「独裁」「復讐」公言のトランプ氏、強権的な政治手法否定せず…忠臣集め独善的に政策推進か
トランプ復権<1>
米共和党のトランプ前大統領が復権する。
1月発足の次期政権を展望する。
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「国民との約束を守るため、誰にも邪魔はさせない」
6日未明に行った勝利演説で、トランプ氏は高らかに「米国の黄金時代」の到来を宣言した。
選挙戦を通じ、トランプ氏は様々な約束を口にしてきた。その一つに「1日だけの独裁者」がある。
昨年、保守系メディアのキャスターに独裁化の懸念をぶつけられた時のことだ。「それは初日を除いてだ。その後、私は独裁者ではなくなる」と応じ、強権的な政治手法をあえて否定しなかった。
メキシコとの国境の「封鎖」、不法移民の大量強制送還、バイデン政権で中断された化石燃料掘削の許可、電気自動車(EV)の義務化撤廃――。トランプ氏が就任初日に行うと言及した施策は数知れない。
直感に頼って摩擦や反発をあえて起こして注目を集め、自身の指導力をアピールする。2017年1月発足の第1次政権も、オバマ前政権の「破壊」で始まった。初日に環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱方針を発表し、医療保険制度「オバマケア」を見直す大統領令に署名した。
民主党の地盤だった「ラストベルト」の3州を奪還し、大統領の座をたぐり寄せた戦いぶりは、8年前と酷似する。
だが、第2次政権の「トランプ流」の内実は全く異なるはずだ。任期を2期8年に限る憲法の規定で、次の選挙を恐れる必要はない。今やトランプ氏は政治経験のない「アウトサイダー」ではなく、ワシントンの政治力学に通じている。
6日の演説で、政治のプロとしての自信をのぞかせたのは、同時実施の上院選で共和党が獲得した主導権に触れた時だった。
「我々は強大な権限を手に入れた」
上院は高官人事の承認権を一手に握る。政権内に忠臣を集め、独善的に政策を進めるとの見方がある。
承認人事の対象には、終身制の最高裁判事も含まれる。トランプ氏は前政権下で3人の判事を任命し、現在は9人の判事のうち6人が保守派だ。22年には女性の人工妊娠中絶の権利を認めた半世紀前の最高裁判決を覆した。司法を通じた保守政治の強化を自らの政治的遺産にする算段だ。
トランプ氏は10月に保守系メディアの取材を受けた際、左派を「内なる敵」と呼び、軍隊の出動までちらつかせた。司法省への恨みを隠さず、自らを起訴した特別検察官は「2秒でクビにする」とも言い切った。
米メディアでは政敵に対する「復讐(ふくしゅう)リスト」が出回っている。23年の退任式で「暴君、独裁者に誓いを立てない」と暗にトランプ氏を批判した元米軍制服組トップのマーク・ミリー前統合参謀本部議長は、リストに載る代表格と目される。
米国民は「独裁」や「復讐」を公言する人物に、再び強大な権限を与えた。第1次政権の元高官は「憲法や民主主義への脅威は、非常に深刻なものになる」と警告する。トランプ氏が権威主義に傾倒し、米国が変質の道を歩み始めるのか。米国内外の目がトランプ氏に注がれる。