『爆笑問題と考える いじめという怪物』太田光、NHK「探検バクモン」取材班/集英社新書
「バラエティ番組やお笑いはいじめそのもの」「人の命を奪う危険性がある」と考える爆笑問題・太田。それぞれに考えを持つゲストたちと、座談会で議論を交わしてゆく。

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「いじめ問題に対して、正義漢になったり明快にならないように番組をつくった」

NHKで放映された「探検バクモン いじめ×爆笑問題」を書籍の形にまとめた『爆笑問題と考える いじめという怪物』の取材後記でディレクターが、そういうふうに書いている。

「教師の質が下がった」
「家庭や地域の教育力が下がった」
「テレビやゲーム、インターネットの悪影響」
「いじめという呼び方が悪い」

いじめ自殺などが起こると、急に大人たちが「正義漢」になって、あれが悪いこれが悪いと持論を展開しだす。僕もそういうこと、やってしまう。労力もお金も時間も使わず、今の社会の良くない所をあげるだけ、みたいな安易なやつ。

この番組はそういう立場を避けて作られた。爆笑問題の太田光による文章や、「いじめのない学校」東京シューレ葛飾中学校を訪問したドキュメント、様々なゲストを迎えた座談会が主な内容だ。

東京シューレ葛飾中学校は、不登校など様々な理由で転校してきた学生たちが、多様な学び方を実践していける学校だ。チャイムもなければ先生という呼び方もせず、紹介される試みの数々を知るだけでもわくわくする。太田が遠慮なく質問していく様子も、テンポよくまとめられている。

座談会では教育問題を研究する尾木直樹、滝充、さらに志茂田景樹、ROLLY、春名風花、そして東京シューレ高等部の人たちなどが参加し、いじめについて話す。複数のメンバーで語り合うことによって、いじめも、いじめに対する考えも、いかにひとりひとり違うかがわかる。

そして、「原因を突き止めて無くす」という「臭いものにフタ」方式ではなく、自殺など「とんでもないところ」まで進むのを防ぐにはどのような方法があるか、理論ではなく今現実でできることを探そうとし、実際の学校でのできごとや研究結果や意見を投げ合う。

いじめられている人にとっての「今」も大切に考えられている。

逃げるなり耐えるなりしていじめを乗り越えた人の一部は、「すぐに楽しい人生が待っているから死なないで」「あのとき人生をあきらめなくてよかった、思える日が来るはず」とか言う。

今日死ぬぐらい追い詰められた人が、明日のことや10年後のことなんて考えてる余裕はない。そこまで追い詰められる前にどうやってなんとかするのか、真剣に語られている。

太田光は「とにかく何でもいいから気になったことに対して問いを立てていくことが学問であり、生きることだ」というように書く。三島由紀夫やチャップリン、赤毛のアンなんかの生き方を例示して、自死、笑い、想像力について書く。これらがつながったりモヤモヤしながら、小学校高学年が読んでも理解できる日本語で、いい感じに並べてある。「俺はこうやったぜ」って温度にならないように書かれた十代の頃の話なども、今困っている人にとって、何かヒントになるかもしれない。

ついつい自分の経験や、根拠もない想像で「これがこうだ!」と言いたくなってしまう、いじめ問題。きっとテレビ番組では多くの子どもの目の前が明るくなったんじゃないかな、と思う。気になってたけど見逃したって人はもちろん、考え方や自分の人生に自信を持てるようになって、もう半分他人事になってしまった大人も是非