『ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア』ジェフリー・ブラウン (著)富永 晶子 (翻訳) /辰巳出版
露出の多いドレスで決めている娘の前に立ちふさがって、
「そんなかっこうで出かけるのは許さん!」
と頑固に言い張っている父親。
よくある構図だけど、その父親がかのダース・ヴェイダー卿だとしたら?
そして説教されている娘が、あのレイア・オーガナ姫だとしたら?(ドレスはもちろん、ジャバ・ザ・ハットの館に幽閉されていたときのアレ)

ジェフリー・ブラウン『ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア』(富永晶子訳)は、仲睦まじい関係だった父と娘が、成長のきざはしを上る途中で思春期という難しい時代にさしかかり、互いの距離のとりかたに悩む姿を微笑ましく描いた大人の絵本である。
本当によくあるようなお話なのだけど、1つだけ他にはないことがある。それは、父親役を演じるのが映画〈スター・ウォーズ〉シリーズの名悪役ダース・ヴェイダー卿で、娘役がレイア・オーガナだということだ。
え、なぜ、そんなことになるのかって? よくわからない子は〈スター・ウォーズ〉シリーズを観返して復習してきてください。先生、自分で努力する子が大好きですよ。あ、時間がなかったら4〜6作だけでもいいですから。なんだったら「ジェダイの復讐」だけでもいいよ!

さて、ここからはダース・ヴェイダー卿の基本設定を十分ご存じのお友達と一緒に。
このジェフリー・ブラウンの絵本は、要するに「スター・ウォーズ」の世界を舞台にした二次創作である。映画の基本設定にはかなり忠実だが、作品世界の根幹を壊さない程度の改変はもちろんある。たとえば、あれ。「帝国の逆襲」のラストでハン・ソロがとんでもない目に遭わされるでしょう。なんであんなことになったかの理由をブラウンはレイアの口からこう語らせている。

「ひどいわ! わたしにキスしようとしただけじゃない!」

あ、なるほど。そういうことだったのか。娘に対して不埒な振る舞いに及んだ男を嫉妬したわけね……というように、ストーリー「父と娘」視点で再構成しているのである。だからあの有名な場面もこんな風にアレンジされる。

レイア「助けてください。オビ=ワン・ケノービ。あなただけが頼りなの」
オビ=ワン「待ってくれ、お父さんから小遣いをもらっていないのかい? いったい何に使うんだ? いやな予感がする……」

「助ける」ってそういう意味かよ!

こんな具合。楽しくて何度も何度も読み返してしまう本だ。私は別に「スター・ウォーズ」ファンではないのだけど、普通の親子関係を描いた作品として読んでもおもしろい。
本書は2012年に刊行された『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』の続篇にあたる作品だ。そちらの主人公は題名の通りルーク・スカイウォーカーである。ダース・ヴェイダーとルークがなぜそんなことになるのかよくわからない子は(以下略)。

私は、この『ルーク(4才)』が出たことにしばらく気づかないでいて、4ヶ月くらいしてから買った。そのときの奥付には第7刷とあるので、けっこうな勢いで売れたらしい(帯にはAmazon.co.jp書籍映画部門第1位とある)。買ってすぐ読んで、そしてやっぱり何度も読み返した。なぜかといえば、ダース・ヴェイダー卿とルークの「その後」の物語を知っているからだ。それを重ね合わせると、なんでもないショットもたちまち目に湿り気をくれる名場面に変化する。
たとえば、こんなの。ダース・ヴェイダー卿が幼いルークと遊んでいる。フォースの力を使って手の届かないところからルークをこちょこちょしているのだ。

卿「おまえはわたしの思うがままだ」
ルーク(4才)「ハハ、ヒヒヒ、ヒー!」

これって「ジェダイの復讐」のあの場面だよね。
幼いルークにはまだヴェイダー卿の仕事のなんたるかはわかっていない。だからこんなことを卿から言われても返答に困るのだ。

卿「そして父と息子として共に銀河を支配するのだ!」
ルーク「そしたらおやつくれる?」

『ルーク(4才)』の作者紹介によれば、著者のジェフリー・ブラウンは「半自伝コミックとユーモアあふれるグラフィック・ノベルの作家として最もよく知られる」「彼は映画『スター・ウォーズ』を観て、アクション・フィギュアで遊び、スター・ウォーズのトレーディング・カードを集めて育った。現在は妻のジェニファーと息子のオスカーとともに、シカゴに在住」とある(『レイア』では最後の部分が「ふたりの息子とともに」に変わっている。生まれたんだ!)。つまり大きくなったスター・ウォーズ・ファンなのだ。帯紹介文によれば本書は「ルーカス・フィルム公認」である由。公式ストーリーではないが、ファンブックとして認めた、ということなのかな。読めば絶対に「スター・ウォーズ」世界が気になってしまうこと間違いなしの本なので、その対応は正しいと思う。

『ルーク(4才)』も『レイア』も、最後は親子のハグのカットで終わる。何回も何回も見返してしまうページだ。すべてのパパと、これからパパになる人にお薦め。もちろんママにもね。
(杉江松恋)