『映画「立候補」』
監督:藤岡利充 
出演:マック赤坂、羽柴誠三秀吉、外山恒一ほか
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6月29日より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

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7月4日に公示予定の参院選だが、2012年の衆院選の投票率は過去最低の59.32%。6月23日に行われた東京都議会議員選挙の投票率は、過去2番目に低い43・50%という、みんなの選挙への興味のなさは相当なもの。
同じ選挙でもAKB48選抜総選挙は元気。6月8日に放送された「AKB48第5回選抜総選挙生放送SP第1部」(フジテレビ)は、平均世帯視聴率は20・3%(関東地区)で、昨年の18・7%を上回り(ビデオリサーチ調べ)、瞬間最高に至っては32・7%、昨年の28・0%から4%も上昇したという大盛り上がりを見せた(数字だけ見たら選挙率のほうが高いんだけどね)。
こうなったら、選挙もエンタメ化するしかないのか!? 

そこで、最高におもしろい『映画「立候補」』の登場だ。
サブキャッチコピーは「ドキュメンタリーがエンターテインメントして、なにが悪い!」。
メインコピーは「負ケルトワカッテ、ナゼ闘ウ」である。
なんだか胸騒ぎがするではないか。それはまるで、映画「レスラー」的なロマンチシズムの。勝手に「あしたのジョー」の「美しき狼たち」が脳内を流れちゃいました。

「映画『立候補』」の主役はスマイル党代表・マック赤坂である。
「10度、20度、30度」と笑顔を推奨する奇異なパフォーマンスを見たことのある人も多いだろう。その持論を『何度踏みつけられても 「最後に笑う人」になる 88の絶対法則』(幻冬舎)という本として、このたび上梓している。
顔立ちや声は丹波哲郎にちょっと似ているかなという気もする、個性派俳優になりそうな人物である。
彼の政見放送はYouTubeで40万回再生されたというからスター性もまあある。

キャラは立っている。パフォーマンスが優れている。京大出ているインテリ(すげえ)。伊藤忠に勤務していたエリート(すげえ)。選挙カーはロールスロイス(かっけー)。そんな魅力的なマックであるが、みんなを代表する人にしたいと思う人は圧倒的に少なく、出馬するたび落選しているのだ。が、しかし、それって物語の主役としてはかなり理想的じゃないか。
彼の行為は華麗な経歴の持ち主ゆえの道楽なのか、それとも・・・!?という謎が立ち上ってくる。

『映画「立候補」』は、いわゆる泡沫候補のひとりであるマック赤坂の孤軍奮闘を、2011年の大阪府知事選の活動を中心に追いかける。
この選挙、橋下徹が府知事を辞職し、その後任を選ぶものであった。
選挙戦は、維新の会・松井一郎ほか3人の有力候補と、4人の泡沫候補によって繰り広げられるが、世間は3人の存在しかほとんど知らないという不平等な状況も映画では語っている。

マックは、候補者は全員300万円の供託金を平等に支払っているにも関わらず、某新聞が3人と4人の扱いをあからさまに変えていると指摘する。
そっか、そうなんだ。供託金のことと新聞の扱い。早くもふたつ勉強になりました。
こんな感じで、この映画、投票することよりも、投票されることーー立候補についてみるみるわかる大変ためにもなる映画である。
「投票」しようと煽るよりも、「立候補」という行為に興味が出て来る、この逆転の発想はすばらしい。参った。

立候補届け出の受付から、記者会見、選挙区域外も含めての街頭演説、政見放送、維新の会へ激励、橋下陣営の街頭演説との闘いなど、マックの奇行の数々が映し出される(マックのピンク主体の様々なファッションも必見!)。
その他の泡沫候補の活動の様や、めっちゃ求心力のある政見放送がYouTubeで140万回再生された活動家・外山恒一の、その伝説の政見放送とインタビューなどもある。

彼らは、外国人に怪訝な顔をされたり、日本人に邪険にされたりしながらも、孤立無援で闘い続ける。


マックも外山も一見あやしいが、マックは演説の原稿にはっきり伝えたい言葉には赤で丸をつけているし、自分の政見放送をチェックもしている。外山は演説のしゃべり方とインタビュー時のしゃべり方は全然違う。ふたりとも決して電波ではなく、逆にとてもテクニカルにパフォーマンスしているのがわかる。そうまでして、この人たちはなぜ落ちるに決まっている選挙に挑み続けているのか、映画を見ているうちに、最初、見えていたものとは違ったものが見えてくる。

ポスターなど作らず、ほぼ家にいるだけの岸田修。道行く人に挨拶くらいしかしない高橋正明。孫のような娘とふたり暮らしの中村勝。マックの奔放な言動を支え続ける秘書・・・監督・藤岡利充の眼差しは、彼らの極めて人間的でユーモラスな生き様を迫っていく。もう、こういう報われない系に弱いんだよなあ〜って思いつつ見入るばかり。高橋正明の素朴な言動なんかたまんないす。
青森で城に住んでいる羽柴誠三秀吉もインパクトあります。

ひとりでがんばっている人たちの顔は、みんな襞のたくさんある、いい顔ばかり。どんなにパリッとした顔をしていても、多数派の政治家たちの笑顔は、プラスチックのお面のようだ。
また、そんな彼らを遠巻きに見ながら、ヤジをとばしている群衆は、お面どころか、焦点がぼけてしまったような印象がする(肖像権の問題なのかもしれないけど)。「千と千尋の神隠し」のカオナシみたい。
そんな彼らにマック赤坂の息子が放つ言葉が痛烈に刺さるクライマックスはやばい。
なんだこれ、ほんとにドキュメンタリーか? フェイクじゃね?と疑ってしまうほど劇的だ。田戸達英の主題歌もたまらない。

人気タレントやベストセラーにヒットソング、大ヒット映画、すごく売れているらしいのに自分のまわりにはひとりもそれを好きな人がまったくいないことは世間の不思議現象のひとつであるが、選挙もそれに似ている。

自分のまわりには、3.11以降、「このままじゃダメだ」と声を出し、選挙にもちゃんと行っている人がたくさんいるのに、結果は惨敗。なんで?
顔の見えない多数派に勝てない口惜しさに悶々としたことのある人なら、「映画『立候補』」に、孤高の同士を見つけるだろう。そして、立ち上がれ。(木俣冬)