ベルリンで危機感を表明した山田洋次監督
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 現地時間14日、第64回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品されている映画『小さいおうち』の会見が行われ、山田洋次監督、女優の黒木華、プロデューサーの深澤宏が出席した。

 本作は、大叔母(倍賞千恵子)が大学ノートに書き残した自叙伝を読む青年(妻夫木聡)の現代と、書かれている大叔母の若き日(黒木)を行き来しながら進む人間ドラマ。山田監督は「この本を本屋で読み、すぐに買って、映画にしようと原作者(中島京子)に連絡を取りました。僕の少年時代の東京が描かれています。読んでいて、とても懐かしい。僕自身の物語のような気持ちになりました」と制作の動機を語った。

 加えて「しかもこれは戦争中、1935年くらいから1945年くらいまでの話です。日本の戦争中のことを知っている人は少なくなってきました。僕はその最後の世代です。だから、今の観客に伝えたいと思いました」と世代的な使命感もあったという。「現代の日本では、戦争を知っている世代と知らない世代の大きなギャップがあり、総理大臣をはじめ日本の指導者たちは戦後に生まれています。残酷な、ひどい、悲劇的な戦争を2度としてはいけないという教訓をしっかり学んで生きているのだろうか。それが今の世代が抱えている問題ではないかと僕ら旧世代は心配でなりません」と危機感を表明した。

 ほのぼのとした家族を撮ってきたイメージのある山田監督が、家族の秘密に挑んだ作品でもある。山田監督は「原作が面白かったからで、不倫の映画を作ろうと思ったわけではないです」としながらも、「あの時代に妻が夫以外の男性を好きになるというのは大変なことで、刑法上の罪になる。もちろん女性は投票権もなかった。どんなにつらいことだったか」と当時の女性に思いをはせた。本作では松たか子と吉岡秀隆がつらい恋を演じている。

 和服の女中姿で登場する黒木は「昔の女性の方が優雅で、恥ずかしくなるくらいです。昔の映画を観たり、監督にもたくさん教えていただきました」と立ち居振る舞いから勉強したという。昭和モダンの美しい日本、美しいたたずまいの日本人が見られる本作。会見でも、あでやかな和服姿の黒木をはじめ、それぞれが紹介された際に立ち上がって一礼する日本的な礼儀正しさを見せた。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)

映画『小さいおうち』は公開中
第64回ベルリン国際映画祭は16日まで開催