「わかりやすさが薄い」映画『ラストマイル』が大ヒットした、意外な理由
『アンナチュラル』、『MIU404』と世界線を共有
8月23日に公開した映画『ラストマイル』で話題となった「シェアード・ユニバース」。今後、日本のエンタメ業界でブームが到来するかもしれません。
『ラストマイル』は珍しい特徴的な要素で公開前から話題を呼び、興行収入が50億円を突破し大ヒットしました。
その特徴とは2018年のドラマ『アンナチュラル』、2020年のドラマ『MIU404』(ともにTBS系)と同じ世界線を共有する物語であるということ。その手法は「シェアード・ユニバース」と呼ばれ、ドラマ2作品の主人公や仲間たちが『ラストマイル』にも登場しているということで、爆発的ヒットに繋がったのです。
一方、現在放送中のあるドラマでも「シェアード・ユニバース」的手法が採用されており、SNSを騒がせています。
そこで今回は、WEBメディアに年間・約100本寄稿するドラマ批評コラム連載を持つ筆者が、「シェアード・ユニバース」作品が増えていく可能性について考察していきます。
『ラストマイル』は“わかりやすさ”が薄い?
まずは『ラストマイル』についておさらいしておきましょう。
『ラストマイル』は流通業界最大のイベント「ブラックフライデー」を目前に、大手ショッピングサイトの段ボール箱が爆発する事件が発生し、連続爆破事件へと発展していくというストーリー。満島ひかりさん演じる主人公は巨大物流倉庫のセンター長で、この未曽有の事件に対応していきます。
本作を観ればそのおもしろさに魅了されるでしょうが、誤解を恐れずに言いますと、普通ならこの設定の映画が数多くの観客を動員することは難しかったのではないでしょうか。
主な理由は主人公の仕事内容や肩書きにあります。主人公が「物流倉庫のセンター長」だと、多くの人々にあまり馴染みがないし、どういうおもしろさがあるのか伝わりにくいからです。
たとえば、凶悪犯罪を解決する物語であれば刑事を主人公にしたり、大量の死傷者が出る前代未聞の大惨事に立ち向かう物語であれば医師を主人公にしたりするのが、オーソドックスなところ。刑事や医師を視点に描くのはエンタメ作品の王道でもあるため、ジャンルとして馴染みがあるし、ストーリーにもどういう醍醐味があるかがある程度わかるので、多くの観客を呼び込みやすい。
忌憚なく言うなら、『ラストマイル』にはそういった“わかりやすさ”が薄かったのです。
過去作の人気も再燃、相乗効果が巻き起こった
そんないまいち取っ付きづらい「物流倉庫のセンター長」の映画に、公開前から多大な注目が集まり、多くの観客を動員できた要因として、「シェアード・ユニバース」がありました。
石原さとみさん演じる法医解剖医が主人公の『アンナチュラル』。綾野剛さんと星野源さんのダブル主演で機動捜査隊の刑事が主人公の『MIU404』。この人気ドラマ2作品の主人公や仲間たちが『ラストマイル』にも登場するということで、両作のファンが公開前から沸き立っていたのです。
『ラストマイル』オリジナルキャラとその2作品のキャラが絡む姿が観られるだけでなく、『アンナチュラル』と『MIU404』のキャラが共演するシーンもあり、ファン垂涎のお祭り的な醍醐味がありました。
ちなみに、『アンナチュラル』と『MIU404』の人気が『ラストマイル』の起爆剤になったのは間違いありませんが、過去のヒットドラマが新作映画のダシに使われたというだけではなく、このドラマ2作品にも恩恵があったのも注目したいところ。
『ラストマイル』と同じ世界線の物語であるということで、動画配信サービスで『アンナチュラル』と『MIU404』の再生回数が急上昇したのです。言うまでもなく数年前のドラマがなんのきっかけもなく再注目されることはあまりないわけで、劇場で『ラストマイル』を観に行く前の予習、もしくは『ラストマイル』を観た後の復習としてドラマ2作品が視聴されたのでしょう。
つまり、『ラストマイル』が背中を押してもらっただけでなく、ドラマ側にもメリットがあり、相乗効果が巻き起こっていたということです。
後編【映画『ラストマイル』の大ヒットの理由は、『SPEC』『君の名は。』との意外な共通点にあった…!】では、『ラストマイル』と人気ドラマの共通点について解説していきます。