗り越えてほしいね。

(構成/渡辺達也)

セルジオ越後

1945年生まれ。72年の来日以降、指導者・解説者として活躍。

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