ソフトバンクは8日、2025年3月期第2四半期決算を発表した。通期(上期)の売上高は、3兆1520億7900万円(前年同期比+7.4%、以下同)、営業利益は5858億8900万円(+13.9%)、純利益は3238億5700万円(+7.2%)となった。代表取締役社長の宮川潤一氏は「上期で3兆円を超えたのは初めて」と過去最高の売上高をアピールした。

全セグメントで増収を達成

 今回の決算では、コンシューマーを含めすべてのセグメントで増収を達成。特ににエンタープライズ、ディストリビューション、ファイナンスは2桁成長となった。加えて、ファイナンス事業も黒字に転換している。

 これをうけ、2024年度の通期業績予想を上方修正した。好調の要因を宮川氏は「コンシューマー事業の増益基調が継続していることやLINEの諸問題の落ち着き、赤字だったPayPayが黒字に転換したことなど、過去に悩まされてきた問題が次々に解決した」と分析。昨年とは全く異なる状況となっていると好調さに胸を張った。

コンシューマー事業では、中長期的に構造改革をすすめる

 コンシューマー事業では、売上高が1兆4269億円(+3%)、モバイル売上も122億円の増収となった。

 スマートフォン契約者数は4%の増加となった一方、宮川氏はこれまで出てこなかった「ソフトバンクとワイモバイルのブランド間移行割合」のスライドを掲出した。グラフは、上振れするとワイモバイル→ソフトバンクへの移行割合が高く、下に行くほどソフトバンク→ワイモバイルへの移行割合が高いというもの。

 宮川氏は「通信料金の値下げの影響により、ワイモバイルの価格帯が競争の主流となり、価格重視のユーザーが移行する動きが活発化した」と2021年の値下げ直後はワイモバイルへの移行が増加したと説明。近年は、ソフトバンクとワイモバイルの棲み分けに注力しており、ソフトバンクの料金プラン「ペイトク」を契機に、ソフトバンクへの移行が増加してきていると指摘。「今後もこの基調が継続できるように努力していく」とペイトクプランを中心にソフトバンクへの移行促進を進めるとした。

 このスライドの意義について宮川氏は「市場シェアだけを追いかける時代ではない」とし、社内の構造改革を進めていくとした。

メインはコンシューマー

代表取締役社長の宮川潤一氏

 宮川氏は「全社の中では、やはりコンシューマーの占める割合は大きい」と指摘。「コンシューマー事業が少し風邪を引いてしまうと会社全体も風邪を引く。元気になれば全体の利益になるという構造がまだまだある」とコメントする一方、エンタープライズやファイナンスなどほかのセグメントが大きくなり、バランス良くしたいと思っているとコメント。

 「コンシューマー無くして我が社なし」とし、「このコンシューマー事業の復活は非常にありがたい、成長のエンジンになっている」と語る。

エンタープライズ事業は年間1兆円の売上が目前

 エンタープライズ事業の売上高は4458億円(+11%)と、年間を通じて売上高1兆円が見えてきたと話す宮川氏。その要因としてソリューション分野(売上高が+28%)と説明する。

 宮川氏は、「これまで小規模な部門で説明を省いてきた」とするディストリビューション事業を取り上げる。同事業の売上高は4307億円で44%の増収となった。AIサーバーの売り上げが順調で、外部顧客向けの売上が5倍に増えた。

 AI時代に突入してきたなかで、AIサーバーの構築ができる技術力を蓄えるために早くから多くのAIエンジニアを育成してきたと宮川氏はアピール。ほかにもデータセンターへのAIサーバー構築を進めているといい、GPUの供給が安定すれば外部の需要にも対応できるようになると、事業拡大の余地を説明する。

 また、これまでの買い切りとは異なり、サブスクリプションモデルが根付いており、同事業を担うSB C&Sが、ほかの部門やLINEヤフー、PayPayの案件に同席する機会が増えてきたとし、SB C&Sの事業がディストリビューション事業の枠を超えてきている。

ファイナンス事業、PayPayの黒字がけん引

 ファイナンス事業の売上高は1298億円(+19%)、営業利益は136億円の黒字となった。

 PayPayの売上高は1165億円(+17%)、取扱高も7.2兆円(+22%)、連結利益も2年連続の黒字化、営業利益も2期連続の黒字化を達成し、事業をけん引した。好調の要因を宮川氏は「PayPayの認知率が上がってきている。加盟店もまだ増え続けているので、PayPay自体が世の中に受け入れられてきた」と分析する。

 SBペイメントサービスの総流通取扱高は4.6兆円(+22%)と、こちらも非通信領域の成長として順調に拡大している。

個人株主の現況

 同社は4月に株式分割(1対10)を発表し10月1日に実施した。宮川氏は、「減少傾向にあった株主数が反転し、9月末で100万人を突破した」とアナウンス効果を説明する。

 年代を見ると、10歳以下の割合が27%→34%に増加しており「狙い通りの成果が出始めている」と効果を説明した。

AI基盤構築

 同社の今後の注力領域の1つとしてAI基盤の構築が挙げられている。全国にAIデータセンターを分散配置し、これを次世代の社会インフラ基盤ととらえて構築を進めている。

 10月末に計算基盤「NVIDIAのH100」が稼働し、GPUが約6000基、計算能力が従来の5倍になった。宮川氏は「国内最大級のAI基盤」とコメント、2025年上期には1万基まで増強するという。

 国産LLMについては、4600億パラメータの日本語国産LLMが完成し、研究開発用に8日公開されたという。今後はこのH100基盤を活用しパラメーターの追加学習を加速させ、来年度の商用展開を目指す構えだ。

NTTとトヨタ自動車の協業について

 NTTとトヨタ自動車は、モビリティAI基盤の構築で協業を発表した。NTTのIOWNやデータセンター、通信などを活用するとしている。

 宮川氏は、「報道の直前に連絡があった」とし、「非常に良いことだと思うので、声がけがあれば、連盟に入って協力することはやぶさかではない」とコメント。自動車同士やインフラなどと通信する「セルラーV2X」やAIの開発が大好きだと話す宮川氏は「最近はAI-RANやMECなど未来交通に向けての要素開発を一生懸命やっている」とし、同じ「事故のない世界を目指している」と好意的な意見を述べた。

コンシューマー向けのAI

 ソフトバンクは、AI検索エンジン「Perplexity pro(パープレキシティ プロ)をソフトバンクユーザーに1年間無料提供している。一方、楽天モバイルも10月に生成AIチャットの新サービスを提供し、エコシステムの強化につなげていくと発表があった。

 コンシューマー向けのAIサービスは今後どうなっていくだろうか? 宮川氏は、パープレキシティについて「好評、使っている割合も高い」とコメント。自身も使用しているといい「ソースがどこにあるのかを示してくれるので、次の質問が出しやすい、非常におもしろいAI」と評価した。

 このパープレキシティを1年間無料提供している意義について「AIという“わけのわからないもの”を敵ではなく、実は仲間なんだという感じで理解してもらいたい」(宮川氏)と説明。先述の4600億パラメーターのLLMもパープレキシティ内の選択の1つにしていきたいとした。規模感については、OpenAIの最新LLM「OpenAI o1」と肩を並べられるところまではいかないとする一方「4000億を超えるパラメーターも日本だって十分作れることを証明したい。米国と比べて日本は劣後しているわけではないことを示したかった」と想いを語る。

 コンシューマー向けのAIについては、Apple IntelligenceやGoogle Geminiといった端末メーカーの取り組みもあり、さまざまな形のAIがあると指摘。キャリアの責務として「AIをどこでも使える環境を用意すること」とし、ネットワークと計算基盤の2面で向き合っていくとした。