「JUMP MV /『ハイキュー!!』×『オレンジ』| SPYAIR」サムネイル

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 あなたは「JUMP MV」という企画をご存知だろうか?

 『鬼滅の刃』『銀魂』『呪術廻戦』といった人気作品を掲載する日本を代表するコミック誌『週刊少年ジャンプ』(集英社)の作品とソニーミュージックのコラボMV企画で、2023年3月に『少年ジャンプ』の公式YouTubeチャンネルで1作目のMVが投稿されて以降、本稿執筆時点(2024年11月)の約1年7カ月の間に計19作品で30個のMVが作られている。漫画の画像をふんだんに使う躍動感のあるMVは新作が公開されるたびに作品ファンから多くの反響を獲得しており、『少年ジャンプ』作品の新たな魅力を掘り起こす企画として一定の成功を収めている。本稿ではこれまでに投稿された「JUMP MV」をいくつか振り返りつつ、この企画が生み出す広がりや可能性について紐解いていこう。

(関連:【映像あり】「JUMP MV」第24弾『ハイキュー!!』×SPYAIR「オレンジ」

 最初に語るのは、企画第1弾である『NARUTO -ナルト-』×「遥か彼方」。言わずと知れたASIAN KUNG-FU GENERATIONの名曲で、『NARUTO -ナルト-』少年篇の第2弾OPテーマとして起用された楽曲である。OPテーマとして楽曲が使われた話数は、少年篇序盤の人気エピソード・中忍試験編だが、「JUMP MV」では少年篇ラストのナルトvsサスケのシーンを中心に再構成。また、原作漫画のコマをただ映すだけではなく、原作絵を躍動感そのままに動かすことで、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの泥臭さを備えた疾走感あふれる魂のロックが何倍にも増幅され、アニメのOP映像とはまた違った趣を与えてくれている。第1弾としてこの高クオリティなMVが出されたおかげで、「JUMP MV」の本気度を我々がしっかりと受け止められる土壌が整ったのである。

 2023年11月に公開された第11弾『BLEACH』×「Velonica」は、2008年~2009年に放送されたAqua TimezによるTVアニメのOPテーマを使ったMVである。『BLEACH』の破面篇で使用された楽曲ということもあって、登場する多くのキャラクターや印象深いバトルシーンをテンポ良く映しながらMVを構成。また、「Velonica」以外の「JUMP MV」はアニメサイズである約1分30秒で構成されているものがほとんどだが、「Velonica」は2分18秒とその枠にとらわれていないところも注目ポイント。それだけ「Velonica」、そして『BLEACH』という作品が愛されているという証だろう。余談だが、このMVが公開された8カ月後にAqua Timezの再結成が発表されたのは周知のとおり。このMVがAqua Timez再結成のきっかけになったというわけではないが、『BLEACH』のファンが彼らの楽曲を思い出したり、その情熱を再び燃え上がらせる機縁となったのは間違いないだろう。そういう意味では、「JUMP MV」は過去の名曲を掘り返す導線としての役割も果たしていると言えよう。

 興行収入115億円を突破した『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』主題歌を使用した2024年8月19日(『ハイキュー!!』の日)公開の「JUMP MV」第24弾『ハイキュー!!』×SPYAIR「オレンジ」は、音駒高校との熱い試合の様子が伝わるエモーショナルなMVだ。このMVは東京体育館での撮影映像と原作漫画が融合したような映像表現となっており、“ゴミ捨て場の決戦”が現実にあったかのように錯覚してしまうくらい、これまでの「JUMP MV」の表現としてもかなり挑戦的で画期的。歌詞を使ったリリックビデオとはまた違う、漫画で使われた台詞や文字表現を使ったMV演出は、私たちの心を大いに揺り動かしてくれた。

 「JUMP MV」の1つのターニングポイントになったのが、2024年2月に投稿された第17弾『ニセコイ』×ササノマリイ「プリズム」。当時の「JUMP MV」は、アニメ化作品の既存主題歌をMVの楽曲として使用するというのが恒例になっていたのだが、このMVで使用されたササノマリイの歌う「プリズム」は、「JUMP MV」のために書き下ろした新曲なのである。ササノマリイ自体が『ニセコイ』の大ファンという背景があるとはいえ、2014年と2015年にアニメ化もされ、かつ主題歌もソニーミュージックからリリースされていた『ニセコイ』に新たに新曲が書き下ろされたことに、『ニセコイ』のファンからは大きな反響が巻き起こった。ササノマリイのポップで優しい歌声は楽曲単体としても素晴らしく、『ニセコイ』のヒロイン視点とも、連載がすでに終わって懐かしむ我々視点とも取れる切なさが漂うエモーショナルな言葉の数々も胸に刺さる。『ニセコイ』の重要アイテムである鍵を使ったカラフルな映像も見どころだ。

 「JUMP MV」としての新たな試みはさらに続き、書き下ろし新曲からさらに一歩先に進んだのが、“未アニメ化作品”とのコラボレーションである。2024年8月公開の第23弾では、『キルアオ』という作品にねぐせ。が「デイズ」というロックナンバーを書き下ろし、2024年9月公開の第25弾では、菅原圭のアップチューン「熱帯夜」が『鵺の陰陽師』とのコラボレーションが実現。どちらもそれぞれのアーティストの味がしっかり染み出た楽曲となっている。「JUMP MV」以外の「ジャンプチャンネル」の動画でも未アニメ化作品とのコラボPVでアーティストの書き下ろし新曲が作られることはあるものの、やはり“MV”という1つの作品として売り出されると訴求力が段違い。また、これまでのアニメ主題歌を使った「JUMP MV」は、どうしても元のアニメ主題歌映像と比べられてしまうデメリットがあったが、これならその心配もないだろう。ほかにも、コラボによるアーティストや作品自体の知名度向上など、未アニメ化作品を「JUMP MV」で取り扱うメリットは様々である。今後も未アニメ化作品の「JUMP MV」が増えていくかもしれない。

 そして「JUMP MV」の最新作が、『呪術廻戦』×King Gnu「SPECIALZ」。10月31日、作中で渋谷事変が発生した日付に投稿された。このMVは、渋谷事変が様々な場所で目まぐるしく状況が変化する群像劇的な作劇ということもあって、MVは呪霊側を描いた“災の目”と、呪術師側を表現した“済の目”の2本が作られるという豪華な仕様となっている。「SPECIALZ」の歌詞は呪霊視点であるというのはよく知られていて、その視点では“災の目”のモノクロなMVがピタリとハマるわけだが、対比構造である“済の目”のカラーなMVのカッコよさにもしっかりと合っているのだから面白い。

 こうして「JUMP MV」を振り返ってみると、最初は漫画の歴代『少年ジャンプ』アニメの主題歌MVという視点しかなかった企画が、名曲の掘り起こしとそこへの導線の提供、書き下ろし新曲を使った作品プロモーション、作中台詞や実写映像と漫画の絵を融合させたオリジナリティの高い表現の確立など、新たな見せ方や表現の場としての可能性がどんどん増してきているのがわかる。既存IPをどのように活用するのか、その1つの答えが「JUMP MV」にはあるのだ。

 『鬼滅の刃』『チェンソーマン』『逃げ上手の若君』など、まだ「JUMP MV」に登場していない作品はいくつもあるほか、過去に『少年ジャンプ』の週刊連載ではない『青の祓魔師』が「JUMP MV」に登場したことから、たとえば月刊の『ジャンプスクエア』や公式アプリ『ジャンプ+』など、さらに対象作品が増える可能性も秘めている。『少年ジャンプ』作品とソニーミュージックとのコラボレーションからは、まだまだ目が離せそうにない。

(文=河瀬タツヤ)