特設コーナーで「かわいい絵」を元にしたしおりやスタンプも作れる

写真拡大 (全2枚)

「かわいい絵」ってなんだろう? 日本人はいつから「かわいい絵」を楽しむようになったんだろう?

こんな、今までになかった斬新で、現代的なテーマで実施されている展覧会が「かわいい江戸絵画」展です。東京・府中市美術館で5月6日まで開催されています。

ま、論より証拠で円山応挙の子犬や、歌川国芳の猫の絵を見ると、無条件に「かわいい」って感じがしませんか? 特に応挙の描く、ころころとした丸まっちい体や、つぶらな瞳は、一目見ただけで同意いただけるのではないかと。国芳の擬人化された猫たちは、玄人好みかと思いますが、猫好きにはたまらないところがあります。

でも「かわいい」という言葉の意味には、一筋縄ではいかない奥深さと、広がりがあるんです。そして、それを絵画として二次元のキャンバスに描き留める技法についても、長い年月が必要でした。本展覧会では、この「かわいらしさ」が内包するモチーフと、かわいらしさを表現する技法の両軸でもって、日本絵画史に切り込んでいきます。

とりあえず広辞苑で「かわいい」を調べると「いたわしい。ふびんだ。かわいそうだ」「愛すべきである。深い愛情を感じる」「小さくて美しい」という意味が掲載されています。英語の「アイムソーリー」と「アイラブユー」と「スモールビューティ」が同じ言葉なんですよ。ちょっと、ビックリしませんか?

ちなみにモノの本によると「かわいい」という言葉は、古代から中世にかけて用いられた「顔映ゆし(かほはゆし)」が語源なんだとか。そこから「かはゆし」→「かわゆい」→「かわいい」へと変化してきたんだそうです。それに伴って意味も「恥ずかしい」「気の毒だ」「いとおしい」と広がってきました。昔から日本人は、なんでもかんでも「かわいい」って言ってきたんですね、なるほどー。

というわけで本展覧会は第一部で「かわいい」という感情を「かわいそう」「健気なもの」「慈しみ」「おかしさ」「小さなもの、ぽつねんとしたもの」「純真・無垢」「微妙な領域」という7項目に因数分解し、それぞれに対応する作品を展覧します。ビックリしたのは、森一凰の「豆兎図」。江戸時代後期の日本画にもかかわらず、目にハイライトが入ってるんですよ! 少女漫画の「目がキラキラ」の元祖はこれかーっ!? すみません、ちょっと言ってみたかったモンで。

続いて第二部では「かわいい形」と題して、かわいいモチーフをかわいく描くための技法のあれこれが「幾何学・省略・くりかえし」「子どもの形」「つたなさの魅惑」「素朴をめぐる目」「絵本」という小分類で考察されます。興味深いのは「下手だからこそ愛おしい」という、ヘタウマの魅力が見られること。超絶技法で知られる伊藤若冲が、伏見人形の絵を描くに、子どものラクガキみたいなタッチで描いてます。だからこそ愛らしさが出ている。いやーしびれます。

んでもって第三部で「花開く『かわいい江戸絵画』」と題して、江戸時代のさまざまな「かわいい絵」が紹介されています。鬼っ子として紹介されているのが「虎の絵」の数々で、体はどう猛でも、どこか「大きな猫」っぽくて、ユーモラスなんですよ。ぶっちゃけ江戸時代の絵師は本物の虎を見たことがなかったわけですが、だからこそ「百人百様とも言える面白さに溢れている」(図録より)のかもしれません。うーん納得です。

それにしても、江戸時代と言えば西洋美術史でいえばロマン派そして写実派の最盛期。人物画といえば骨格や筋肉を意識し、しっかりしたデッサンのもとに描くのが良しとされていました。そうした風潮にオランダ経由でもたらされた浮世絵が一石を投じて、印象派へと繋がっていくのは良く知られている通りです。その一方で江戸では猫が浴衣を着て、船遊びをする団扇絵が描かれていた......。この違いはおもしろいですよね。

今や「かわいい」という言葉は日本を飛び越え、「KAWAII」として世界の共通語になろうとしています。そこにあるのは日本、そして東京的なものに対する憧憬ともいえるでしょう。そんな世界でもユニークな概念そして表現がどこから来たのか。その源泉に触れてみるのも一興かと思います。前期(3月9日−4月7日)と後期(4月9日−5月6日で全作品が入れ替えられ、チケットの半券を見せれば入場料が半額になるサービスもあるので、ぜひ足を運んでみてください。
(小野憲史)