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東北地方の場外馬券売り場で約20年間、無期雇用・フルタイムで働く女性が、「正社員との待遇差は不合理な差別だ」として勤務先に損害賠償を求めた裁判で、仙台高裁は2025年9月、一部の待遇差を違法と認めた。今年4月、この判決が確定した。

この判決の特徴は、無期雇用者同士の不合理な待遇差も違法になり得ると高裁が認めたことだ。一方で、違法と評価する期間を2020年4月以降に限定したため、一審で約586万円とされた賠償額は約193万円へと大きく減額された。

なぜ賠償額に約3倍もの差が生じたのか。そこには金額だけでははかれない理由が込められている。そして、この判決はどのような意義があるのだろうか。労働問題にくわしい専門家に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●「正社員と変わらない仕事なのに待遇が違う」

判決によると、女性は2002年4月、テレビ局の子会社に入社し、東北地方にある同社の場外馬券売り場で事務職員として一般事務を担当してきた。

雇用契約は期間の定めのない「無期」だったが、社内では当初「嘱託」、その後は「無期契約社員」と位置づけられた。同じく無期で働く正社員と比べ、基本給や賞与、家族手当、住宅手当に差があった。

女性は、別の支所で同様の事務を担う正社員と職務内容はほぼ同じであるにもかかわらず待遇が低いのは、労働契約法3条2項に反し、憲法14条や民法90条が示す「待遇均等」の公序にも反する不合理な差別だと主張。不法行為に基づき約3565万円の損害賠償を求めて2023年に提訴した。

●制度の「空白」が最大の争点に

同一労働同一賃金を定める短時間・有期雇用労働法8条・9条は、パートや有期雇用の労働者と「通常の労働者」との不合理な待遇差を禁じている。

しかし、女性は無期雇用・フルタイムで直接雇用されており、法令上は「通常の労働者」にあたる。そのため、この規定の対象から外れる。

一方で、無期雇用者同士の待遇格差を直接禁じる法律は存在しない。

この「制度の空白」を裁判所がどのような法的根拠で埋めるかが、最大の争点となった。

●一審「待遇差は違法」

一審・青森地裁八戸支部は、労働契約法3条2項の趣旨からすれば、無期雇用者同士であっても、待遇の性質や目的、職務内容などに照らして不合理な差別的取扱いは許されず、不法行為が成立し得るとの考えを示した。

そのうえで、基本給については、本社の正社員との職務内容や責任に違いがあり、比較対象とした別の支所の正社員も会社の事情で例外的に有利な扱いを受けているに過ぎないとして、違法性を認めなかった。

一方、賞与、家族手当、住宅手当については、いずれも待遇差に合理的な理由はないとして違法と判断。賞与は、比較対象となる正社員の7割を下回る部分、家族手当は生活費補助という性質、住宅手当は転勤実態の乏しさなどを踏まえ、それぞれ差額の賠償を命じた。

賞与と住宅手当については、いずれもおおむね2012年4月以降、家族手当については除斥期間が及ばない2003年4月以降の差額として計586万8328円が認められた。

●二審も違法性は認めるも賠償額は3分の1に

仙台高裁も、賞与、家族手当、住宅手当の待遇差は違法と判断した点では、一審と結論は変わらなかった。

しかし、違法と評価する期間については異なる考え方を示した。

高裁は、働き方改革関連法が施行された2020年4月1日以降になって初めて、無期雇用者と正社員との均等・均衡のルールが「公序として社会に確立している」と判断した。

それ以前は、公序として確立していたとまではいえず、労働契約法3条2項も訓示的な規定にとどまるとして、2020年3月以前の待遇差に不法行為は成立しないと結論づけた。

その結果、違法と認める期間は2020年4月以降に限られ、賠償額は193万5252円に減額された。

女性のみが上告受理を申し立てたが、最高裁第三小法廷は2026年4月、申立てを受理せず、高裁判決が確定した。

●賠償額を左右した「公序」の成立時期

一審と二審を分けた最大のポイントは、「無期雇用者同士の待遇格差を許さないという考え方が、いつ法的に保護される“公序”として成立したのか」という点だった。

一審は、職務の同一性が認められるようになったおおむね2012年4月以降を救済対象とした。これに対して、二審は、働き方改革関連法の施行日である2020年4月を公序成立の時点とし、それ以前の待遇差について違法と認めなかった。

今回の女性は無期雇用だったが、「無期なのに正社員ではない」という待遇格差は、有期契約から無期転換した労働者にも共通する問題であり、実務への影響は小さくない。

●専門家「立法の不備が生んだ問題」

今回の判断をどう見るべきか。労働法にくわしい笠置裕亮弁護士に聞いた。

──無期雇用者同士の待遇格差を禁じる規定がない現状をどう評価しますか。

端的にいえば、立法の不備だと考えています。

2013年4月に無期転換ルールが導入された時点で、無期雇用者同士にも不合理な待遇格差が生じうることは当然予想されていました。

無期転換ルールは、いつ雇止めされるかわからず、雇止めされた場合に法的な救済を求めにくい有期契約労働者の雇用を安定させるために設けられた制度です。

しかし、無期転換後も待遇が低いままでよいわけではありません。

そもそも有期契約労働者の処遇改善を図る旧労働契約法20条と同時に制定された規定で、これらは両輪となって、有期雇用労働者の均衡均等待遇を実現する方向で機能することが想定されていたのです。

実際、立法時にもそれを反映した当時の厚労副大臣の発言(※)があります。

ところが残念ながら、無期雇用者どうしの待遇格差の是正は進みませんでした。

政府の審議会で、労働側から、無期雇用者同士の待遇格差を是正するルール作りの必要性が主張されたのですが、経営側の反対に遭い、法改正が見送られてしまったという経緯があります。

本来は、無期転換ルールの制定と同時に、立法的な解決が図られるべきだったと考えます。

●「判決の意義は大きい」

──今回の仙台高裁判決の判決をどう評価しますか。

法の不備によって救済が図られていなかった無期雇用者同士の待遇格差について、不法行為の成立を認めた点は、大きな意義があります。

企業は、無期雇用者同士であっても合理性のない待遇格差を放置することは許されないことになり、実務への影響も極めて大きいでしょう。

ただ、公序が成立した時期を2020年4月とした点については、やや遅すぎる印象があります。

●「立法されたから公序になった、ではない」

──高裁の線引きには問題があるということでしょうか。

2000年代以降、雇用形態による格差問題は社会問題となり、2007年にはパートタイム労働法が全面的に改正されました。

ところが改正法は実効性に乏しく、待遇格差は是正されませんでした。

このような問題意識を受け、2007年12月には労働契約法3条2項が確立し、2012年8月の労働契約法改正時には無期・有期契約労働者間の労働条件につき不合理な相違を禁止する規定が新設されました。

当時、無期・有期契約労働者間の格差がとりわけ顕著だったため、立法ではその点の手当にとどまったわけですが、一連の立法の底流にあるのは、雇用形態にかかわらない同一労働同一賃金の理念です。

社会の中でこの理念が結実したのが2020年4月1日から施行されたパートタイム有期法でした。

しかしそれ以前から、すでに社会のなかで公序たる理念として共有されていたからこそ立法化が実現していたのであって、「立法化が実現したから公序になった」というのは、論理の順番が逆なのではないでしょうか。

●企業にも格差の見直しが求められる

──今後はどのような対応が求められるのでしょうか。

無期雇用者どうしの待遇の格差、特に無期転換社員と通常の正社員間の格差については、立法化は見送られたものの、無期転換者と正社員との待遇格差は、政府も課題として認識しています。

多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書(2022年3月)では、「有期労働契約の時点で通常の労働者との均衡が図られるべき」「フルタイムの無期転換者と他の無期契約労働者との待遇の均衡は、…労働契約法3条2項を踏まえた均衡の考慮は無期転換者についても求められるものであり、その点の周知を図ることが適当である」と述べられていました。

今年10月から施行される同一労働同一賃金ガイドラインでも、労働契約法3条2項が引用された上で、無期転換後の待遇について正社員との均衡を事前に点検し、不合理な格差があれば「確実に解消することが求められる」と、さらに踏み込んだ是正を求めています。

今回の判決は、そうした流れを後押しするものです。企業には、無期雇用者の待遇に合理性があるといえるか、改めて点検することが求められるでしょう。

●原告女性「今後の議論につなげてほしい」

裁判を終えた女性は、次のようにコメントした。

「裁判の中では、事実とは異なる内容が取り入れられたり、証拠のない主張が事実として認定されてしまった部分もあり、悔しさや疑問が残っています」

一方で、同じような立場にある労働者や、今後の議論や制度改善のため、判決が生かされてほしいと期待を寄せた。

(※)当時の厚労副大臣の答弁

「無期労働に転換された労働者の労働条件が正社員と比べて低いままではなく、正社員の労働条件との均衡を考慮して、有期労働契約時の労働条件よりも引き上げられる、このようにしていくべきと考えますけれども、いかがでしょうか。」との質問に対し、「今回の改正は、有期労働契約の雇用が不安定であって、雇い止めを恐れて年休取得等の権利を十分に行使することができないといった課題を解消することがまずは重要であるという視点に立ちまして、無期転換によって、雇用不安をなくし、労働者としての権利行使も容易にして、安心して働き続けることができるようにするためのものであります。こうした無期転換によって、使用者との交渉力が向上することで継続的な能力形成も容易となりますし、また、処遇の改善や正社員に向けたステップアップにつながるものでありますので、無期転換ルールは正社員化推進の基盤になるというふうに考えております。」(第180回国会 衆議院 厚生労働委員会 第15号 平成24年7月25日)

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」「就活前に知っておきたいサクッとわかる労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/