(※写真はイメージです/PIXTA)

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夫婦の収入を合算して購入予算を引き上げる「ペアローン」。しかし、長い返済期間のあいだには、購入時には微塵も想像できなかった人生の坂道が現れることも。本稿では、ペアローンで9,000万円のマイホームを購入した長井夫婦の事例とともに、ペアローンの本当のリスクについて、ファイナンシャルトレーナーFP事務所の森逸行氏が解説します。

「もっと高くなるかも…」30代共働き夫婦、9,000万円の決断

「住宅価格はこれからも上がるかもしれない。買うならいましかないと思いました」

そう話すのは、長井さん(仮名/30代)。夫は会社員で年収700万円、妻は看護師で年収500万円。4歳の娘を育てる3人家族でした。

都内近郊でマイホーム探しを続けていましたが、希望するエリアでは物件価格が年々上昇。ようやく見つけた理想の一戸建ては9,000万円でした。単独ローンでは借入額が足りず、夫婦それぞれが住宅ローンを契約するペアローンを選択します。

家族3人で幸せに暮らしていけると思っていました」

そうして、希望に満ちた新生活をスタートさせました。

住宅ローンを返すために生きている」仕事中心の生活へ

しかし、マイホームを手に入れてから長井さんの生活は大きく変わります。

9,000万円という大きな住宅ローン。「絶対に返済が遅れるわけにはいかない」という責任感から、残業や休日出勤も断れなくなり、仕事中心の毎日に……。帰宅後も仕事のことが頭から離れず、休日も心から休めず、「住宅ローンを返済するために働いている」とまで感じたそうです。家族との会話も少しずつ減っていきました。

ある休日、仕事のことで頭がいっぱいになっていた長井さんに、4歳の娘が「パパ、お話聞いてる?」と声をかけました。その一言にハッとしたものの、心にも時間にも余裕はなく、「あとでね」と返したものの、その“あとで”が訪れることはありませんでした。

「住宅を買って幸せになるはずだったのに、いつの間にか住宅ローンのために働き、家族との時間まで失っていました」

長井さんは、当時をそう振り返ります。

購入から3年後に休職、夫婦のすれ違いの果てに…

限界を超えて走り続けた身体は、マイホーム購入から3年後のある日、突然悲鳴を上げました。

夜眠れない。朝起きられない。仕事への意欲もなくなってしまいました。過度な重圧から心身のバランスを崩してしまった長井さんは、会社を長期休職せざるを得なくなります。休職に伴い、収入は減少。夫婦で描いていたライフプランは破綻してしまいます。

生活が変わったなかで、夫婦のあいだにも少しずつ溝が生まれました。収入減による家計への不安に加え、住宅ローンの返済や将来への心配が重なり、以前のように夫婦で将来を前向きに語り合う時間はなくなっていきました。

お互いを支えたいという気持ちも心のどこかに残っていたものの、少しずつ価値観のズレが生じ、最終的に2人が選んだのは「離婚」という決断でした。長井さんは「ペアローンを組んだとき、離婚なんて考えたこともありませんでした」といいます。

700万円ずつ持ち出しが発生…ペアローンの後始末

離婚後、長井さん夫婦を待っていたのは、住宅ローンの問題でした。ペアローンは、夫婦それぞれが別々に金融機関と住宅ローン契約を結んでいます。そのため、離婚したからといって契約がなくなるわけではありません。長井さん夫婦は住宅を売却することを決めました。

しかし、住宅価格の下落や諸費用の影響もあり、売却代金だけでは住宅ローンを完済することができませんでした。長井さんのケースでは、夫婦それぞれが約700万円ずつ不足分を自己資金で負担することになったのです。さらに、共有名義だったため、売却手続きや金融機関との調整もスムーズには進みませんでした。

離婚そのものもつらかったですが、それ以上に住宅ローンの整理が大変でした」長井さんは、そう振り返ります。

「ペアローン」の本当のリスク

筆者はこれまで、多くの住宅購入やライフプランの相談を受けてきました。その経験から伝えたいのは、ペアローンを組むうえでの“本当のリスク”です。

住宅価格が高騰するなか、ペアローンはマイホーム購入を実現する有力な選択肢の一つでしょう。ペアローンには、借入額を増やせることや住宅ローン控除を夫婦それぞれ利用できるといったメリットがあります。しかし一方で、病気や休職、転職、出産、そして離婚など、ライフプランが変わったときのリスクがあることも見落としてはなりません。

住宅ローンは、「借りられる金額」で決めるものではなく、「将来も返し続けられる金額か」--この視点がなにより重要です。

ペアローンを組んだときには毛頭なかった選択肢

「まさか自分たちが離婚するなんて思っていませんでした。なによりつらかったのは、大好きな娘の何気ない一言を、もう毎日聞けなくなったことです。もっと話を聞いてあげればよかった」

長井さんの言葉は、多くの共働き夫婦に「住宅ローンはいまの収入ではなく、人生そのものを見据えて考えることの大切さ」を教えてくれています。

森 逸行

ファイナンシャルトレーナーFP事務所

代表