生成AIの「記事のただ乗り」をめぐって、国内外のメディアとテック企業が揉めている。デジタルハリウッド大学の占部雅一特任教授は「活字メディアにとってが従来のビジネスモデルが崩壊しかねない事態だ。米欧では対策は進むが、日本は出遅れ感が否めない」という――。

■生成AIの登場でメディアにおける大変化

「もはやトラフィックはバリューではなくなる」――。

今年10月14日、世界的なセキュリティ企業Cloudflare(クラウドフレア)のCEO、マシュー・プリンス氏は、ラスベガスのコンベンションセンターでの同社のグローバルイベントにおいて、この刺激的なメッセージを発しました。これは、パブリッシャー(新聞、出版者など事業者)にとって、従来の「トラフィック(ページビュー)ベースの広告モデルが機能しなくなる」ことを意味しています。

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Cloudflare(クラウドフレア)のCEO、マシュー・プリンス氏 - 筆者撮影

「生成AIは、パブリッシャーからコンテンツをタダで奪っている。しかも、トラフィックをメディアに対して、ほとんど戻さない。いまこそ生成AIに対するメディアの権利と利益を守る仕組みが必要だ」

マシュー・プリンス氏は、本業のセキュリティ事業という枠を超え、生成AIによるコンテンツの「ただ乗り」を防ぎ、パブリッシャーとの共存を実現する新しい防衛策の必要性を提唱したのです。その意図とはなんでしょうか?

2022年11月のChatGPT登場以来、Google、Microsoft、Metaなど巨大テック企業が次々と生成AIを発表し、その能力と普及の勢いは加速の一途をたどっています。

写真=iStock.com/Kenneth Cheung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kenneth Cheung

■「記事のただ乗り」が横行

わずか3年ですが、いまでは世界で数万のAIサービスがあるといわれ、高度な能力を鍛えるためには「信頼できる大量のオンラインテキスト情報」を際限なく学習データとして取得する必要があります。これらの情報源とは、新聞、雑誌、ネット専業などのオンラインメディアのコンテンツです。ここに大きな問題が潜んでいました。生成AIは、ほぼ無料でコンテンツをクロールし情報を収集し続けてきたのです。

そしていま、生成AIが、パブリッシャーのコンテンツを無断で学習・複製し、利益を得る「ただ乗り」が世界中で訴訟の嵐を引き起こしています。

日本でも今年8月に話題となったのが、日経、朝日、読売の生成AI「Perplexity(パープレキシティ)AI」に対する65億円もの提訴です。AIに対する利用禁止のサインを出しているのにもかかわらず、無断で情報収集していることに対する司法への提訴です。

ほかにも下記図表1を含めた、数十件以上の提訴がでており、現在係争中です。

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■ページビューは激減する

生成AIは、生み出すトラフィックをパブリッシャーに戻さないという問題も明らかになりました。

これまでのインターネットの世界では、GoogleやYahoo!などの検索エンジンは、その情報利用の見返りに「出典元のリンク」を提供し、パブリッシャーにトラフィックを戻すことで共存してきました。パブリッシャーは、この戻ってきたトラフィックを基に、「ネット広告」による収入を得てきたのです。

しかし、生成AIは、回答してもサイトへのリンクをほとんど提示しません。そのためパブリッシャーへのトラフィック還元は絶望的な水準にまで減少しています。

【トラフィック還元の激減を示すデータ】
● Google(Gemini)は、10年前の2分の1に対し、現在は5分の1
● OpenAI(ChatGPT)は、820分の1
● Anthropic(Claude)は、3万2000分の1

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Googleと各AIのトラフィック還元の割合。6カ月前より、多少還元率がもどってきたが、かつてと比べると大きな開きとなっている。出典=Cloudflare - 筆者撮影

もうひとつの問題は、生成AIの回答は「ずばり回答」で、ユーザーはAIの検索結果だけで、満足してしまう状況が起きています。これをゼロクリック検索といいます。

AI結果は、ユーザーの望む情報に適確な(それに近い)回答のため、新たにリンクをたどってオリジナルの情報源(パブリッシャー)へと向かう必要がなくなってきています。下記は、これらによって起こるカテゴリー別のトラフィック減少の予測です。

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■米欧に比べ出遅れている日本の対応

この危機的状況に対し、Cloudflareは7月、「コンテンツ/インペダンスデー」(コンテンツの独立日)と銘打ち、パブリッシャーに2つの生存戦略を提示したのです。

戦略?:AIクローラーを「ブロック」し、交渉力を確保

Cloudflareは、無断でコンテンツを収集するAIクローラーをブロックする技術を提唱しました。単にブロックするだけでなく、いつ、どこで、どのようなAI Botが、どの程度訪れているか、それらをモニタリングしながら、必要に応じてブロックするか、しないかを選別する仕組みです。

このブロック技術を早期から評価している米出版社のコンデナスト(『Vogue』『GQ』などを発行)のアプローチも明確です。

1.AIクローラーの識別と可視化:Cloudflareのツールで、すべてのAIクローラーを監視する。

2.交渉と許諾:ライセンス契約(対価の支払い)を結んだAI企業のみを「許可リスト」に入れる。

3.ブロック/制限:無許可のAIクローラー(Perplexity AIなど)からのアクセスを完全にブロックする。

CloudflareのAIクローラーブロックは、著作権の執行が強化されているEU圏のメディアや、ニューヨーク・タイムズなど訴訟の歴史を持つ中堅メディアにとっても、AI企業への交渉の武器として急速に採用されつつあります。

日本では著作権法30条の4の「学習目的の利用」の解釈が曖昧なため、この技術導入は様子見の段階にあり、欧米に比べ出遅れ感は否めません。

■iTunes music式は可能か

戦略?:コンテンツの対価を得る「Pay per Crawl(PPC)」

しかし、ブロックや選別だけでは不十分です。「ブロック」だけであれば、パブリッシャーの収益は今後減る一方となります。

Cloudflareは、コンテンツを利用する生成AIサービスに対して、AIクロールの1クロールごとに課金し、その収益を参加パブリッシャーに分配するPPC(Pay per Crawl)プラットフォームの概念を提唱しました。これは、生成AIとパブリッシャーの関係において、初めて具体的な「ルール化」を明らかにして話題になりました。

かつて、Apple社のiTunes Musicという課金システムが、わずか3〜4年でApple Musicというサブスクリプションモデルに置き換わったように、ニュース全体に課金し、それをコンテンツホルダーに分配する「サブスク・モデル」の生成AI版です。

写真提供=ロイター/共同通信社
ジョブス氏がかつて提唱したiTunes musicは、2015年くらいからApple musicが開始されるとあっという間に置き換わってしまった。 - 写真提供=ロイター/共同通信社

この分配モデルの実現には、法整備や業界合意など数々のハードルがたくさんあります。また、音楽業界の例を引くまでもなく、かつての広告収入や購読料収入を完全に補えるかは不透明です。それでも音楽業界がイベントやコンサートで補っているように、「儲かりにくい」という現実が予想されます。

■文字から動画やSNSへの急速なシフト

Cloudflareの提言は、パブリッシャーにとって、「ブロックによる交渉」と「AIクローラーに対する課金(PPC。Pay per Crawlの略)による収益分配」という2つの明確な選択肢を示しました。しかし、この危機の真の根源は、さらに深く続きます。

パブリッシャーのトラフィックは消えつつありますが、実はGoogle全体の検索トラフィックは、逆に伸び続けています。

Googleの検索広告を対前年で比較すると、むしろ伸びている。これはテキストは減っているが、その分、動画やSNS広告が伸びていると判断できる。協力=kosho.org  ※ブログの成島さんにお借りしています

理由は、テキスト検索は減少しているものの、動画やSNSが検索ボリュームを引き上げているからです。これは、ユーザーのニュースや生活情報の消費行動が、文字から動画やSNSへと急速にシフトしていることを意味します。

Youtubeや、TikTok、Facebook、Instagramの動画を利用する人は増えています。消費時間もあがってきています。そう考えると、活字(テキスト)メディアはいよいよ危うくなっているのです。

写真=iStock.com/zmeel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zmeel

■良質なテキストが失われた未来は…

われわれの情報収集が、動画メディアだけになると、どんな変化となるでしょうか?

活字による伝承は、グーテンベルクの活字の発明により聖書の流布から始まりました。それまでの口頭伝承に対して、テキストによる情報は、理解・解釈・読解力を深め、自我を生み、洞察力を育んだとも言われています。16世紀の宗教革命で、プロテスタントはこうして生まれました。

テキスト情報の収集は、能動的な行為だったのに比べ、動画情報は受け身で、人の考察、解釈力が薄れるといいます。認知症の防止のためには、テレビを見続けるのではなく、積極的にテキストとの対話が大事という報告もあります。

よく考え、自らの判断を行い、行動する。信頼できるテキスト情報。これらは、何に置き換わるのでしょうか?

私たちは幼少の頃から、「テレビを見過ぎないように」と昔から言い続けられていました。現在、TikTokなどSNSでは、その中毒性が世界中で問題視されています。「フェイク情報の氾濫」とともに、意図しない学習能力の変化など、社会変化に繋がる可能性もあります。

生成AIによる変化は、インターネット黎明期のようなゆるやかな変化ではありません。AIの進化・普及は国家戦略となり、企業、教育機関で、凄まじい勢いで進んでいます。言えるのは、それを止めることはできないだろうし、傍観している余裕もないということです。

良質なテキストが失われることで、AIの学習データが劣化し、社会全体の知性の低下につながるのではないかを危惧してやみません。

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占部 雅一(うらべ・まさかず)
メディアプランナー、デジタルハリウッド大学教授
出版社を経て、インターネットにおけるメディア展開、広告獲得の仕組みづくりに携わる。ヤフー、アイスタイルのタイアップ制作、プレミアムADネットワーク「glamメディアジャパン」のローンチ支援を経て、2012年よりモバイル最適化サービス「モビファイ」を提供。モバイルを中心に世界の最新ITトレンドを探索中。
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(メディアプランナー、デジタルハリウッド大学教授 占部 雅一)