「卵が先かニワトリが先か」問題の答えが判明か
古来から哲学的な問いとして、原因と結果が循環してしまうような状況を「卵が先かニワトリが先か」と呼ばれています。もちろんこれはあくまでも例えなのですが、生物学の世界では実際にどっちが先なのかについて昔から議論が重ねられています。そんな中、ジュネーブ大学の研究チームが「卵が先である可能性が高い」と主張する論文を発表しました。
A multicellular developmental program in a close animal relative | Nature
The egg or the chicken? An ancient unicellular says egg! - Medias - UNIGE
https://www.unige.ch/medias/en/2024/loeuf-ou-la-poule-un-unicellulaire-ancestral-dit-loeuf
「卵が先かニワトリが先か」問題は2000年以上にわたって人類を悩ませてきた難問であり、2024年にはこの問題の議論で白熱した結果、殺人事件が発生するほど。古くは紀元前4世紀頃に哲学者のアリストテレスが「この問題は無限の連続である」と論じています。また、1世紀頃にギリシアの哲学者プルタルコスが哲学的な問いとして自著に記し、「世界には始まりがあったかどうかという重大な問題である」としています。
キリスト教の世界では「すべての生き物は神が作った」とされているため、ニワトリが先だとされていました。しかし、ダーウィンが進化論を提唱して以降、科学の世界では「ニワトリにはニワトリではない祖先が存在した」という理由から、「卵が先である」と論じられることがよくあります。
ジュネーブ大学の研究チームは、2017年にハワイ周辺の海底堆積物から発見された単細胞生物のChromosphaera perkinsiiを研究しました。この生物は10億年以上前に動物の進化系統から分岐しており、単細胞生物から多細胞生物に移行した謎の答えが眠っているのではないかといわれています。
by Multicellgenome Lab
研究チームは、Chromosphaera perkinsiiの細胞が最大サイズに達すると、それ以上成長せずに分裂し、動物の初期胚発生段階に類似した多細胞コロニーを形成すると報告しています。このコロニーはライフサイクルの約3分の1にわたって持続し、少なくとも2つの異なる細胞タイプを含むという特徴を示しました。
以下はChromosphaera perkinsiiが多細胞コロニーを形成している様子。赤い部分が細胞膜で、青い部分はDNAを含む核に当たります。
研究チームを率いるジュネーブ大学のオマヤ・ドゥディン准教授は「Chromosphaera perkinsiiは単細胞生物ですが、この特徴は地球上に最初の動物が出現するずっと前から多細胞の調整と分化のプロセスがすでに存在していたことを示しています」とコメントしています。
さらに遺伝子活性の分析により、これらのコロニーは動物の胚で観察されるものと興味深い類似性を持っていることが明らかになりました。この結果から胚発生の原理が動物の出現以前から存在していたか、あるいはChromosphaera perkinsiiが独立して多細胞発生のメカニズムを進化させた可能性が示唆されており、研究チームは「複雑な多細胞発生を制御する遺伝的プログラムがすでに10億年以上前から存在していたかもしれない」と論じています。
ジュネーブ大学理学部の研究者で論文の筆頭著者でもあるマリーン・オリヴェッタ氏は「今回の結果にしたがうと、自然は『ニワトリを発明する』よりはるか前に『卵を作る遺伝的ツールを持っていた』ことになります」と述べ、「卵が先かニワトリが先か」論争の答えはやはり「卵が先」である可能性が高いとしました。
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