アメリカのディズニーリゾートで新たに導入されたパス「ライトニングレーン・プレミアパス」が物議を醸している。先月30日から導入されたもので、いつでも短時間でアトラクションに乗車することができ、利用できるアトラクションも多いが、指定のディズニーホテル宿泊客のみが購入可能で、金額は最大で449ドル(約7万円)にもなるという。

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 こうした「富裕層シフト」にはネット上でも「夢の国でも格差が広がっている」「富裕層にターゲットを絞って庶民は切り捨てる戦略か」と異論の声があがり、後日ディズニーのボブ・アイガーCEOが「利益を伸ばそうという熱意のあまり、価格設定について少し強すぎたかもしれない」と反省のコメントを出すまでになった。日本でも、高級志向の百貨店やホテル、不動産ではタワーマンションなど、富裕層にターゲットを絞ったビジネスが話題になっている。『ABEMA Prime』では、この富裕層シフトの今後について考えた。

■経済評論家 パスの高騰化は「経済学的にはすごく正しい」

 「百年コンサルティング」代表で未来予測の経済評論家である鈴木貴博氏は、今回の新パス導入については一定の理解を示している。「明らかに高いが、実は経済学的にはすごく正しい。もともと、これ以上は入らないというキャパシティがあるもので、人気・需要が出てきたら、これは必ず価格が上がる」と述べた。例えとしては「MLBでドジャースのチケットが高くなる。ワールドカップでサッカーのチケットが高くなるというのは非常に当たり前だ。この当たり前の行きすぎた現象をどうするのかという実は問題、ここはすごくパラドックスがあって議論しなくてはいけないところが本当にある」とも付け加えた。

 日本のディズニーリゾートではどうか。鈴木氏は「みなさんすごく誤解しているが、日本のディズニーのチケットはここ何年かずっと価格が上がっているが、ドルで見ると全く上がっていない。これはオリエンタルランドが頑張ってディズニーと交渉しているから。アメリカのディズニーは『上げろ、上げろ』と言っているところを、押し留めているからだ」と説明した。その上で、ディズニーは「基本的にはグローバルで、今は富裕層フォーカスに変わってきている」と指摘した。

 来場者が、パスによって多くの行動をすることには、メリットも大きい。「やはり1時間、2時間も待つということ自体が非常にマイナス。経済としては、行列をなくすファストパスは画期的だ。行列がなくなるとパークの売り上げが増える。みんなお土産を買いに行ったり飲食したりするからだ。だから今、ディズニーとしての最適解は、入場者数を減らし、行列をなくし、売り上げをもっと上げること」と述べた。

■子どもが訪れにくいディズニーになったら未来は?

 パスが高騰すれば、来場者は富裕層に限られ、それとともに子どもの来場者が減る懸念もある。これに鈴木氏は「ここはすごく問題。基本的に子どもは親がなんとかしてあげようと思うので連れていくが、行けない子どもが増えている」と述べた。行けない子どもが増えると何が起こるのか。「ここはすごくビジネスとしてパラドックスがある。子どもがディズニーに行けなくなると、ディズニーの価値は減る。子どもはみんなディズニーが好きだから、今ディズニーの価値が上がっている。だからこれを何とかしなくてはいけないというのは、実はディズニーの経営としては裏課題としてすごく大きな問題だ」と語った。

 ディズニー・エンターテインメントが運営する動画配信サービス「ディズニープラス」は、その上で子どもをつなぎとめる非常に大きな役割を担っている。「ディズニープラスの価格を(月額)990円から上げないというのはその戦略。それだけ払っておけば、どこの家庭でも、お子さんが毎日好きなだけディズニーを見ることができる。この状況をキープしておかないと、ディズニーランドの値上げだけだったら、ディズニーの経営は持たなくなってくる。安くプロダクトを買えるディズニーストアも同様に重要だ。お金が厳しい方でも、子どもをディズニーストアに連れて行けば、そこも夢の国になっている」と述べた。

 これにはコラムニストの河崎環氏も「アメリカのディズニーリゾートも行った経験があるが、その時に日本人はディズニーに行き過ぎだなと思った。日本では誰でもディズニーに行けるが、アメリカではフロリダやカリフォルニアまで家族で大移動する必要があり、一生に一度行けるかどうかというものだ」と語った。

 子ども向けビジネスの値上げは批判の対象になるのか。鈴木氏は「今回は明らかにやりすぎだとアメリカで炎上している。子ども連れの家族旅行が手軽に楽しめなくなっている」とし、将来的に子どもが訪れにくいディズニーリゾートになってしまえば、ディズニーのブランド価値は大きな影響を受ける可能性を示唆した。

■インバウンド対策も…適切な価格設定とは

 国内では、外国人観光客の増加に伴い、ホテルなどの価格が高騰している。観光名所ともなれば、飲食店の価格も、日本人では手が届きにくいものになっていることも珍しくなくなってきた。河崎氏は、国内の価格高騰に「富裕層シフトと言っているが、実際にはインバウンドツーリストがターゲット。京都のやり方は非常に巧みで、『ここは日本という名のテーマパーク。どうぞ皆さんが味わいたい日本を味わってください。その代わりにお代は頂きます』といった感じ。観光立国としてのシフトには、こういった割り切りが必要」と提案した。

 外国人観光客と地元の客をより分ける工夫もあったという。「店に『満席』と英語と中国語で書いてあるのに、日本語では『中に入ってお声がけください』と書かれていた。日本語が分かる人には席を用意し、それ以外の方には満席と言う。こういうすみ分けが進んでいる」と事例を紹介した。

 観光客と地元客に、別の価格を設定する「二重価格」の導入は、以前から言われてきたものでもあり、実際に導入されている例も多い。ただし、日本が観光立国を目指す上で、他国の事例も気になるところだ。鈴木氏は、「ハワイも30年以上前から二重価格になっている。観光客用の店に地元の人が免許証を見せると安くなる。しかし、ハワイ州は依然として貧しい。インバウンドで二重価格に頼って日本が発展するシナリオはまやかしではないか。経済自体をもっと発展させないと、貧しい社会になりかねない」と注意喚起していた。
(『ABEMA Prime』より)