新しい投資のかたち、日本のクラウドファウンディングの明日はどっちだ
ネット上であるプロジェクトを宣言し、広く薄く寄付や出資を募る「クラウドファウンディング」。アメリカで2009年にスタートした「Kickstarter」を皮切りに、日本でも複数のサービスが登場。新しい資金調達の仕組みとして、認知度が広まってきました。
このクラウドファウンディングをテーマにしたセミナーが、4月30日に都内で開催された「黒川塾(八)」です。当日は発起人でメディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏のもと、「MotionGallery」「CAMPFIRE」「READYFOR」「Anipipo」の4サービスの代表が集結。「クラウドファウンディングってなんだ・・・!?」というテーマにもとづき、その特徴や可能性について語り合いました。
黒川塾はレコード会社のアポロン音楽工業を振り出しに、ギャガ・コミュニケーションズ、セガ、デジキューブ、デックスエンタテインメント、ブシロード、NHN Japanとエンタメ業界を渡り歩いてきた黒川氏によるセミナーです。毎回多彩なゲストが登場し、エンタメの未来について語りあいます。内容はUstreamでライブ配信されるほか、電子書籍でも無料で配信されています。
さて、クラウドファウンディングは「おひねり」システムに似ているかもしれません。どんな画期的なアイディアも、お金がなければ絵に描いた餅です。これまでは銀行からお金を借りたり、投資家から出資を募る必要がありました。これをネットの力で広く薄く資金を募り、実現させるためのサービスです。もっともおひねりが「お代は見てのお帰り」なのに対して、こちらは事前に投資額と募集期間を設定する必要があります。
1.あるアイディアを実現させたいので、一ヶ月以内に百万円を募りたいと設定。概要や提案者のプロフィールなどをウェブ上にアップ。
2.賛同者が任意の金額を出資(ペイパルなどの少額課金システムで送金する例が一般的)
3.期限内に百万円が集まればプロジェクト成立。最終的に集まった金額から手数料を引いた額が受け取れる。集まらなければプロジェクトは非成立で一銭ももらえない(出資金は出資者に返還される)
4.提案者は資金を使ってアイディアを実現する(出資金に応じて特典が存在し、高額出資者ほどリターンが大きいのが一般的)。
草分けとされるKickstarterでは、Eインクによるディスプレイを供え、スマートフォンと連動する腕時計「Pebble」プロジェクトが1000万ドル以上(約10億円)の資金調達に成功し、話題を集めました。アニメスタジオのProduction I.Gも新作アニメ「キックハート」の制作にあたって20万ドル(約2000万円)の資金調達に成功しています。4月30日現在で総プロジェクト数は約9万6000件、総出資金額は5億9100万ドル(約590億円)にものぼっています。
ただ、当たり前なんですが「製品が完成しない」「クオリティが低い」「連絡が取れずお金だけ持ち逃げされる」なんて詐欺まがいのプロジェクトも、中には出てくるわけですよ。いってみればヤフオク詐欺みたいなモンもんでしょうか。Kickstarterも原則として「自己責任でよろしく!」という姿勢を見せています。
そんな風に大きな可能性も見せつつ、一方で炎上要素もたっぷりクラウドファウンディングが、はたして日本に定着するのか。当日は主要4サービスの代表者が直接会って議論をする、貴重な機会となりました。
MotionGalleryは映画系に強いクラウドファウンディングで、「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物」が1435万円を調達し、日本のクラウドファウンディングの最高額を記録しました。代表の大高健史氏は「有名クリエイターでも制作資金が集まらない現状を知り、インフラ作りをしたかった」と動機を説明。金融機関や投資家は過去の実績を重視するばかりで、作品面から投資判断をすることができないが、クラウドファウンディングならその代替機能が果たせるといいます。
CAMPFIREは音楽・映像・ゲームなど、幅広いジャンルに加えて、一風変わった「ネタ系」のプロジェクトも存在します。鼻型コンセントタップ「HANAGA TAP」(鼻型の形状で差し込み口が一つしかない)、「絶対に下着がみえない撫で方の研究と考察」(女の子が子犬を撫でる際に、絶対にパンチラしない方法を追求した映像作品)などです。もちろん、他にさまざまなプロジェクトが存在しますが、代表の石田光平氏は「非現実的なアイディアの資金調達はクラウドファウンディングならでは」とコメントしました。
2011年8月にスタートし、日本初のクラウドファウンディングとなったREADYFORは、社会問題の解決にフォーカスを当てています。総支援流通額も1億6千万円とトップで、これまでに3.11で被災した陸前高田市の図書館復興資金820万円を調達するなどしました。代表の米良はるかさんは、パラリンピックの有力選手が活動資金の獲得に苦心している状況を知り、「ネットで解決できるのでは!」と発案。紆余曲折を経てREADYFORの立ち上げにつながったと言います。
最後に5月中のスタートをめざして鋭意準備中のサービスがAnipipoです。由来は「アニメーションピープル」で、アニメ分野に特化したクラウドファウンディングが特徴。代表の平皓瑛氏は小中高とシリコンバレーですごした帰国子女で、海外でもっと日本のアニメを広めたいと起業。「クールジャパンなどと盛り上がっているが、ファンとクリエイターを直接つなぎ、現場にお金が落ちる仕組みを作りたい」と語りました。また東京とタイに拠点を設け、完成した作品を東南アジアで流通させたいと言います。
一方で進行ナビゲーターの黒川氏は、3月に米サンフランシスコで開催されたゲーム開発者向け国際会議「ゲームディベロッパーズカンファレンス」でのクラウドファウンディングに関する議論について紹介。Kickstarterのプロジェクト成功率が約3割であるとして、決してクラウドファウンディングが魔法の杖ではないと語りました。その上で「本当にクラウドファウンディングで調達することが正解なのか」と指摘し、資金調達で成功するには、作り手自身が自分自身と真剣に向き合うことが重要だとしました。
実は黒川氏をはじめとしたチーム・グランドスラムは、PCゲーム「モンケン」を制作するにあたり、CAMPFIREで出資をつのっています。目標金額は200万円で締め切りは6月21日。4月30日現在の支援金額は65万2650円。すなわち、あと数十日で目標金額に達成しなければゼロ円調達となってしまうわけです。それでも「事前にさまざまなパブリッシャーに話を持ちかけたが、マネタイズの方法論ばかり尋ねられて、正直萎えた」(黒川氏)ため、クラウドファウンディングに挑戦することにしたと言います。
ちなみに開発チームは「アクアノートの休日」でディレクターをつとめた飯田和敏氏、「バーチャファイター」のサウンドを制作した中村隆之氏、「ディシプリン*帝国の誕生」でアートディレクターをつとめた納口龍司氏と、蒼々たるメンバー。こういうクリエイターが会社に守られることなく、自分たちの実績とプライドをかけてゲーム作りに、それも資金調達から挑んでいるというわけです。普通は「失敗したらどうしよう」とリスクを考えるモンだと思いますが、いやホントに素晴らしいですね。
議論の中で米良さんの「言い訳がきかなくなっている社会」という言葉が印象に残りました。いまやクリエイティブに関して、さまざまなツールや環境が用意され、資金調達ですらクラウドファウンディングで行える時代。その上で実際に挑戦するか、しないかは、まさに自分次第だというわけです。クリエイター予備軍のみならず、プロが本気で新しい挑戦をする時代。「ツールはすでにある。どう使うか、そして何を作るかが大事だ」と黒川氏は語り、約1時間半のライブが終了となりました。
(小野憲史)
このクラウドファウンディングをテーマにしたセミナーが、4月30日に都内で開催された「黒川塾(八)」です。当日は発起人でメディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏のもと、「MotionGallery」「CAMPFIRE」「READYFOR」「Anipipo」の4サービスの代表が集結。「クラウドファウンディングってなんだ・・・!?」というテーマにもとづき、その特徴や可能性について語り合いました。
さて、クラウドファウンディングは「おひねり」システムに似ているかもしれません。どんな画期的なアイディアも、お金がなければ絵に描いた餅です。これまでは銀行からお金を借りたり、投資家から出資を募る必要がありました。これをネットの力で広く薄く資金を募り、実現させるためのサービスです。もっともおひねりが「お代は見てのお帰り」なのに対して、こちらは事前に投資額と募集期間を設定する必要があります。
1.あるアイディアを実現させたいので、一ヶ月以内に百万円を募りたいと設定。概要や提案者のプロフィールなどをウェブ上にアップ。
2.賛同者が任意の金額を出資(ペイパルなどの少額課金システムで送金する例が一般的)
3.期限内に百万円が集まればプロジェクト成立。最終的に集まった金額から手数料を引いた額が受け取れる。集まらなければプロジェクトは非成立で一銭ももらえない(出資金は出資者に返還される)
4.提案者は資金を使ってアイディアを実現する(出資金に応じて特典が存在し、高額出資者ほどリターンが大きいのが一般的)。
草分けとされるKickstarterでは、Eインクによるディスプレイを供え、スマートフォンと連動する腕時計「Pebble」プロジェクトが1000万ドル以上(約10億円)の資金調達に成功し、話題を集めました。アニメスタジオのProduction I.Gも新作アニメ「キックハート」の制作にあたって20万ドル(約2000万円)の資金調達に成功しています。4月30日現在で総プロジェクト数は約9万6000件、総出資金額は5億9100万ドル(約590億円)にものぼっています。
ただ、当たり前なんですが「製品が完成しない」「クオリティが低い」「連絡が取れずお金だけ持ち逃げされる」なんて詐欺まがいのプロジェクトも、中には出てくるわけですよ。いってみればヤフオク詐欺みたいなモンもんでしょうか。Kickstarterも原則として「自己責任でよろしく!」という姿勢を見せています。
そんな風に大きな可能性も見せつつ、一方で炎上要素もたっぷりクラウドファウンディングが、はたして日本に定着するのか。当日は主要4サービスの代表者が直接会って議論をする、貴重な機会となりました。
MotionGalleryは映画系に強いクラウドファウンディングで、「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物」が1435万円を調達し、日本のクラウドファウンディングの最高額を記録しました。代表の大高健史氏は「有名クリエイターでも制作資金が集まらない現状を知り、インフラ作りをしたかった」と動機を説明。金融機関や投資家は過去の実績を重視するばかりで、作品面から投資判断をすることができないが、クラウドファウンディングならその代替機能が果たせるといいます。
CAMPFIREは音楽・映像・ゲームなど、幅広いジャンルに加えて、一風変わった「ネタ系」のプロジェクトも存在します。鼻型コンセントタップ「HANAGA TAP」(鼻型の形状で差し込み口が一つしかない)、「絶対に下着がみえない撫で方の研究と考察」(女の子が子犬を撫でる際に、絶対にパンチラしない方法を追求した映像作品)などです。もちろん、他にさまざまなプロジェクトが存在しますが、代表の石田光平氏は「非現実的なアイディアの資金調達はクラウドファウンディングならでは」とコメントしました。
2011年8月にスタートし、日本初のクラウドファウンディングとなったREADYFORは、社会問題の解決にフォーカスを当てています。総支援流通額も1億6千万円とトップで、これまでに3.11で被災した陸前高田市の図書館復興資金820万円を調達するなどしました。代表の米良はるかさんは、パラリンピックの有力選手が活動資金の獲得に苦心している状況を知り、「ネットで解決できるのでは!」と発案。紆余曲折を経てREADYFORの立ち上げにつながったと言います。
最後に5月中のスタートをめざして鋭意準備中のサービスがAnipipoです。由来は「アニメーションピープル」で、アニメ分野に特化したクラウドファウンディングが特徴。代表の平皓瑛氏は小中高とシリコンバレーですごした帰国子女で、海外でもっと日本のアニメを広めたいと起業。「クールジャパンなどと盛り上がっているが、ファンとクリエイターを直接つなぎ、現場にお金が落ちる仕組みを作りたい」と語りました。また東京とタイに拠点を設け、完成した作品を東南アジアで流通させたいと言います。
一方で進行ナビゲーターの黒川氏は、3月に米サンフランシスコで開催されたゲーム開発者向け国際会議「ゲームディベロッパーズカンファレンス」でのクラウドファウンディングに関する議論について紹介。Kickstarterのプロジェクト成功率が約3割であるとして、決してクラウドファウンディングが魔法の杖ではないと語りました。その上で「本当にクラウドファウンディングで調達することが正解なのか」と指摘し、資金調達で成功するには、作り手自身が自分自身と真剣に向き合うことが重要だとしました。
実は黒川氏をはじめとしたチーム・グランドスラムは、PCゲーム「モンケン」を制作するにあたり、CAMPFIREで出資をつのっています。目標金額は200万円で締め切りは6月21日。4月30日現在の支援金額は65万2650円。すなわち、あと数十日で目標金額に達成しなければゼロ円調達となってしまうわけです。それでも「事前にさまざまなパブリッシャーに話を持ちかけたが、マネタイズの方法論ばかり尋ねられて、正直萎えた」(黒川氏)ため、クラウドファウンディングに挑戦することにしたと言います。
ちなみに開発チームは「アクアノートの休日」でディレクターをつとめた飯田和敏氏、「バーチャファイター」のサウンドを制作した中村隆之氏、「ディシプリン*帝国の誕生」でアートディレクターをつとめた納口龍司氏と、蒼々たるメンバー。こういうクリエイターが会社に守られることなく、自分たちの実績とプライドをかけてゲーム作りに、それも資金調達から挑んでいるというわけです。普通は「失敗したらどうしよう」とリスクを考えるモンだと思いますが、いやホントに素晴らしいですね。
議論の中で米良さんの「言い訳がきかなくなっている社会」という言葉が印象に残りました。いまやクリエイティブに関して、さまざまなツールや環境が用意され、資金調達ですらクラウドファウンディングで行える時代。その上で実際に挑戦するか、しないかは、まさに自分次第だというわけです。クリエイター予備軍のみならず、プロが本気で新しい挑戦をする時代。「ツールはすでにある。どう使うか、そして何を作るかが大事だ」と黒川氏は語り、約1時間半のライブが終了となりました。
(小野憲史)