実際に視聴者から3Dモーションを募集した『gdgd妖精s』2期のエンディング。菅原そうた監督とスタッフが考え、さらに多くの人と一緒に作ること、みんなを巻き込んでいく共同作品であることを意識したこの作品について話を伺いました。

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前編はこちら。

後編では制作過程と、『gdgd妖精s』の中に眠る隠しテーマに迫ります。

●みんながネタ元、闇鍋化学反応アニメ

菅原:共同作品というようなことを意識していたと思います。

───共同ですか。

菅原:1期は、友達トークの楽しいノリで、3DCG空間遊びを皆で考えて生まれた、存在自体がボケている、つっこまれパーティーアニメのような作品でした。2期も同じ手法で、福原和晃プロデューサーをはじめ、制作スタッブ全員で、脚本アイディアの種から全体の流れまで肩肘はらずにゼロから相談し合って、どんどんみんなでボケをかぶせ合って肉付け、「それいいじゃん!じゃ、さらにこういう感じのは?」みたいな制作体制ですかね?

───誰かがアイデアを出していくわけではないのですね。

菅原:お題案やギャグのネタ案、例えばしりとりでたくさん3Dオブジェクトを出すなどを、皆で出し合って、ひとつひとつの発言がアイディアのタネになって。皆で膨らませたものを脚本として書き上げていただいて、それをまた皆で膨らませて、ネタを詰め込んで、集大成の完成結果は開けてみないとわからない…みたいな? 皆で遊び狂って作ってるノリの「闇鍋」のような作品づくりですかね。

───開けてみないとわからない!

菅原:個人の思考を超えたスタッフ全体でのキャッチボール(友達同士の会話のノリ)という制作体制なので、みんなでワクワクドキドキ楽しむような今のネット文化というか、ネットを駆使する視聴者にも合っていて、化学反応をしながら、無意識で楽しみながら出来上がっる、新しい時代の制作体制だと思います。

───化学反応というのは言い得て妙ですね。

菅原:声優さん達も、その場のアドリブでどんどんオモロイ方向に頑張ってくださったのも熱の一貫ですし、きっと無意識に楽しんで収録に挑んでくださっていたと思います。


●視聴者もスタッフの一人
───菅原監督としてはどういう意識でしたか?

菅原:「映像的にテンポよく面白いアニメとしてつくれそう!」と、僕が納得できるところまで脚本を皆で一緒に練り上げるという点は、マストです。でも「gdgd妖精s」は、個人で抱え込んでつくる脚本や映像ではなく、みんなの会話から出来上がってゆく開けた脚本や映像ですし、皆で築き上げた集大成が「gdgd妖精s」そのものなので。プロデユーサーともども受け皿として、みんなの個を生かし合うような、共存を目指した監督を心掛けました。

───みんなの創作の集合体ですか。

菅原:視聴くださった方々が、祭りのようにネットで盛り上げてくれて参加してくれて、さらにコメントや創作物などで反応を返してくれたりそういうのもまた化学反応のひとつですし、とても嬉しくて、1期の時も2期の時も、制作の励みにもなりました。

───2期のチャレンジの一つとして、視聴者からEDを募っていましたね。これはどのような意図で行われたのでしょうか。

菅原:視聴者参加型の一翼を担えればと思った次第です。ぼく自身がニコニコ動画をよく見ていたので、ニコニコ動画内で起こっている化学反応を作品に生かせないかなぁという実験も込められています。意図的にというと戦略家みたいで嫌なのですが、皆で協力して一緒に盛り上がろうという気持ちの方が強いです! 

───皆に見ている人も巻き込んでしまう?

菅原:視聴者の方々とも共有して遊びたい!もっと広げたい!という意図といいますか。僕みたいな(一応プロではありますが)汚いCGよりもMMDerの方々の技術力が、はるかに高い領域に達しているじゃないですか! ぼくより上手な方にEDを作ってもらえれば楽なんだろうな〜、と思いました(笑

2期:ニコニコ動画関連作家資料
・歌ってみた&曲配布。(声優さん&井上さんでキャラソング)
・踊ってみた。(踊ってみたで有名な方たち[けいたん/さっちゃそ/ANDY]に、キャラソングの振り付けを依頼、ゼロシーセブン社にてダンス&モーションキャプチャ)
・踊ってみたのモーション作ってみた&モーション配布(モーション編集はMMD杯の運営されていたかんなさんに依頼)
・3Dモデルを配布(初音ミク創世記からの偉人 キオさんに新バージョンの3Dモデルを依頼、配布)
・アクセサリー配布(第1回のMMD杯から活躍されているポンポコPさんが善意で「森のおうちステージ」を制作してくれました)
・エフェクト配布(エフェクトは配布していませんが実際の現役バリバリの発明家の方々に協力してもらう)
など。

───むしろニコニコの視聴者の人達がスタッフの一人みたいです。

菅原:2期は、まさしくニコニコ動画恩恵を預りまくりのニコニコ派生アニメを地で行く形になりました。1期の終わりにオープニングPVコンテストを開催したときは、想像以上の反響で、視聴下さっている方々と触れ合えた感がとても新鮮だったので、2期では、もっと接近した形で、視聴下さっている方々と一緒に作品を高めたかったという意図もあります。

───あの人のだー、って反応もたくさんありましたね。

菅原:全員アドリブジャズっぽいからこそ起きる化学反応があって。それぞれの役職において皆が画期的な発明を生み出して、お互いにデータを渡しあって共同製作しているところが『gdgd妖精s』のノリに近いところもあるので、そういったエネルギーとシンクロができれば、より大きな「ボケあい」になっていきそうだ、という未知のワクワク感がありました。

───「MMD初挑戦です」という方も散見されました。
(編注:MMDとは『MikuMikuDance』のこと。非常にお手軽に3Dキャラクタームービーを作ることができる無料ツール)

菅原:MMDに初挑戦して参加くださった方が多数もいたことが、同じクリエーターとして、とても嬉しかったです。CGが上手な方でMMDに触れてこなかったクリエイターにも、MMDに触れて欲しいと思います。

───1期の時もでしたが、MMDを使ってほしいという意識がすごく強いんですね。

菅原:ぼく自身「絵が描けないけどCGだといろいろなモノがつくれるタイプの人間」なので、全くの未経験で新規の方が、もっともっと増えて欲しい!という気持ちもあります。高校生がバンド始めたり、アメリカの子供がラップを始めたりする気持ちと同じように、お金なくてもMMDで楽しめて、夢を叶えられるっぽいよ!ということを伝えたかったです。

───高校生バンドとMMD!なんだかちょっとわかります。ツールですね。

菅原:そもそもMMDという素晴らしいソフトが無料で配布されていることが、そういった寛大な意図を孕んだソフトだと思っていますので、まだMMDを知らない方がいるならば、ぼくも一役買いたいと思いました。これはきっと、僕だけの気持ちじゃなく、伝道師であるMMD杯の立ち上げ人で、今回モーション編集&配布を助けてくださった、かんなさんや、「初心者の方に向けた簡単に作れるよ!」という解説動画を制作くださったポンポコPさんや、善意で素晴らしい8等身モデルの提供に踏み込んでくださったキオさんや、お金を払って本当に実現させて下さった別所P、福原Pや、みんなの共通意思だと思います。


●gdgd妖精sは五次元の世界

───作り終えてみていかがですか?

菅原:1期での、企画してみんなで協力して創り上げた、萌えつつ笑えるということは変わらず、2期でのプラス要素として、空間ループ、時間ループとかぼくの趣味的なものもちょっとだけですが表現できて。もちろん僕の独断ではなく脚本家の大蔵くんも長部くんも、そういう事が大好きで意気投合してましたし、皆で相談して肉づけがあった結果、僕自身の趣味的に「哲学」や「SF」方向にいけたという事では、大満足です。

───「哲学」や「SF」といいますと?

菅原:個人的な解釈では、『gdgd妖精s』の5次元を描いたつもりなんです。

───4ではなく5ですか?

菅原:はい、1話から11話は「4次元的な視点で描いたgdgd妖精s」、12話は「5次元的な視点にちょっと踏み込んだgdgd妖精s」というような構造になっていると、考えていただけたら良いと思います。

───確かに今回タイムマシンで時間軸を行ったり来たりしていますね。

菅原:0次元は点、1次元は点がX軸に無限個連なった線、2次元は線がY軸に無限本連なった面、3次元は面がZ軸に無限枚連なった立体、4次元は今という瞬間にある立体が時間軸に無限個連なったような形として表現するとしますよね?

───あまり詳しくないのですが、gdgdでいうとどんな感じでしょう?

菅原:今の瞬間のピクちゃんが3次元のピクちゃんだとすると、生まれてから死ぬまでのピクちゃんのすべての瞬間の立体が連なった人生を全てひっくるめたものが、4次元のピクちゃんとして考えると解り易いと思います。

───なるほど! ピクちゃんが、過去と未来の自分を見たりしていますね。

菅原:例えば、ビデオテープの1フレームが3次元だとすると、ビデオテープ全体が4次元。この場合の5次元は、そのビデオテープが別の軸に無限本連なった形。つまり、少しずつストーリーの違った無限の確率の4次元のビデオが無限本つらなっている形が5次元だと思うんです。

───外側の世界というか、パラレルワールド的な感覚ですか。

菅原:とは言っても、3次元の球体を2次元の面の世界に見せても、2次元では2次元。なので、切り取られた円としか理解できないように、5次元の世界を3次元の世界に見せても、切り取られた3次元の形として見るのが普通です。ですから、ぼくたちのような「時間とともに動く3次元の世界の人間」が、5次元の世界を表現したり理解するのは難しいことだと思います。

───別の可能性の世界を、3次元的に見ていると。

菅原:こういう5次元は、『まどマギ』や『エヴァ』やサウンドノベルや、選択枝のあるギャルゲーでも描かれていることなので、そんな珍しい事でもないですが(笑)。違う確率の中で、違う確率の世界の『gdgd妖精s』があってもいいんじゃないかと思い、5次元視点で行き来きするようなお話が、『gdgd妖精s』の12話だと思います。

───確かにエヴァ学園編を思い出したファンもいましたね。

菅原:あとひょっとしたら、全て球場で気絶しているコロちゃんの夢の中という解釈もできますし、1期と2期が別の確率の世界という解釈もできるかもしれませんね。

───あそこまで引っ張っておいて、全部夢!(笑

菅原:解釈は視聴下さった方が自由に考えられるような余地を各所に残しているので、gdgd2期の正確なSF構造の解釈は、視聴くださった方が、それぞれ自由に決めて良いものだと思います。蛇足ですが、5次元=確率という考え方は、ひとつの解釈でしかなくて。他にも、素粒子の超ひも理論の世界とかM理論の世界とかだと、1次元の線を立体的に太さのある3次元のヒモとして捉えて1次元の線にもXYZ的な軸がコンパクトに織り込まれていて、そこをプラスして5次元6次元7次元…10次元みたいにカウントしていく事もできる……という考え方もあるみたいなので、確率=5次元っていうのも押し付けがましいひとつの案かもしれません(笑


●あったけぇな
───3人の妖精の間の絆が一期より深まっているように見えたのですが、意図している部分はありますか?

菅原:「この子たちの日常のワイワイ」をもう一歩踏み込んだ形で入れたらなという気持ちもあって、3人で温泉に行く回とか特に、皆で意識してつくったかもしれません。夜、天井見ながらみんなで寝ながらしゃべるのは、懐かしさもあり、あったかくて、絆が深い友情関係の一つの形だと思います。

───あーこの子たちほんと仲よかったんだなーと。

菅原:放送では「画面動け!」「手抜き!」とツッコミを入れて下さった方や、意図が伝わらず怒られた方もいたようなので、当初は予定していませんでしたが、いろいろなアングルをちゃんと見せるカメラ割りをしたアニメとして作り直したものをBD2巻に収録しています。特典制作の時期が丁度、12話放送分が終わったタイミングで、「gdgd妖精sの放送がおわっちゃった!」という悲しい気持ちだったので、独りで天井部分を作り直しながら「ああ、こんなことあった……」「やっぱり三人は仲がいいな」「あったけぇな」と。思い出しながら、学生の頃に行った修学旅行で撮ったのに見忘れてたビデオを一人で見て楽しかった思い出を懐かしむような、そんな気持ちになれて、泣けました。

(たまごまご)