ニコファーレの解説会場。常に対局場のあれこれや、ニコニコ生放送を見ている人のコメントが流れています。

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コンピュータはいったいどこまで進化することができるのでしょうか。

その可能性を垣間見せてくれるのが、人類 vs コンピュータで行われる「第2回将棋電王戦」です。昨年行われた米長邦雄 vs ボンクラーズの第1回将棋電王戦は、蟻の穴から万里の長城が決壊するような将棋でボンクラーズが勝ちました。リベンジマッチにあたる第2回は、人類側は将棋のプロ棋士5人、コンピュータ側は2012年世界コンピュータ将棋選手権で上位5つのソフトが対戦する団体戦となっています。

現在までの戦局は人類側の1勝2敗1分け。もう人類側に勝利はありません。最終戦で勝てば引き分けに、負ければコンピュータ側の勝利が確定するのです。

今まで、将棋はとても複雑だからコンピュータがプロ棋士に勝つのは難しいと言われてきました。オセロやチェスに比べて、取った駒を使うことができる将棋は考えなければいけないパターンがとても多いとされてきたのです。

そんなコンピュータ将棋はBonanzaの登場により長足の進歩を遂げ、ついにはプロ棋士を倒すようになりました。果たしてどこまで強くなっていくのでしょうか。今までの戦いを振り返ってみたいと思います。なお、第四局終了後のインタビューでドワンゴの川上会長から「この段階のそれぞれのソフトを永久保存したい」という話も出ています。

ところで、普段から将棋を見ていない人にはいったいプロ棋士がどのぐらい強いのかわからないと思います。プロ棋士の段位は基本的に昇段したら下がることは無いので、九段(段位としては最高位)だけれども実力はピークを過ぎてしまったとか、四段(四段からプロになる)なのだけれども実力は上り調子ということがあるのですね。なので、実力を統計的な数値データに置き換えたレーティングで表したこちらのサイトを参考に、解説も加えていきたいと思います。ちなみに左側が先手、右側が後手で、勝った方に○を負けた方には●をつけています。

■第一局:○阿部光瑠四段 vs ●習甦
阿部光瑠四段は若干18歳の棋士ですが、その実力は本物です。史上七番目の若さでプロ入りし、A級の棋士達も倒しています。レーティング的には46位ですね。プロ棋士側もかなり本気であることが伺えます。対する習甦はコンピュータ将棋選手権5位で、羽生善治三冠を倒すことを目標に開発されたソフトです。名前の中に「羽生」が入っているのが特徴です。
戦いは、阿部光瑠四段が完璧とも言える指し回しを見せました。事前の研究により、こういう形で隙を見せると相手は無理矢理攻めてくるということがわかっていたので、その通りに進み完勝です。

■第二局:○ponanza vs ●佐藤慎一四段
Ponanzaはコンピュータ将棋選手権4位のソフトです。iOS/Androidアプリの将棋ウォーズで戦うことができます。作者の山本一成氏は開発者陣随一の棋力を持っていて、事前にプロ棋士側に(研究のため)ソフトを提供するかと聞かれたときも「嫌です。これは勝負で、勝ちたいんで」と言っていたりします。後手側の佐藤慎一四段はレーティング的には95位。だいたい真ん中ぐらいと思うといいでしょう。プロになる年齢制限ギリギリでプロになった苦労人なのです。とても熱い人で、ブログを読んでもそれが伝わってきます。実は選ばれたのが、昨年の電王戦の際に「プロなら対コンピュータ用の作戦を使わずに勝つべきだ」と言ったからなのですね。そこで米長会長が「君なら別の作戦で勝てるのか」と聞き、「勝ちます!」と言ったことから選ばれたのです。
戦いは、序盤から複雑になります。ponanzaは定跡のデータベースを使わずに、序盤から指していたのですね。おかげで人間同士の対決だと稚拙とされる手が出てしまいます。でも、中盤でponanza側が挽回。ところがコンピュータの読みを上回る手を佐藤四段が繰り出し、やや人間側が有利に。その後は一進一退の戦いが続くも、最後的には体力切れからか残り時間が無くなったからか、ミスとも言えない手から佐藤四段が敗れてしまったのでした。

■第三局:●船江恒平五段 vs ○ツツカナ
三戦目に登場する船江恒平五段は、唯一昨年から電王戦出場が決まっていた若手棋士です。「人間界最強の詰まし屋」というキャッチフレーズがつけられていますが、これは2010年の詰将棋解答選手権で唯一の全問正解者として優勝したところからきています。さらにC級2組(1年間かけて戦うリーグ戦『順位戦』でのカテゴリー)で10戦全勝し、1年で昇級を果たしました。これは26年ぶりの快挙だそうです。レーティングは30位。今一番のりにのっている棋士と言えます。対するツツカナはコンピュータ将棋選手権3位のソフト。こちらはプロの指し手を参考にして、プロらしい手を指すように作られている「一番人間らしい手を指すソフト」と言えます。実は今回のソフトの中では、一番低スペックのマシンで動くソフトだったりもするのですね。プロに全力を出して欲しいということで、船江五段にはツツカナのサンプルソフトを、しかも限りなく本番に近い最新バージョンを提供しています。
戦いは、第二局よりも複雑に。第二局は定跡のデータベースを使わなかったことから、序盤から定跡を外れた展開になりましたが、ツツカナはあらかじめ定跡から外れる手を指すようプログラムされていました。これは、序盤の定跡研究ではプロの方が優れているため、多少不利でも勝ち負けのはっきりしない乱戦の方がいいと判断したからです。しかしその誘いに乗らずにどっしりと構えていた船江五段が戦いを有利に運びます。ところがコンピュータの驚異的な粘りと、プロ側の読みには無かった好手が出て、戦いは一進一退に。逆転に次ぐ逆転を繰り返し、最後にはツツカナ側に悪手が出たものの、疲労からか船江五段が精彩を欠く手を指してしまい、ツツカナが押しきったのでした。

■第四局:△Puella α vs △塚田泰明九段
いよいよ1勝2敗で後が無くなった4戦目。コンピュータ側のPuella αは第一回電王戦の勝者、つまりは電王であるボンクラーズの進化版です。コンピュータ将棋選手権2位のソフトですね。戦いのときにニコニコ生放送では「評価ポイント」が表示され、どちらが有利か不利かを数値でわかるようにしているのですが、この数値を出していたのがボンクラーズだったりもします。対する塚田泰明九段はベテラン中のベテラン。「塚田が攻めれば道理がひっこむ」と言われたほどの攻め将棋のスペシャリストで、「塚田スペシャル」という戦法を開発して22連勝したこともあります。でもそれは1986年の話。現在のレーティングは101位です。経験豊富なベテランがコンピュータとどう戦うのか、見所です。
戦いは序盤からお互いの陣を固める持久戦模様になりました。ところがPuella αの攻めがうまいことつながり、塚田九段がピンチに。ここで塚田九段は入玉することを決意します。相手の陣に王を運んでしまうと、基本的に将棋の駒は前に進むのは得意でも後ろに下がることは苦手なので、そう簡単には詰まされなくなります。プロの戦いでも例が少ないため、コンピュータ側に十分なデータがなく苦手とされています。塚田九段は、練習時にはコンピュータ側は入玉しない(触らなければ動かない)傾向があると思っていたため、多少の駒は犠牲にしてでも入玉し、守りを固めた上でじわじわと相手を倒すことを選択したのでした。ところが、塚田九段が練習していたソフトのバージョンは確かに入玉対策ができていなかったのですが、第一回電王戦の頃から入玉対策は搭載されていたため、Puella αも入玉。「相入玉」という形になってしまいます。そうなると、お互いの持っている駒の数をポイントにし(飛車と角が5点でそれ以外が1点)、点数勝負となりお互いが24点以上であれば引き分けになります。その時点で駒の数で大差をつけられている塚田九段にはもう勝ち目が無い……と思われたのですが、Puella α側が相入玉時の点数計算を重視した動きがインプットされていなかったため、妙な手を連発。その隙にじわじわと駒を取り返し、引き分け(持将棋)に持ち込むことができたのでした。塚田九段の執念の引き分けです。


■第五局:三浦弘行八段 vs GPS将棋
そして最終戦。プロ側の三浦弘行八段は10人しかいないA級棋士の1人です。1年間を通して戦う「順位戦」の最高位であるA級。このA級順位戦で1位になった人がその年の名人位挑戦者となるのです。このA級リーグで21連勝という前代未聞の連勝をしていたのが羽生善治三冠ですが、その連勝をストップさせたのがこの三浦八段なのですね。さらにはその昔、羽生七冠から棋聖のタイトルを奪ったのも三浦八段だったりします。まさに最強棋士の一人なのですね。レーティングは20位です。一方のGPS将棋はコンピュータ将棋選手権1位のソフト。なんと、東大にあるコンピュータ約800台を連結させる大規模クラスタ構成で戦います。1秒間に2億8000万手を読むことができるという、まさにモンスターマシンです。


この第五局は4月20日に行われます。そして、六本木にあるニコファーレで解説会が開かれます。第四局は、対局開始が10時からだったのですが、10時にはすでに満員、立ち見状態でした。おそらく今回の第五局はそれよりもかなり早い段階で満席となることが予想されます。立ち見になると、周りがLEDで囲まれている分、壁にもたれかけられないので注意しましょう。

果たして人類側が意地を見せて引き分けにするのか。はたまたコンピュータの勝利となるのか。間違いなく歴史に残るこの一戦を見届けましょう!
(杉村 啓)