18日公開。「あまちゃん」絶好調、宮藤官九郎の「中学生円山」は男子中学生の妄想力映画
現在、連続テレビ小説「あまちゃん」が大好評の大人気脚本家・宮藤官九郎が監督をつとめた(もちろん脚本も)「中学生円山」が5月18日から公開される。
「考えない大人になるくらいなら、死ぬまで中学生でいるべきだ」と草なぎ剛が予告編で
叫んでいるように、この映画は男子中学生の想像力を超えた果てしないまでの妄想力に迫った作品。
「あまちゃん」ではピュアで健気な女子高生のドリームを描く宮藤が、「中学生円山」は、おバカな男子中学生のドリームを描く。
妄想のひとつには、やっぱりエロが含まれる。
タイトルロール円山克也(平岡拓真)の夢は、下半身に自分の舌を届かせることで、物語は、そのために体を柔らかくしようと自主トレするところからはじまる。
これって男子なら一度は夢見ることらしく、男は皆、この世界がよくわかると周囲の男子たち(元男子も含む)は大いに頷く。それは女子的に考えると、あともう少し巨乳だったら先端に自分の舌が届くかな、みたいな妄想と同じでしょ、と強がっていいですか。だってこの映画の妄想に参加したいのだもの。
いや、そんな外国ポルノみたいな大雑把なことじゃなくて、「中学生円山」は多感で傷つきやすい少年の思春期を甘酸っぱさとおもしろでふっくら炊き込み、今の日本を鮮やかに映し出した映画なのだ。
一生懸命、自主トレに励む克也に、「もうすぐ届くよ」とドッキリする言葉を語りかける男がいた。同じ団地に引っ越してきたシングルファザーらしき男・下井辰夫(草なぎ剛)だ。
この男、なんで自分がやってることを知ってるのか? 驚いた克也は、下井はこう見えて実は殺し屋(現代版子連れ狼)なんじゃないかと妄想をはじめる。
下井は克也の妄想話に耳を傾けてくれて、2人は、団地の住人たちにいろいろな設定を考えていく。父、母、妹、母が夢中になっている韓国から出稼ぎに来た電気屋、近所をうろつく老人、団地の住人たち、それぞれをヒーローや悪人などのキャラクターに仕立てて楽しむ克也と下井。
けれど、下井には妄想抜きでやっぱり何か秘密があるらしい。それは近所で起こった殺人事件と関係あるのだろうか?
下井を演じる草なぎ剛が、はやりのメガネキャラ。
メガネの奥の目が優しいのか怪しいのかミステリアスさを振りまいていく。
草なぎは大変静かな風情なのに、不思議なくらい強い引きがある。かつて彼がSMAPの中でおとなしい印象だったとは思えない。
今回も敵か味方か謎の男で、最近は映画にもなったドラマ「任侠ヘルパー」や舞台「二都物語」でも本心をひた隠して生きる骨っぽいヒーローを演じている。
妄想のもうひとつに、変身がある。
ひとはある瞬間、ふだんの生活で見せる顔とはまったく違った顔になるという妄想。
例えば、下井は子連れ狼で、近所をうろつく老人は、実は裏社会を牛耳る「認知症のデスペラード」(遠藤賢司)、転職して電気屋になった韓流スターは「処刑人プルコギ」(ヤン・イクチュン)、平凡なお父さんは正義の味方「キャプテンフルーツ」(仲村トオル)などなど、なんかもう、ネーミングも設定も衣裳も絶妙だ。
ロックミュージシャン遠藤賢司が、ヨタヨタしていたのにギターを弾くと豹変して、かっこよくなるシーンや、
「息もできない」のヤン・イクチュンが、電気屋がある瞬間、韓流スターの顔になって、主婦(坂井真紀)をメロメロにさせるシーン、
仲村トオルが、紫色過ぎるバットマンふう衣裳に身を包んだ姿など、足をバタバタさせるほど痛快。
特に推したいのは、太ったBボーイ細野。変じて、正義の味方になりきれなかった男ゴールドメッシュマンになる。
この役は「あまちゃん」で潜水土木科の先生を演じている皆川猿時が演じている。演劇好きなひとならおなじみの俳優で、「あまちゃん」の先生も体当たりで笑わせてくれるが、「中学生円山」でも相当のインパクトを醸す。このひとは、本当に演技という変身をしてるなあと思う。
変身願望を大いにくすぐる「中学生円山」。
そうだ、配給しているのは「仮面ライダー」や戦隊ものの東映である。
撮影の田中一成は、東映作品「仮面ライダー THE FIRST」「仮面ライダーTHE NEXT」や「ゼブラーマン」などを手がけているので、アクションものの醍醐味もたっぷり。
克也がヒーロー中学生円山になる、相撲の押し出しに似たポーズ(中と円と山の文字をかたどっている)もツボ。
克也の気持ちを翻弄する女子中学生ゆず香(刈谷友衣子)のシミーズでプールとかベッドで添い寝とかドキドキシーンも満載。
思春期のセンシティブなあれこれを、ユーモアたっぷりに描いた傑作に大林宣彦監督の「転校生」(「あまちゃん」のパパ役尾美としのりの出世作)があるが、「中学生円山」もエッチと変身という青春のドリームの2本柱を描いた映画として、長く語り継がれるだろう。(木俣冬)
「考えない大人になるくらいなら、死ぬまで中学生でいるべきだ」と草なぎ剛が予告編で
叫んでいるように、この映画は男子中学生の想像力を超えた果てしないまでの妄想力に迫った作品。
「あまちゃん」ではピュアで健気な女子高生のドリームを描く宮藤が、「中学生円山」は、おバカな男子中学生のドリームを描く。
タイトルロール円山克也(平岡拓真)の夢は、下半身に自分の舌を届かせることで、物語は、そのために体を柔らかくしようと自主トレするところからはじまる。
これって男子なら一度は夢見ることらしく、男は皆、この世界がよくわかると周囲の男子たち(元男子も含む)は大いに頷く。それは女子的に考えると、あともう少し巨乳だったら先端に自分の舌が届くかな、みたいな妄想と同じでしょ、と強がっていいですか。だってこの映画の妄想に参加したいのだもの。
いや、そんな外国ポルノみたいな大雑把なことじゃなくて、「中学生円山」は多感で傷つきやすい少年の思春期を甘酸っぱさとおもしろでふっくら炊き込み、今の日本を鮮やかに映し出した映画なのだ。
一生懸命、自主トレに励む克也に、「もうすぐ届くよ」とドッキリする言葉を語りかける男がいた。同じ団地に引っ越してきたシングルファザーらしき男・下井辰夫(草なぎ剛)だ。
この男、なんで自分がやってることを知ってるのか? 驚いた克也は、下井はこう見えて実は殺し屋(現代版子連れ狼)なんじゃないかと妄想をはじめる。
下井は克也の妄想話に耳を傾けてくれて、2人は、団地の住人たちにいろいろな設定を考えていく。父、母、妹、母が夢中になっている韓国から出稼ぎに来た電気屋、近所をうろつく老人、団地の住人たち、それぞれをヒーローや悪人などのキャラクターに仕立てて楽しむ克也と下井。
けれど、下井には妄想抜きでやっぱり何か秘密があるらしい。それは近所で起こった殺人事件と関係あるのだろうか?
下井を演じる草なぎ剛が、はやりのメガネキャラ。
メガネの奥の目が優しいのか怪しいのかミステリアスさを振りまいていく。
草なぎは大変静かな風情なのに、不思議なくらい強い引きがある。かつて彼がSMAPの中でおとなしい印象だったとは思えない。
今回も敵か味方か謎の男で、最近は映画にもなったドラマ「任侠ヘルパー」や舞台「二都物語」でも本心をひた隠して生きる骨っぽいヒーローを演じている。
妄想のもうひとつに、変身がある。
ひとはある瞬間、ふだんの生活で見せる顔とはまったく違った顔になるという妄想。
例えば、下井は子連れ狼で、近所をうろつく老人は、実は裏社会を牛耳る「認知症のデスペラード」(遠藤賢司)、転職して電気屋になった韓流スターは「処刑人プルコギ」(ヤン・イクチュン)、平凡なお父さんは正義の味方「キャプテンフルーツ」(仲村トオル)などなど、なんかもう、ネーミングも設定も衣裳も絶妙だ。
ロックミュージシャン遠藤賢司が、ヨタヨタしていたのにギターを弾くと豹変して、かっこよくなるシーンや、
「息もできない」のヤン・イクチュンが、電気屋がある瞬間、韓流スターの顔になって、主婦(坂井真紀)をメロメロにさせるシーン、
仲村トオルが、紫色過ぎるバットマンふう衣裳に身を包んだ姿など、足をバタバタさせるほど痛快。
特に推したいのは、太ったBボーイ細野。変じて、正義の味方になりきれなかった男ゴールドメッシュマンになる。
この役は「あまちゃん」で潜水土木科の先生を演じている皆川猿時が演じている。演劇好きなひとならおなじみの俳優で、「あまちゃん」の先生も体当たりで笑わせてくれるが、「中学生円山」でも相当のインパクトを醸す。このひとは、本当に演技という変身をしてるなあと思う。
変身願望を大いにくすぐる「中学生円山」。
そうだ、配給しているのは「仮面ライダー」や戦隊ものの東映である。
撮影の田中一成は、東映作品「仮面ライダー THE FIRST」「仮面ライダーTHE NEXT」や「ゼブラーマン」などを手がけているので、アクションものの醍醐味もたっぷり。
克也がヒーロー中学生円山になる、相撲の押し出しに似たポーズ(中と円と山の文字をかたどっている)もツボ。
克也の気持ちを翻弄する女子中学生ゆず香(刈谷友衣子)のシミーズでプールとかベッドで添い寝とかドキドキシーンも満載。
思春期のセンシティブなあれこれを、ユーモアたっぷりに描いた傑作に大林宣彦監督の「転校生」(「あまちゃん」のパパ役尾美としのりの出世作)があるが、「中学生円山」もエッチと変身という青春のドリームの2本柱を描いた映画として、長く語り継がれるだろう。(木俣冬)