金子真一郎さん(58歳)現在はセクシー男優を廃業。生活するブース内はゴミ屋敷の様相だ

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貧困問題の象徴「ネットカフェ難民」という言葉が’07年に生まれ、その後東京都の一斉調査で都内に4000人いることが判明してから6年。現在、問題視されているのが、長期化だ。出口の見えない実態に迫る。
◆生活と精神の荒廃により「ネカフェから出られない」

金子真一郎さん(58歳)はかつて「観念絵夢」の名でM系セクシー男優として活躍していたが、’21年に覚醒剤使用・所持で逮捕。懲役3年、執行猶予1年6月の判決を受けた。それを機にアパートを追い出されて以来、ネットカフェを転々としながら日雇い労働をする生活を3年間続けている。

現在の寝床を訪ねると、狭いルームの中はまるで“ゴミ屋敷”さながらだった。風呂には半年間入っておらず、2年間ずっと着ているという服は擦り切れてボロボロだ。

「ネカフェのシャワーは350円もして高い。夏に近くの寺で水浴びする程度だね」

現在のネカフェの利用料は1週間で1万5000円。食費は一日300円未満に抑え、その他の出費はほぼない。ただ、日雇いの賃金は1万円以上で、月収30万円以上は稼いでいるという。にもかかわらず、ネットカフェに暮らし続ける理由は何なのか?

「もともとカネを使うことに興味がなくて、カネをもらってもそこらへんに捨てちゃう。財布だって3年間中身を見てないし、ネカフェ代や食費で小銭を使う以外は、自分が今いくら持っているのかもわからない」

彼の財布を見せてもらうと、お札が数枚入っているものの、長い放置で束になって固まり、剥がせないほどの状態だった。

◆実家にも居場所はない

また彼の知人曰く、住んでいたアパートを片付けに訪れると、紙幣がゴミとともに散乱していたという。そうしたお金を嫌う姿勢には、確執のあった亡父の影響もあるようだ。

「ヤツはカネが大好きだった。だから俺はカネが嫌いなんだ」

そんな金子さんを兄弟たちは白眼視し、実家にも居場所はない。

「今の境遇は修行みたいなもん。あと、俺はM気質だからさ、ツラくてもやめることができないのかもね。正直、何のために生きているかわからない。不慮の事故で死ねないかなと、常に思ってる」

ただ、そんな彼の唯一の趣味は、「自身のYouTubeチャンネル運営」だという。困窮しながらも動画配信を通じて、社会との繋がりを求めているのかもしれない。

◆社会との繫がりがネカフェ生活長期化を防ぐ

ネカフェ難民問題が可視化されて間もない’07年、その生活を体験したルポ『ネットカフェ難民』を執筆した編集者の川崎昌平氏。彼は近年の状況を次のように分析する。

「当時20代だった当事者、つまり就職氷河期世代がそのまま現在までスライドしてきています。若年層や女性にも増加していますが、依然として40代以上の男性が過半数を占めているのが現状です」

ネカフェ生活長期化の要因も、貧困を基軸に一筋縄ではいかない。首都圏への一極集中化により、職業や住居を持てない人が増加しているのも原因の一つだ。そんななか、川崎氏はネカフェ難民の再定義が必要と説く。

ホームレスの定義が狭すぎるために、実態を反映できていない部分があると思います。確かにネカフェは風雨をしのげるし、大きな不便はありませんが、心身ともに荒廃が進むことが多く、永続的な貧困対策になりえません」

そんななか、川崎氏はネットカフェへの住民登録を推進することで、逆に長期化を抑制できると提言する。

「賛否両論ありますが、住民登録をすることにより、行政のケアが行き届きやすくなり、社会との繋がりが持てるようになります。日本人は個人として生きることを強調されすぎており、それが社会的孤立を招く一因。地域と繋がり、集団の中に自分を位置づけ、他者と協力して生きることが脱却の第一歩になる。特にネカフェ難民の高齢化が進むなかでは急務であると思います」

社会参加のきっかけが鍵になるのかもしれない。

【作家・編集者 川崎昌平氏】
京都芸術大学通信教育部専任教員。東京工業大学、昭和女子大学非常勤講師。『ネットカフェ難民』(幻冬舎)など著書多数

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[ネカフェ長期難民]の実態]―