あまちゃん 完全版 DVD−BOX1
9月27日発売予定
販売元:東映株式会社・東映ビデオ株式会社
発行:NHKエンタープライズ

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6月10日〜15日「あまちゃん」11週「おら、アイドルになりてぇ!」では、これまで「おら、海女さんになりてぇ!」(もうなっちゃったけど)だったアキ(能年玲奈)が、アイドルになりたくなってしまいます。
ただ、そんじょそこらのアイドル願望ではなく、「歌って踊って潜ってウニとって上がって食わせる そんなアイドルになりてぇ!」(金曜日65回)という欲張りなものです。
アキは、海女もアイドルもサービス業、一生懸命サービスしてお客さまに喜んでもらうことでは同じと認識していました。

その夢をめぐって、アイドルになるなんて絶対許さない母・春子(小泉今日子)とアキがはじめて大げんかした65回の母娘対決には、エキサイトしました。
「歌って踊って潜ってウニとって食わせる」と言った春子に対して、「あがって食わせるだ。(中略)潜りっぱなしじゃそれこそバカだ」と揚げ足とりもはなはだしいアキ。母も娘もどっちもどっちです。

それにしても、最近の春子のヤンキー回帰っぷりにはビビります。このひと、地元に戻ってもう一度やり直すと考えたのは、ヤンキーである自分を取り戻すことだったのでしょうか。もしかして、東京ではぶりっ子していたのかな?

この母娘対決は放っておくとして、ここで気になったのは、アキの目指すアイドル要素に、南部潜りの要素を盛り込んでほしかったという磯野心平先生(皆川猿時)の台詞です。
「歌って潜って足場組んでふたり一組で作業するアイドル」とはバカバカしいけれど、
ふたり一組で作業するという部分はアキとユイのようで、なにげに言い得て妙なのです。
やっぱりアキとユイは2個イチの存在。
東京行きを阻止されて自宅にこもってしまったユイを外に出させるために、アキはイベント「海女〜ソニック」を企画(火曜日62回)、その飾り付けのために観光協会のビルに
飾ってあったアキとユイのイラスト看板を海女カフェに運び込みます。
そのとき、飾る場所に困った花巻(伊勢志摩・岩手県出身)が、看板をふたつに割るしかない、と提案しますが、どうやらアキが割らないで飾れるように工夫したようです。(水曜日63回)アキがユイとの関係をとても大事にしていることがわかる良いエピソードですね。

さて、ここへ来て、出戻りでふたりの子持ち・「わかるやつだけわかればいい」が口癖のちょっと無愛想な花巻さんが活躍しはじめました。
「海女〜ソニック」のネーミングも彼女のものですし、なんといっても木曜日64回、まさかのフレディ・マーキュリー!
海女〜ソニックで誰が何を歌うかヒロシ(小池徹平)が確認すると、レディ・ガガがかぶって笑わせたあと、花巻フレディが登場。その出番は、出し物の事前確認だけでなく、「潮騒のメモリー」の前に「いい塩梅にあたためておいたぞ」という本番まで続きます。
朝、一日のはじまりに笑うことの必要性を「あまちゃん」で認識する日々ですが、64回ほどの爆笑した回もありません。お腹抱えました。アマソニ→レディ・ガガ→フレディは宮藤官九郎らしいネタで、生き生きしています。
こういうものが朝ドラで見られるようになったことがほんとうに画期的。こうなるとなんだかお笑いも舞台も要らない、「あまちゃん」だけで充分、お腹いっぱいになりそうな気さえしてきます。

海女ソニックに集まった北三陸の人たちというかアキとユイのファンの人たちに、それほどクイーンが好きな人たちがいるとも思えませんが、現実世界では「あまちゃん」は、従来の視聴者にプラスして、こういった音楽ネタからアイドルやプロデューサーなどの芸能ネタに食いつくような新しい視聴者を採り込んだことで、視聴率があがっているともいえそうです。
80年代にアイドルやロックや映画などのサブカルに萌えた人たちが、今、朝ドラを見る主婦層になっていたり、朝、テレビを見ていられるフリーランスだったりしています。
春子役の小泉今日子、ヒビキ一郎役の村杉蝉之介(このふたりが海女〜ソニックでの対決は見物でした)、大吉役の杉本哲太、正宗役の尾美としのり、荒巻プロデューサー役の古田新太、ユイのママ役の八木亜希子、菅原役の吹越満たちが65年〜66年生まれの同級生年代(吹越は学年的には一年上)で、この層を中心にしたアラゴー(アラフィフ)、アラフォーの好むものを「あまちゃん」は巧みに盛り込んでいます。

アキが女優になりたいと思うきっかけになる、86年に公開され大ヒットしたという設定のアイドル映画「潮騒のメモリー」が「著作権の問題」で見せられないため、アニメ(鉄拳)で再現という演出も実験的でした。

そういうおもしろネタにはついていけないという年配層が、夏役の宮本信子や、弥生役の渡辺えり、かつ枝役の木野花たちで、彼女たちのついていけなさも月曜日61回にちゃんと描いています。
65〜66年生まれは、いろいろついていけない年配のひとたちと、アキ、ユイなどの若者たちをつなぐバトン世代として重要な存在です。

物語は次第にババア達がついていけない東京と芸能の世界に近づいてきています。
一足先に、水口(松田龍平)は東京に帰り(月曜日61回)、アキとユイを呼び寄せようと画策中です。「じぇっ句」という新語を発した(金曜日65回)水口ですが、彼が帰ってしまうところも人を食っていました。

水口は、琥珀の研究をしていると嘘をついて勉さん(塩見三省)に弟子入りして町に溶け込んでいましたが、バレて破門にされます。
そのとき、勉さんは「磨いて、磨いてやっと価値がでる。どんな原石も磨かなかったら価値がでない」という名言を吐くのです。
海女とアイドルも似ているという定義より前に、琥珀とアイドルも似ているんだ!という定義がされて感動! と思いきや、水口は餞別にもらった琥珀を置き忘れていく。じぇじぇ。

なんとも切ないのですが、この場面がないと、水口と勉とのわだかまりがよけいに後味悪いんです。苦笑してその回が終わるほうがまだ救われます。これも笑いの効能ですね。
ところで、勉さんの小田勉という名は、NHKの伝説のプロデューサー・和田勉(70〜80年代、土曜ドラマで名作を生んだ)から名前をとったのではないかと思われますが、個性派北三陸の人々の中でもより異質な勉さんの存在も何かと示唆に富んでいます。

今週は「おら、東京さ行くだ!!」。
ついに、アキとユイが東京に行ってしまうのでしょうか。そしたら、愛すべき北三陸市の人たちの出番は減ってしまうの? 町の人たちあっての「あまちゃん」といっても過言ではないのに。先週は「ヨイトマケの歌」を歌って弥生(渡辺えり)は相変わらず強烈ですし、眼鏡会計ババア・かつ枝(木野花)も活躍。「眼鏡ババア?」と、遅れたリアクションをするところは内縁の夫・六郎(でんでん)にもあり、夫婦は似ているということでしょうか。クドカン先生、「あまちゃん」では三段オチと、間を置いたボケ を多用しています)。
フレディで花巻さんも大活躍、美鈴(美保純)も水口との別れが粋でした。
そして、夏です。アキが東京に向かってこっそり家を出ていくとき、傍らで横になっている夏の目が半開きで、寝てる(ときは目が開いてしまう体質)のか寝ているフリ(のときは目をつぶっている。春子が家を出たときは目をつぶっていた)のか微妙というニクい演出になっています。

琥珀のように芸を磨いてきた俳優たちがいるからこそ、アキやユイのフレッシュさも引き立っていたわけで。町の人たちから離れたアキとユイは、自らを磨き始めるしかないのです! いや、既に、アキ、キレイになってきていますからね、なんとなく。(木俣 冬)

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