ゴミ清掃の現場 ※写真はイメージです(写真: Ushico / PIXT)

お笑い芸人の六六三六・柴田賢佑さんは、芸人活動の傍ら、生前整理、遺品整理、ごみ屋敷の片付けなどを行う会社に勤務しています。

自身の経験をまとめた『ごみ屋敷ワンダーランド 〜清掃員が出会ったワケあり住人たち』を上梓した一方で、同じ太田プロ所属のぐりんぴーす・落合隆治さんとお笑い芸人の清掃団体「お片付けブラザーズ」を設立しました。

“ごみ屋敷清掃芸人”として活動するお2人に、印象深いごみ屋敷の住人や現場、「芸人×清掃業」のメリット、この道の開拓者であるマシンガンズ・滝沢秀一さんに対する思い、今後の目標など、じっくりと語ってもらいました。

ごみ清掃員を始めたきっかけ

――「芸人とごみ清掃員の2足のわらじ」といえば、マシンガンズの滝沢さんが有名ですが、お2人はどのようなきっかけで始められたのでしょうか。

柴田:妻の紹介で2016年ぐらいから始めました。少し経ったら同じ会社に芸人が増え始めたんです。落合には「割がいいよ」ってことで誘いました。その前からバイト先が一緒だったので声をかけたら、二つ返事で「やる」って言って。

――太田プロに清掃業で生計を立てる芸人さんが多いのは、同じく太田プロ所属のマシンガンズ・滝沢さんの影響ですか?

柴田:僕と滝沢さんはまた別ですね。僕が清掃のバイトを始めた頃って「芸人とごみ収集は別の仕事」って認識だったし、そのときは滝沢さんと密に連絡を取ってもいなかったので。

落合:そもそも遺品整理とか片付けのバイトをしている芸人ってめちゃめちゃ多いんですよ。そういう人たちが僕らのバイト先に何人か入ってきて、滝沢さんからもアドバイスをいただく流れになりました。

柴田:もともと滝沢さんがSDGs系のトークイベント(毎日新聞が運営する「毎日メディアカフェ」のイベントの1つ「滝沢ごみクラブ定期イベント」)をやっていたのですが、2年ぐらい前に「お前、ごみ屋敷やってるんだって? じゃあ、このイベントで話してみろよ」って僕に声をかけてくださったんですよ。

それでつたないながらパワーポイントで資料を作ってごみ屋敷について紹介したら、けっこう盛り上がったので「イケるんだ、これ」と思って。滝沢さんも「面白いね」って言ってくれて、その日のうちに書籍化も決まったんです。

今年6月には『ごみ屋敷ワンダーランド』を出版することができました。そこから滝沢さんとご一緒させていただく機会が増えて、ごみ清掃芸人のつながりも強くなっていったんだと思います。

掃除するだけでは再発防止につながらない

――事前にいただいた清掃現場の写真を拝見したのですが、比較的キレイなお部屋でしたよね。


清掃現場。柴田さんは比較的綺麗なほうだと語る(写真:柴田さん提供)

柴田:あれはごみ屋敷じゃなく、遺品整理に近いですね。バーッと売る着物とかを出してるような状態。そこから部屋を空にするという段階です。ごみ屋敷の写真を撮らせてくれる住人の方ってなかなかいないですからね。


片付け後(写真:柴田さん提供)

落合:ごみ屋敷のレベルを100だとすると、3もいかないぐらい。かなりキレイな状態です。いろんな住人の方にお会いしますけど、ごみ屋敷に住んでいる方はけっこうビックリすることがあります。

例えば定期的に依頼してくる“常連さん”みたいな人。その方は僕らみたいな仕事があるとわかって「より片付けなくていいんだ」と思ったのか、片付けてキレイになったら2年後にまた依頼してくる。しかも、お客さま精神が強くて「仕事、作っときましたから」っていうスタンスなんです。

そういうのを見ると、やっぱりただ掃除して帰るだけじゃなくて、ちゃんとコミュニケーションを取って再発を防止しないとダメなんじゃないかと思いますね。極端な話、「ごみ屋敷清掃」がなくなっていくことが僕らにとっても理想なので。

柴田:強気な方はけっこういますね。僕がひどい悪臭がするドロドロになったキッチンの前を片付けていたら、後ろで住人の方が見ていて「うわ、よくそんなことできますね」って言ってきたり。意外と当事者意識がないのか、「僕ならできないですけど」みたいなテンションなんですよ。

落合:ごみ屋敷の住人の方は客観的に見てるか、本当にずっと「すいません」って言ってる人か、どっちかにわかれる気はしますね。

柴田:あと、引っ越しする方は環境が変わってごみ屋敷から抜け出すきっかけがあるけれど、片付けた場所にまた住む人は職場を変えるとかしないと再発する可能性が高いと思います。やっぱり生活リズムを変えないと切り替えが難しいんでしょうね。

――本の中に“住人の方とコミュニケーションを取ることで作業がスムーズになる”とあったのも印象的でした。そこはお笑い芸人であることが生きているのでしょうか。

落合:もともと片付け、不用品回収、遺品整理みたいな仕事って「現場で人とコミュニケーションを取る」って業界じゃないんですよ。だから、僕ら芸人が入っていちばん重宝されるのって、やっぱり対人関係なんですよね。

本当に必要な物と必要じゃない物、本人が要る物と要らない物って、また違うじゃないですか。そこのバランスをちゃんと見て話ができるのは芸人だからかなと。芸人はお客さんの顔を見ながらやりますからね。

柴田:僕はちょっと笑いをとりにいこうとしちゃうんですよ。例えば左側にしか動かなくなった赤べこがあって、「どうしよう?」とかって話してるときに「これ、(ビート)たけしさんみたいになってますね」って言ったら無視されて。その後、すぐ要らない袋に投げ込まれたことがあります(笑)。まぁ結果、よかったのかなと思いますけど。


柴田賢佑(しばた・けんすけ)/1985年北海道生まれ。7歳からアイスホッケーを始め大学時代まで選手として活躍。20歳で芸人を目指し上京し、2007年に柳沢太郎とお笑いコンビ「六六三六(ろくろくさんじゅうろく)」を結成。芸人として活動する一方で、2016年から遺品整理やごみ屋敷の片付けなどを行う会社に勤務。2024年に落合隆治と新会社「お片付けブラザーズ」を設立。関東を中心に、片付けの手伝いやリユースサポート、発信などを行っている。12/1にふじさわ宿交流館にて「 太田プロ若手芸人爆笑ライブinふじさわ宿交流館」の出演が控えている。※観覧希望者はHPを参照。(写真:編集部撮影)

落合:もう1つ、「身元がちゃんとしてる」っていうのも僕ら芸人の売りではありますね。不用品回収とか遺品整理の業者さんはいっぱいありますけど、しっかり人が担保されてる業者って少ないと思うんですよ。お客さんからしたら「誰が家に入るかわからない」って状況なので、そこは「本当に安心してください」っていうのはあります。

柴田:ネット検索すればすぐ顔が出てくる芸人だからこそ、「絶対に変なことはしませんよ」っていうね。そこは芸人であることが生きていると思います。

悲惨だったゴキブリの現場

――いろんなごみ屋敷があると思いますが、お2人が「二度と行きたくない」と感じたのはどんな現場ですか?

柴田:僕は本に書いた7つのカテゴリー(「生屋敷」「弁当がら屋敷」「紙屋敷」「尿ペ屋敷」「犬猫屋敷」「エロ屋敷」「物屋敷」)のどれが嫌っていうよりも、とにかくゴキブリがいるところがダメです。地元の北海道にいた頃は、「殺虫剤のCMでしかゴキブリを知らない」ってぐらい、ゴキブリがまったくいなかったので。

不気味なBGMが流れる中、ゴキブリの影に驚いた人間が殺虫剤を噴射するCMを見て「……東京には悪魔みたいな虫がいるんだ」と思っていました。実際に上京してみたら、その想像を超えてきたので余計ダメになって。それでも清掃業を続けたのは生活を考えてのことです。結婚して子どもも生まれるって時期だったから、とにかく必死でした。

落合:最初のほうってバイトは運び役が多くて。3年ぐらいやってから家の中を任されるようになるので、それもよかったかもね。僕は北関東(茨城)の山の中で育ったから免疫はあったのですが、それでもいちばん嫌だったのはゴキブリの現場です。


落合隆治(おちあい・りゅうじ)/1985年茨城県生まれ。高校時代に牧野太祐と出会い、大学進学を目的に上京。2009年に正式にお笑いコンビ「ぐりんぴーす」を結成し、『電波少年2010』(第2日本テレビ)をはじめ、『有吉の壁』(日本テレビ系)や『千鳥のクセスゴ!』(フジテレビ系)などバラエティーで活躍。柴田賢佑からの誘いで同じ清掃会社で働き、2024年に共同で「お片付けブラザーズ」を設立。11/29に新宿Fu-で「太田プロ愛ライブ」という超若手からベテランまで太田プロの今が見られるライブが控えている。(写真:編集部撮影)

そこはマンションの隣部屋の方から「ゴキブリがすごい」とクレームが入って依頼がきたワンルームのごみ屋敷で、ゴキブリを外に出さないように“玄関で殺虫剤を噴射し続ける”ってだけの役回りを1人つけなきゃいけなくて。僕も初めてだったんですけど、ドアを開けるとゴキブリが出てきちゃうぐらいひどかったんですよ。

もちろん部屋の中にもゴキブリはめちゃくちゃいて、片付けるたびにどんどん別の物陰に隠れていく。最終的に何もなくなって、どこにも隠れ場所がないって状態になってから作業員がバーッと噴射するんですけど、殺虫剤って即効性はないじゃないですか。

大小2000匹ぐらいのゴキブリの集団が最後の力を振り絞って天井に逃げて、1分後に雨みたいにバタバタバタバタっと一斉に降ってきたんですよ。あれは強烈な光景でした。

マシンガンズ滝沢さんからの金言

――それはすごい……! こういうエピソードも滝沢さんが“ごみ清掃芸人”として活動していたことで自信を持って発信できる、という部分もあるのでしょうか。

柴田:僕は滝沢さんがいなかったら、絶対今もただのバイト生活を送ってるんですよ。本を出せたのもそうだし、こうやって取材していただいてるのも滝沢さんのトークイベントに呼んでもらったおかげだし。

僕らのコンビって月1回しかライブをやってなくて、もう完全にお笑いから外れかけていたんですよ。それを滝沢さんに首の皮一枚をつないでもらった。もう頭が上がらないし、僕にとってのお師匠です。

落合:僕ももう40歳なので、いろんなことを考えるじゃないですか。そんなときに滝沢さんが「芸人を辞める理由よりも、やれる理由を探したほうがいいよ。そのために前向きに進んだほうがいい」みたいなことを言ってくれて救われたというか。


ぐりんぴーすとしてネタを披露する落合さん(写真:太田プロ提供)

それこそ「片付けの団体とか作ってみたらどう? それがお笑いに還元されることもあるし、お笑いがその仕事に還元されることもある。どっちか1つじゃないから」って具体的なアドバイスもいただいたりして心強かったのはありますね。

今もごみ清掃の会社にはお世話になっているのですが、滝沢さんのアドバイスがきっかけで、それとは別に芸人だけの「お片付けブラザーズ」という団体を立ち上げました。

柴田:パワーポイントを使って講演やるのって、僕としてはピンネタに近い感覚なんですよ。コンビではネタを作ってなかったから、ごみ屋敷清掃芸人として考えている今がすごく楽しい。それも含めて滝沢さんに感謝しています。

夢は海外遠征、若手をサポートしたい

落合:ただ、去年の『THE SECOND』でマシンガンズさんが準優勝したときは「そんなことある!?」って思いましたよ。ちょっとカッコよすぎるというか。

柴田:僕は「滝沢さんの背中を追いかけよう」と思っていたから、「もうネタやんなくていいんだ」って決め込んでいたんですよ。そしたら『THE SECOND』でボーンっていったじゃないですか。「ネタやんなきゃダメじゃん……」って思って(笑)。だから、今はちゃんとネタも作って頑張ってます。

落合:僕も滝沢さんの活躍にはめちゃくちゃ刺激受けてます。最近は、相方の牧野(太祐)がパスタを鼻からすすって口から出す「鼻パスタ」をやったり、芸が荒れてますけど(笑)。でも、もう1回修正して『THE SECOND』で結果残したいですね。

柴田:今年はありがたいことに本を出せたので、当面の目標は「お片付けブラザーズ」の仕事を軌道に乗せたいなと。住人の方々のインタビューを含めて、ごみ屋敷に関するデータを取ったうえで、再発防止に向けて市区町村にアプローチできればと考えてます。

あと、ゆくゆくは海外のごみ屋敷を見たいし、片付けたい。「処理はどうする?」って部分も含めてやってみて、それを本にまとめるのが今の夢ですね。

落合:僕は、柴田とは別の意味で「お片付けブラザーズ」を広げていきたいなって。芸人って普通に「明日ここに行って」みたいな仕事があって、うまくバイトのスケジュールが組めなかったりするんですよ。僕自身も若手時代にいちばん苦しんだのがバイトだったから、今の若手が働ける場所を提供してあげられないかなと思ってます。

「この若手に会いたい」ってニーズがあるならありがたいし、若手のバイト同士で「休みます」「僕が行きます」ってコミュニケーションが取れれば活動しやすいんじゃないかっていう。芸人がお笑いに集中できる場所として、この団体を大きくしていけたら最高ですね。


柴田さんと落合さん(写真:編集部撮影)

(鈴木 旭 : ライター/お笑い研究家)