「ワタミのサブウェイ」成功率は”かぎりなく低い”と言える残念な理由…美味しいのに「日本人にさっぱり流行らない」のはなぜなのか

写真拡大 (全6枚)

世界2位のチェーンが「日本だけ苦戦」

世界一店舗数が多いファーストフードチェーンといえば? この質問には、おそらく誰もが口を揃えて「マクドナルド」と答えるだろう。では世界で約3.9万店舗を誇るマクドナルドに次ぐ2位のチェーンとは――スターバックス? ケンタッキー? 実はどちらでもない。答えは「サブウェイ」だ。

アメリカに本社を置くサブウェイは、世界100以上の国と地域で約3.7万店舗を展開する超巨大飲食店チェーン。その看板商品といえば、天命の由来にもなっている長楕円形の「サブマリン(潜水艦型)サンドイッチ」。手軽にたっぷりの野菜が食べられるとあって、創業から約60年にわたって永く愛されている。

一時はマクドナルドを凌ぐ店舗数を誇っていたサブウェイ。そんなチェーン界の《巨艦》が唯一、苦戦を強いられている国がある。そう、日本だ。

最盛期となった2014年には国内で約480店舗を展開していたが、その後、閉店が相次ぎ、現在ではピークの3分の1、約180店舗までその規模を減らしている。その数はマクドナルドやケンタッキーはおろか、ロッテリアやバーガーキングを下回っており、世界規模のチェーンとしてはあまりにも寂しい状況にある。

だが、ここへきて突然、サブウェイに「救世主」が現れた。10月25日、外食産業の雄「ワタミ」がサブウェイとの間でマスターフランチャイズ契約を締結し、日本サブウェイを完全子会社化すると発表したのだ。

《新しいオモチャ》を手に入れて…

マスターフランチャイズ契約によって、ワタミは日本においてサブウェイを独占的に展開する権利を得た。また、現状ある約180店舗の運営権もワタミに移る形だ。

「居酒屋というイメージから、『サブウェイワタミ』という代名詞に変え、若年層からの支持を得たい。サブウェイには大きな可能性を感じており、ワタミらしさを発揮しながらサブウェイの挑戦を支えていく」

25日の記者会見で、ワタミの渡邉美樹会長兼社長はこのように述べ、自信をのぞかせていた。また2025年の2〜3月には都内に新たなフラッグシップ店を出店、さらに長期的には3000店舗の展開を目指すなど、壮大な計画を立ち上げている。

だが、この会見を見た業界関係者たちの目は、実に冷ややかなものだった。

「正直、渡邉会長がまた《新しいオモチャ》を手に入れて、はしゃいでいるだけにしか見えませんでした。というのも、同じようなケースが数年前にもあったんです。

2016年、ワタミは韓国のジェネシスBBQ社が運営する韓国風フライドチキンチェーン「bb.qオリーブチキンカフェ」の国内FC展開の権利を得ました。その時も、同チェーンが当時世界25ヵ国・約2500店舗を誇っていたこともあってか、自信満々に『うまくやれば1000店舗は展開できる』と周囲に豪語していました。

ですが、蓋を開けてみれば、国内の出店数はわずか16店舗に留まっています。コロナ禍の影響があるとはいえ、あまりに悲惨な状況です。渡邉会長も飽きたのか、ここへきてサブウェイの知名度に惹かれ、飛びついたのでしょう」(業界紙記者)

閉店ラッシュを生んだ「ある出来事」

そもそも、サブウェイはなぜ日本市場での復活をワタミに委ねる形となったのか。

元々、日本サブウェイは1991年、サントリーホールディングスが子会社として設立したことから始まった。直営店とFC加盟店の両輪で国内展開を進め、前述の通り、2014年には一時的にピークを迎えている。

ただ、その後《あること》を境にサブウェイは閉店ラッシュに追い込まれることとなる。フードビジネスコンサルタントの永田雅乙氏が解説する。

サブウェイにとってターニングポイントとなったのは2016年頃のことです。創業者が『海外展開により力を入れたい』として、本社がサントリーから株を買い戻し、マスターフランチャイズ契約の解消へと舵を切ったのです。

これを機にサントリーは日本サブウェイの経営から完全に撤退。そうして本社が直々に日本で展開を進めたのですが、予想以上に上手くいかず赤字まみれになってしまい、あえなく店舗数が激減してしまったわけです」

「今振り返れば、サントリーは我慢強くやっていたほうだ」と指摘する永田氏。そう考えると、再びマスターフランチャイズ契約を交わすパートナーとしては、旧友であるサントリーが相応しいようにも思えるが、その可能性はゼロだったという。

「佐治(敬三)さんがいた頃と違い、今の新浪(剛史)さん体制のサントリーは、外食事業としてプロントやまい泉があるぐらいで、あまり飲食に重きを置いていない印象です。『サブウェイはもうやりたくない』というのが本音でしょう」(永田氏)

また、サブウェイ側にもある思惑があった。

サブウェイという巨大な帝国を築き上げた2人の共同創業者、フレッド・デルーカ氏が2015年に亡くなり、もう一人のピーター・バック氏も2021年に亡くなっている。この創業者の死去が、ワタミへの売却の追い風になったという。永田氏が続ける。

「創業者の遺族はサブウェイの経営に関心が無く、海外店舗の権利をできるだけ早くどこかに売りたがっていた。売却の焦点は『いかに高く売るか』。そんな時、サントリーと違ってゼロベースでロイヤリティの交渉ができ、しかも喉から手が出るほどファーストフード業態を欲しがっているワタミに白羽の矢が立ったのでしょう」

日本人の性格と絶望的に合わない

かくしてサブウェイを手に入れたワタミ。はたして《勝機》はあるのだろうか。

現状、サブウェイが扱う「サンドイッチ」そのものには追い風が吹いている。市場規模(2023年)こそ123億円と、ハンバーガー(9811億円)やチキン(1776億円)には劣るが、それでも健康志向を背景に、2028年には155億円まで拡大する見込みとなっている。

だがそれでも「ワタミサブウェイ」が成功する確率はきわめて低いと、永田氏は指摘する。原因はサントリー時代から変わらない、「日本人にさっぱり流行らない」サブウェイのシステムそのものだ。

「メニューから好きなサンドイッチを決め、パンを選び、トッピングを追加し、さらに好みの野菜、ドレッシング・ソースをチョイスする。この一連のオーダーシステムが日本人に合わないことはもはや説明不要でしょう。

日本の外食産業では、ある程度『メニューの大枠』が決まっていることが成功の要因の一つとされています。優柔不断で選ぶのが苦手な日本人にとって、メニューを絞ってあげるほうが性に合うのです。

また、サブウェイが欧米を中心に根強い人気を誇っている理由は、美味しさ以上に、オーダーシステムを通じて《店員とやり取りできる》ことに楽しさを感じているから。この楽しさは、知らない人との気軽な会話を避けがちな日本人には、やはり感じづらいのです」

ワタミの《強み》を生かすとしたら

サブウェイが美味しいのは分かっている。健康志向なのも魅力的。けれど、選ぶことに一度でも煩わしさを感じたが最後、足が遠のいてしまう。まして初めて行くなんて無理。そう感じてしまう日本人が多い以上、サブウェイの日本展開には限界があるのかもしれない。

強いて勝機を挙げるとすれば――それはワタミの《強み》を生かすというやり方だけだ。

「私個人としては、サブウェイにもまだ日本展開を拡大するポテンシャルは大いにあると考えています。そのカギを握るのは、やはり『DX化』ではないでしょうか。ワタミが実現できるかを別にすれば、タッチパネル式のセルフオーダーシステムやスマホのモバイルオーダーなど、これらを上手く活用すれば、道は拓けるかもしれません。

それに加えて、サブウェイと意外にマッチすると思うのが、フードコートへの出店です。これまでの直営店は多くが路面店に偏っていました。ワタミにもノウハウがあるフードコート出店を積極的に行えば、より集客が望めると思います。

ワタミが全国に自前の有機農業の拠点を持っているのも強みです。そこで採れたオーガニックの野菜をメニューとして採用することで、美味しさや健康へのアピールにつながるでしょう」(永田氏)

今年、創業40周年を迎えたワタミ。そこで渡邉会長は「ワタミモデルを世界モデルに。2048年までに、1兆円企業。」とする構想を掲げている。果たしてサブウェイワタミにとって成長を加速させるエンジンとなるのか。今後の動向を注視したい。

【こちらも読む】『弁当の「上げ底」問題が物議…セブンの生みの親・鈴木敏文氏「僕はまったく関係ない」!商売の神様が「漏らした本音」

弁当の「上げ底」問題が物議…セブンの生みの親・鈴木敏文氏「僕はまったく関係ない」!商売の神様が「漏らした本音」