な〜んか違う。ほんとうはもっと言いたいことがたくさんあった「あまちゃん」15週目
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な〜んか違う。
な〜んか違う。これは太巻(古田新太)が先週の「あまちゃん」で繰り返し言っていた台詞です。な〜んか違ったことといえば、アキたちGMT6が国民投票で少しでも票を得るべく、自分たちの認知度をあげるためにストリートライブを行った場所が、アキバだったこと。あんたたち上野が拠点じゃないの? って思っちゃったわけで(「北の国から」ふう)
いやいやいや、そういうことではなく。15週「おらの仁義なき戦い」は、威勢のいいサブタイトルに反して、な〜んか気持ちが晴れない週だったんですよねえ。それは日本の猛暑のせいかと思いきや、そうではなくて、アキ(能年玲奈)がとことん冴えない週だったからではないかと思うのです。
唯一、キラン!としたのは、小野寺ちゃん(優希美青)の母親役で石田ひかりが、アキの父・正宗(尾美としのり)と並んで登場したときくらいでしょうか。大林宣彦作品の常連同士!と80〜90年代大林映画に親しんだ者たちにとってはまぶしい共演でありました。
石田ひかりは、朝ドラOGのひとり(「ひらり」のヒロイン)であり、さらに「あまちゃん」のプロデューサー訓覇圭の奥様であるというスペシャル感でした。
ソレ以外はちょっともやもやしちゃいましたねえ。
4月からずっと、毎日「あまちゃん」を見て、アキの純朴な笑顔に癒されていたわけですが、15週のアキは見ていられなかった(涙)。
アキはアメ横女学園の国民投票でも42位という人気のなさで解雇されかけた上に、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)のはからい(要するにバーター)でもらえたドラマの端役も、40回もNGを出して、「女優に向いていない」と鈴鹿に早くも引導を渡されてしまいます。
幸い繰り上げ当選で解雇は免れたとはいえ、寂しい展開です。橋の上に佇むアキの姿に胸が締め付けられました。
14週で、宮藤官九郎作品は女性がみんな雄々しくていいと書いたばかりなのに、女のいやなところが出てきました。国民投票の結果をめぐっての入間しおり(松岡茉優)と宮下アユミ(山下リオ)のやりとりなどです。
ただ、それがものすごく類型的で、クドカン先生はこういうところを描くことにあまり興味がないように思いました。芸能界、アイドル業界、女子の関係性、恋愛、このあたりは、ごくごく基本的な「あるある」を抑えておけばいいという感じで、その基本線に乗らない部分を楽しんで書いているように思います。余剰部分を描くために類型を書いているとすら思えます。
三又又三(タレント) を出すとか、「新春SPおめでた弁護士」のAD(太賀)にわざわざ小池という名前をつけてアキのNGに使うとか(「BSプレミアム時代劇 静御前」のADには名前がないのに)、「あゆみさんがGMTやめるってよ」(「桐島、部活やめるってよ」にかけているんですよね、多分)とか、ヒビキ一郎(村杉蝉之介)の出世っぷりとか、「あらららおそろしい女。鬼嫁だあ(ユイのママのこと)」とか、心の重荷のことを「お土産」と称することとか。
もっとも、長い連続ドラマですから、ある種の停滞週があっても仕方ないでしょう。それにやっぱり主人公が一回、堕ちて、そこから這い上がってくることがドラマティックですから。
その証拠に、月曜から金曜までもやもやさせたところで、土曜に久しぶりの北三陸でアキの笑顔復活!という展開で、足立先生(平泉成)も退院して梨明日にまで来れるようになって、これで連休は心おきなく楽しめるわーという気分に。やっぱり計算され尽くしている気がします。
「ほんとうはもっと言いたいことがたくさんあったんだけど、しゃべりだしたら止まらない気がして黙ってました」という、北三陸に帰ってきたときのアキのセリフが胸に響きました。
あんなに東京ではナレーションをひとりごとのように(気配がうるさいと言われてしまうほどに)いっぱいしゃべっていたのにって。
そこで気を取り直して、15週の中から教訓を探してみますと(別に探さなくてもいいんだけど)、「なんか違う」とか「発注ミスさ」など言葉を2回繰り返すような、繰り返すことの大切さに行き当たりました。
水口(松田龍平)が今さらながら、 勉さんに言われた、琥珀を磨くこととアイドルの原石を磨くことが重ね合わせられことを「ようやくピンと来た」と言います(85回)。
名前が琢磨のくせに、そんなことも気付かねえのか!(アキふう)と呆れてしまいますけれど、人って、何かいいこと言われても、すぐにピン!と来て自分のものにできるばかりではなくて、あとになって、ああ!と思うことはよくあるものです。そう、落武者と影武者みたいなものです。
春子が、25年も経ってやっと夏にあやまってもらって、母娘の確執を解くことができた(12週70回)のも、それに近いような気がして。
どんなに時間が経っても、間違いを認めることはできる。正しい道に軌道修正することができるのです。電車のジャンクションみたいにキュッと方向を変えることが。
だから、ユイちゃん(橋本愛)、早く前のユイちゃんに戻ってほしいです。
海女カフェでアキが潮騒のメモリーズの勇姿を回想したときは切なかった。
なにしろ、スナックのカウンターの中に座っているヤンキー姿があまりにもあまりにも似合い過ぎて泣きそうになったあとでの回想は効果あります。
ユイは、よく言えば、女優の才能があるのでしょう。典型的アイドル少女にもなれるし、ヤンキー少女にもなれる。つまり、何にでもなりきれる人なのです。
その逆で、アキは役になれない。自分を捨てられないのです。それこそがスターの資質ともいえるでしょう。役になるのではなく、アキ自身の魅力で勝負するということです。
40通りもNGが出せるのはある種の才能と、太巻が嫌みなのか褒めなのかわからない評価をしていましたが、はたしてアキはこれからどうなる?
16週は「おらのママに歴史あり2」。なぜ太巻が、アキが春子の娘と聞いてから態度が変わったようにアキには思えるのか、その秘密がわかる? 鈴鹿ひろ美が「潮騒のメモリー」の記憶がない理由も出てくるかなあ。
それにしても、人は変われるっていったって、春子のメイクと服と訛りが変わり過ぎだあ・・・。大吉(杉本哲太)との関係の微変化にも嗚呼・・・って感じです。娘の気持ちは考えないのか。春子は。
そして時は2010年。静かに静かに今に近づいてきています。(木俣冬)
16週目へ
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な〜んか違う。
な〜んか違う。これは太巻(古田新太)が先週の「あまちゃん」で繰り返し言っていた台詞です。な〜んか違ったことといえば、アキたちGMT6が国民投票で少しでも票を得るべく、自分たちの認知度をあげるためにストリートライブを行った場所が、アキバだったこと。あんたたち上野が拠点じゃないの? って思っちゃったわけで(「北の国から」ふう)
いやいやいや、そういうことではなく。15週「おらの仁義なき戦い」は、威勢のいいサブタイトルに反して、な〜んか気持ちが晴れない週だったんですよねえ。それは日本の猛暑のせいかと思いきや、そうではなくて、アキ(能年玲奈)がとことん冴えない週だったからではないかと思うのです。
石田ひかりは、朝ドラOGのひとり(「ひらり」のヒロイン)であり、さらに「あまちゃん」のプロデューサー訓覇圭の奥様であるというスペシャル感でした。
ソレ以外はちょっともやもやしちゃいましたねえ。
4月からずっと、毎日「あまちゃん」を見て、アキの純朴な笑顔に癒されていたわけですが、15週のアキは見ていられなかった(涙)。
アキはアメ横女学園の国民投票でも42位という人気のなさで解雇されかけた上に、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)のはからい(要するにバーター)でもらえたドラマの端役も、40回もNGを出して、「女優に向いていない」と鈴鹿に早くも引導を渡されてしまいます。
幸い繰り上げ当選で解雇は免れたとはいえ、寂しい展開です。橋の上に佇むアキの姿に胸が締め付けられました。
14週で、宮藤官九郎作品は女性がみんな雄々しくていいと書いたばかりなのに、女のいやなところが出てきました。国民投票の結果をめぐっての入間しおり(松岡茉優)と宮下アユミ(山下リオ)のやりとりなどです。
ただ、それがものすごく類型的で、クドカン先生はこういうところを描くことにあまり興味がないように思いました。芸能界、アイドル業界、女子の関係性、恋愛、このあたりは、ごくごく基本的な「あるある」を抑えておけばいいという感じで、その基本線に乗らない部分を楽しんで書いているように思います。余剰部分を描くために類型を書いているとすら思えます。
三又又三(タレント) を出すとか、「新春SPおめでた弁護士」のAD(太賀)にわざわざ小池という名前をつけてアキのNGに使うとか(「BSプレミアム時代劇 静御前」のADには名前がないのに)、「あゆみさんがGMTやめるってよ」(「桐島、部活やめるってよ」にかけているんですよね、多分)とか、ヒビキ一郎(村杉蝉之介)の出世っぷりとか、「あらららおそろしい女。鬼嫁だあ(ユイのママのこと)」とか、心の重荷のことを「お土産」と称することとか。
もっとも、長い連続ドラマですから、ある種の停滞週があっても仕方ないでしょう。それにやっぱり主人公が一回、堕ちて、そこから這い上がってくることがドラマティックですから。
その証拠に、月曜から金曜までもやもやさせたところで、土曜に久しぶりの北三陸でアキの笑顔復活!という展開で、足立先生(平泉成)も退院して梨明日にまで来れるようになって、これで連休は心おきなく楽しめるわーという気分に。やっぱり計算され尽くしている気がします。
「ほんとうはもっと言いたいことがたくさんあったんだけど、しゃべりだしたら止まらない気がして黙ってました」という、北三陸に帰ってきたときのアキのセリフが胸に響きました。
あんなに東京ではナレーションをひとりごとのように(気配がうるさいと言われてしまうほどに)いっぱいしゃべっていたのにって。
そこで気を取り直して、15週の中から教訓を探してみますと(別に探さなくてもいいんだけど)、「なんか違う」とか「発注ミスさ」など言葉を2回繰り返すような、繰り返すことの大切さに行き当たりました。
水口(松田龍平)が今さらながら、 勉さんに言われた、琥珀を磨くこととアイドルの原石を磨くことが重ね合わせられことを「ようやくピンと来た」と言います(85回)。
名前が琢磨のくせに、そんなことも気付かねえのか!(アキふう)と呆れてしまいますけれど、人って、何かいいこと言われても、すぐにピン!と来て自分のものにできるばかりではなくて、あとになって、ああ!と思うことはよくあるものです。そう、落武者と影武者みたいなものです。
春子が、25年も経ってやっと夏にあやまってもらって、母娘の確執を解くことができた(12週70回)のも、それに近いような気がして。
どんなに時間が経っても、間違いを認めることはできる。正しい道に軌道修正することができるのです。電車のジャンクションみたいにキュッと方向を変えることが。
だから、ユイちゃん(橋本愛)、早く前のユイちゃんに戻ってほしいです。
海女カフェでアキが潮騒のメモリーズの勇姿を回想したときは切なかった。
なにしろ、スナックのカウンターの中に座っているヤンキー姿があまりにもあまりにも似合い過ぎて泣きそうになったあとでの回想は効果あります。
ユイは、よく言えば、女優の才能があるのでしょう。典型的アイドル少女にもなれるし、ヤンキー少女にもなれる。つまり、何にでもなりきれる人なのです。
その逆で、アキは役になれない。自分を捨てられないのです。それこそがスターの資質ともいえるでしょう。役になるのではなく、アキ自身の魅力で勝負するということです。
40通りもNGが出せるのはある種の才能と、太巻が嫌みなのか褒めなのかわからない評価をしていましたが、はたしてアキはこれからどうなる?
16週は「おらのママに歴史あり2」。なぜ太巻が、アキが春子の娘と聞いてから態度が変わったようにアキには思えるのか、その秘密がわかる? 鈴鹿ひろ美が「潮騒のメモリー」の記憶がない理由も出てくるかなあ。
それにしても、人は変われるっていったって、春子のメイクと服と訛りが変わり過ぎだあ・・・。大吉(杉本哲太)との関係の微変化にも嗚呼・・・って感じです。娘の気持ちは考えないのか。春子は。
そして時は2010年。静かに静かに今に近づいてきています。(木俣冬)
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