利府が古川学園を下し準々決勝進出 

山内(利府)

 利府が2対0で古川学園を下し、準々決勝進出を決めた。

 利府は3回に3番・竹内幹哉のセンター前タイムリーで先制。7回には2番・濱田恵多がセンター前にタイムリーを放って貴重な追加点を挙げた。投げては山内望が再三のピンチをしのいで完封。 小原仁史監督は「山内様様ですよね。粘ってくれた。以前はストライクが入らなくてピッチャーを辞めようかというところまで話したことがあるんです。コントロールがよくなって、打たせとるピッチングのコツを覚えましたね」と話した。

 利府は今春の県大会で準優勝し、宮城大会には第2シードで臨んだ。しかし、2回戦で白石工に2対3で敗れ、16年ぶりの初戦敗退を喫した。 それだけに「初戦がね、夏のこともあったので、地区(予選)の初戦と県の初戦と嫌なところはありました。でも、吹っ切らないと次の一歩は踏み出せませんからね」と指揮官。地区、県ともに初戦を乗り越えたわけだが、夏から秋にかけての短期間も平坦ではなかったという。

 夏が終わった7月16日、新チームは学校に帰るとすぐに練習をしたそうだ。

 主将も葛巻孝太に決まり、小原監督からは「春、もう1回、甲子園に行こう」と話しがあった。約1時間、聞き入った新生・利府ナイン。「感動して、気持ちが入りました」と葛巻は振り返る。利府は21世紀枠で出場した2009年のセンバツで4強入りしている。再び、甲子園へ――。地区予選から東北大会まで「12連勝してセンバツを決めよう」と走り出した。

 

試合シーン

 それが「一人一人の意識がバラバラでした」と葛巻。甲子園がピンと来ている者とそうでない者の差が出始めた。

 8月上旬の練習試合で1試合目が終わった後、小原監督は1年生の万城目 晃太をキャプテンにすることを告げた。春の県大会から外野のレギュラーをつかんだ技術以上に、野球に取り組む姿勢を評価したものだった。 「一石を投じたんですが、反応がなかったんです。本当にいいのか、2年生?と。(指導者を)30年やっていて、初めてですよ、下級生にキャプテンをやらせるなんて。野球ノートを書かせると、万城目は1ページ、きっちり書いてきます。ひどいやつだと3行とかで終わる。意識が違うんですよね」と小原監督。 その日の2試合目はそれで戦った。試合後のミーティングで「どうなんだ?」と体制を問うと、2年生の半分が万城目のキャプテンに賛成したのだという。しかし、半分は反対した。

 小原監督は「10対0ならいいけど、半分では任せられない」と判断。2年生は葛巻の主将を望んでいた。

 万城目はこう振り返る。「最高学年のカラーがチームのカラーになると自分は思っています。自分がキャプテンになるのも覚悟しましたが、一人でも認められない人がいるのならできないなと思いました」。

 5時間ほどの“下級生キャプテン”は、結果的に2年生を変えたようだ。自覚が芽生え、まとまりを欠いていたチームは同じ方向を向くようになってきた。昨秋は地区予選で敗退したのだが、今回は4戦全勝。この日の県大会初戦も勝利し、5戦無傷できている。一歩、一歩、着実に。

 チームを作ることは難しい。こうすればいいという正解はないし、毎年、人も違う。小原監督がチーム作りで大切にしているのは「本音をぶつけ合うこと」。チームリーダーを巡って本音をぶつけ合ったことが、今のチームには糧になっている。「チーム」になるために必要な“事件”だったのだろう。夏は短かったが、秋はまだ続く。準々決勝の相手は、今夏の初戦で戦った白石工に決まった。

 

(文=高橋 昌江)