原辰徳監督が、引退を表明した選手のために「特別登録枠」を設けるよう提案した。私は反対だ。
「引退を表明した選手に関しては、引退試合の1日限定で(ベンチ入り枠の)25人とは別枠でベンチに入れるようにしてはどうだろうか。25人プラス1でね」
とのこと。

これまで、引退を表明した選手の引退試合を公式戦で行うときは、その選手を1日だけ登録しなければならなかった。そのために25人枠から他の1人の登録を抹消しなくてはならない。いったん登録を抹消すると10日間再登録ができなくなる。

引退を表明した選手は戦力的には期待されていないから、チームにとってこれは戦力ダウンだ。だったら、特別枠を設けて戦力を低下させることなく、公式戦で引退試合ができるようにしようというものだ。

要らざる話だと思う。
今年でいえば藤本敦士、小池正晃、前田智徳、山崎武司、桧山進次郎などが引退を表明後、選手登録をされて公式戦に出場。ファンに別れを告げた。
一つ一つの惜別のシーンは感動的ではあったし、目くじらを立てるほどの事ではないとは思うが、公式戦は“花相撲”ではない。勝利を目指した真剣勝負のはずである。

ペナントレースの進展とともに、公式戦が勝敗はどうでもよい「消化試合」になることはままあるが、それでもファンはチームの勝利を願って球場に来ている。真剣勝負を期待している。
そんな大切な試合に、すでに戦力外となった選手がお情けで出場する。明らかにおかしい。

登録抹消期間が最短で10日以上と規定されているのは、いい加減な選手登録ができないようにするためだ。登録された選手は、少なくとも10日間、数試合は使うことが求められている。MLBにはこんなルールはないが、良い制度だと思っていた。

戦力として十分に期待できる選手が、自らの意志で「早めの引退」を表明し、以後も試合に出場し続けるケースはままある。大昔の長嶋茂雄(1974年)、新庄剛志(2006年)などがそれだ。
そういう選手がシーズン最終戦でファンに別れを告げるのは、自然な成り行きだと思う(新庄がその年の日本シリーズで監督や主力選手をさし置いて真っ先に胴上げされたのは釈然としないが)。MLBのマリアノ・リベラなどもそのケースだ。
しかし、もう完全に終わった選手が、その試合だけ引き上げられて試合に出場し、公式戦に最後の記録を残すのはおかしい。

誤解を恐れずに言うが、選手の「引退試合」など、どうでもよいセレモニーである。
やりたいのであれば、オープン戦など非公式戦でやるべきである。公式戦やポストシーズンなどの真剣勝負を、そんな「私事」に使うのは公私混同である。お客さんに失礼である。
「我々が喜んでいるのだから、それでいいじゃないか」という反論が例によって予想されるが、そういうファンばかりではないはずだ。また、筋としておかしい。

大相撲では、引退を表明した力士は翌日から土俵に上がることはできない。大相撲は命を懸けた真剣勝負であり、そこに戦意を喪失した力士が混ざるのは危険であるし、失礼だという解釈からだ。
しかし一定の功績を残した力士は、数か月後に「引退相撲」を開いてもらう。我々は「引退相撲」といえば断髪式しか見ることがないが、実際は横綱土俵入り、幕内以上の取り組み、初っ切り、相撲甚句など巡業で行うのとほぼ同じメニューが行われ、観客は入場料を払ってこれを観るのだ。
「引退相撲」の収益は、経費を差し引いて引退する力士に与えられる。功績のあったお相撲さんに、仲間が協力して「退職金」を与えるようなシステムなのだ。

かつてはNPBにも同様の「引退試合」の規定があった。
「顕著な功績をもつすべての10年選手は所属クラブとの合意に基づき、かつ最終的に現役を引退するにさいし、希望する地域において毎年11月15日以後エキジビションゲームとして引退試合を主催し、その収益金を取得することができる」